3 / 44
キリンの気持ち
しおりを挟む
友悠は胃が痛くなった。目の前にいるのは理事長の息子。
いや、理事長の息子と言えども、よくあるような身分を笠に着るようなタイプでないのは幸いだとは思う。自分たちと同じ寮生活をしており、普段も特に差別化を図るようなこともしないし、その辺は至ってまともで普通の人だ。
何人かの生徒と付き合っていたことがあり、そっちもいける人というのは知っている。だからといってこれまたよくあるように相手に無理強いをすることもないようだ。
理事長の息子云々関係なく、見目がよく背も高く、そして勉強もできるためモテているが、それを得意がるわけでもない。
通常なら全くもって友悠の胃が痛くなる要素などない。だが。
友悠はため息をそっとついた。
同じ学年ではないから、モテている理事長の息子が少々アレな人だということは知らなかった。それなりに有名な人をほぼどんな人か知らなかったのは、友悠が同じ寮にいたとはいえ今まで中等部だったからというのもある。
よって新しく友だちになったルームメイトの幼馴染だとも知らなかったし、まさかその颯一を好きであるとも知るはずもない。
「そいつマジおかしいんだよ! とも、助けて」
そして至ってノンケである颯一がそういったアプローチに本気で怖じ気づき、思わず友悠の後ろに隠れてくるのはわからないでもないが、まさか矢面に立つことになるなんて、思いもよらなくてもおかしくないと友悠はソッと思った。
「あ、あの、馬見塚さん。ほ、ほら、そうが怖がってます、し……」
「え、ていうか俺とそうちゃんの仲を裂こうとしてるなんて、お前、敵か」
「……っ?」
なぜ、そうなる。
「まさか俺のそうちゃんが好きとかじゃないだろうな? お前そうちゃんと同じ部屋なんだろ? っまさか夜な夜な既に変なこと……?」
なぜ、そうなる……!
「いや! 俺そんな趣味ないし……! ゲイ違う……! 巻き込まないで……」
「そんな嘘、真に受けるほど俺は馬鹿じゃないぞ」
すると友悠の後ろに隠れていた颯一が「間違いなく馬鹿だろ!」と呆れている。
「そうちゃん! 酷いな、昔はあんなに俺に懐いてくっついてきてたじゃないか。風呂だって一緒に入って洗いっことかしたじゃないか」
とてつもなく冷たい視線を浴びながら、理事長の息子である渉はショックを受けたような表情を浮かべつつ、さらなる爆弾を投げてくる。
「……お前……っ、まさかあんな小さい頃からろくでもないこと考えてたんじゃないだろうな? 答えによっちゃ、お前に対する俺の見解はもっとどん底にまで落ちるからな!」
颯一は青くなりながらますます友悠の背後にギュっと隠れ、言い放つ。
「そんな、そうちゃん! いくら何でも俺だって小さい頃は純粋にそうちゃんが好きだっただけだ。ていうか友人テメェ何、俺のそうちゃんにくっついてんだよ死ね」
その爆弾による被弾は間違いなく部外者であろう友悠が浴びているような気、しかしない。
「好きに純粋も不純もあるか馬鹿! 今すぐ考えを改めろ、今すぐ! 俺は男、ムリ! それに、ともにそんな口利くな! 俺の大事な友だちなんだからな。つーか俺のって何だよ誰が俺のだよ……もう、お前が死ねよもう!」
こういったやり取りは颯一が入室してきてから、わりと頻繁に起こっている。当初、見慣れない颯一にちょっかいをかけようとしていた他の輩は、とうの昔に渉が排除している。
高校からというのが珍しい上に、颯一は一見普通っぽかったがよく見ればかわいらしい顔をしていた。背も普通だが、少々華奢なところがまたそういった輩の目に留まりやすかったのかもしれない。学校が始まるまでの暫くで、既に颯一は何度かそういったお方たちに迫られるという恐怖を味わったようだ。自分もそっちの気があるなら、多分喜んで受けるなり、断るにしても対処に慣れてはいるだろう。だが今までずっと共学で過ごしてきたまさに一般人の颯一は、ちょくちょく友悠に助けを求めてきたり泣きついたりしてきていた。
友悠が助けられる状態ならもちろんそうしてきた。だがあまりそういった場面には出くわしていなかった。
それはタイミングがどうとか怖気づいたとかそういう意味でなく、渉がどこからともなく嗅ぎつけてきて速攻でそういった輩を排除していくからだった。
颯一に対しては優しい人、いやもういっそ忠実そうでいて色々間違っている犬にも見えかねないが、渉は本来かなり男前であり、そして腕っ節も相当強いというのはわりと有名だったようだ。おかげで渉に歯向かってでも、とまで思う輩はいなかったと思われる。
気づけばある意味渉が颯一に対して相当アレであり毎回何やら、やらかしているという光景は当たり前のようになっていた。そういった渉を罵倒したり殴ったり平気でするわりに本気で怯え、友悠を頼って隠れたり逃げたりしている颯一のことも。そしてそれらの矢面に立たされ毎回何となく不憫な位置にいて胃を痛めている友悠のこともだ。
「お前、何つーか、不憫だよな」
ある時、ふと別の友だちがポンと友悠の肩をたたきながら言ってきた。
「……同情してくれるなら、立ち位置変わってくれ」
「無理」
もちろん友悠は颯一が友だちとして好きだ。明るいしハキハキしているし、何よりこちらを色々頼ってくれるのはかわいらしいと思えるし嬉しい。
だがあくまでも友だちとして好きなのであり、変なことなどむしろ望んでいない。
「おい友人! お前絶対そうちゃんに何かしようと思ってるだろ。絶対許さんからな。ちょっとでも何かしてみろ、ぶっ殺す」
「馬鹿野郎! ともがそんなの考える訳ないだろうが。お前だよこの変態野郎! お前こそちょっとでも俺に妙なことしてみろ、マジ殺すからな……!」
今日も朝から絶好調だ。
「……ほんと何で……」
友悠は微妙な表情を浮かべながら遠い目になり、痛む胃をそっと抑えていた。
いや、理事長の息子と言えども、よくあるような身分を笠に着るようなタイプでないのは幸いだとは思う。自分たちと同じ寮生活をしており、普段も特に差別化を図るようなこともしないし、その辺は至ってまともで普通の人だ。
何人かの生徒と付き合っていたことがあり、そっちもいける人というのは知っている。だからといってこれまたよくあるように相手に無理強いをすることもないようだ。
理事長の息子云々関係なく、見目がよく背も高く、そして勉強もできるためモテているが、それを得意がるわけでもない。
通常なら全くもって友悠の胃が痛くなる要素などない。だが。
友悠はため息をそっとついた。
同じ学年ではないから、モテている理事長の息子が少々アレな人だということは知らなかった。それなりに有名な人をほぼどんな人か知らなかったのは、友悠が同じ寮にいたとはいえ今まで中等部だったからというのもある。
よって新しく友だちになったルームメイトの幼馴染だとも知らなかったし、まさかその颯一を好きであるとも知るはずもない。
「そいつマジおかしいんだよ! とも、助けて」
そして至ってノンケである颯一がそういったアプローチに本気で怖じ気づき、思わず友悠の後ろに隠れてくるのはわからないでもないが、まさか矢面に立つことになるなんて、思いもよらなくてもおかしくないと友悠はソッと思った。
「あ、あの、馬見塚さん。ほ、ほら、そうが怖がってます、し……」
「え、ていうか俺とそうちゃんの仲を裂こうとしてるなんて、お前、敵か」
「……っ?」
なぜ、そうなる。
「まさか俺のそうちゃんが好きとかじゃないだろうな? お前そうちゃんと同じ部屋なんだろ? っまさか夜な夜な既に変なこと……?」
なぜ、そうなる……!
「いや! 俺そんな趣味ないし……! ゲイ違う……! 巻き込まないで……」
「そんな嘘、真に受けるほど俺は馬鹿じゃないぞ」
すると友悠の後ろに隠れていた颯一が「間違いなく馬鹿だろ!」と呆れている。
「そうちゃん! 酷いな、昔はあんなに俺に懐いてくっついてきてたじゃないか。風呂だって一緒に入って洗いっことかしたじゃないか」
とてつもなく冷たい視線を浴びながら、理事長の息子である渉はショックを受けたような表情を浮かべつつ、さらなる爆弾を投げてくる。
「……お前……っ、まさかあんな小さい頃からろくでもないこと考えてたんじゃないだろうな? 答えによっちゃ、お前に対する俺の見解はもっとどん底にまで落ちるからな!」
颯一は青くなりながらますます友悠の背後にギュっと隠れ、言い放つ。
「そんな、そうちゃん! いくら何でも俺だって小さい頃は純粋にそうちゃんが好きだっただけだ。ていうか友人テメェ何、俺のそうちゃんにくっついてんだよ死ね」
その爆弾による被弾は間違いなく部外者であろう友悠が浴びているような気、しかしない。
「好きに純粋も不純もあるか馬鹿! 今すぐ考えを改めろ、今すぐ! 俺は男、ムリ! それに、ともにそんな口利くな! 俺の大事な友だちなんだからな。つーか俺のって何だよ誰が俺のだよ……もう、お前が死ねよもう!」
こういったやり取りは颯一が入室してきてから、わりと頻繁に起こっている。当初、見慣れない颯一にちょっかいをかけようとしていた他の輩は、とうの昔に渉が排除している。
高校からというのが珍しい上に、颯一は一見普通っぽかったがよく見ればかわいらしい顔をしていた。背も普通だが、少々華奢なところがまたそういった輩の目に留まりやすかったのかもしれない。学校が始まるまでの暫くで、既に颯一は何度かそういったお方たちに迫られるという恐怖を味わったようだ。自分もそっちの気があるなら、多分喜んで受けるなり、断るにしても対処に慣れてはいるだろう。だが今までずっと共学で過ごしてきたまさに一般人の颯一は、ちょくちょく友悠に助けを求めてきたり泣きついたりしてきていた。
友悠が助けられる状態ならもちろんそうしてきた。だがあまりそういった場面には出くわしていなかった。
それはタイミングがどうとか怖気づいたとかそういう意味でなく、渉がどこからともなく嗅ぎつけてきて速攻でそういった輩を排除していくからだった。
颯一に対しては優しい人、いやもういっそ忠実そうでいて色々間違っている犬にも見えかねないが、渉は本来かなり男前であり、そして腕っ節も相当強いというのはわりと有名だったようだ。おかげで渉に歯向かってでも、とまで思う輩はいなかったと思われる。
気づけばある意味渉が颯一に対して相当アレであり毎回何やら、やらかしているという光景は当たり前のようになっていた。そういった渉を罵倒したり殴ったり平気でするわりに本気で怯え、友悠を頼って隠れたり逃げたりしている颯一のことも。そしてそれらの矢面に立たされ毎回何となく不憫な位置にいて胃を痛めている友悠のこともだ。
「お前、何つーか、不憫だよな」
ある時、ふと別の友だちがポンと友悠の肩をたたきながら言ってきた。
「……同情してくれるなら、立ち位置変わってくれ」
「無理」
もちろん友悠は颯一が友だちとして好きだ。明るいしハキハキしているし、何よりこちらを色々頼ってくれるのはかわいらしいと思えるし嬉しい。
だがあくまでも友だちとして好きなのであり、変なことなどむしろ望んでいない。
「おい友人! お前絶対そうちゃんに何かしようと思ってるだろ。絶対許さんからな。ちょっとでも何かしてみろ、ぶっ殺す」
「馬鹿野郎! ともがそんなの考える訳ないだろうが。お前だよこの変態野郎! お前こそちょっとでも俺に妙なことしてみろ、マジ殺すからな……!」
今日も朝から絶好調だ。
「……ほんと何で……」
友悠は微妙な表情を浮かべながら遠い目になり、痛む胃をそっと抑えていた。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
義兄が溺愛してきます
ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。
その翌日からだ。
義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。
翔は恋に好意を寄せているのだった。
本人はその事を知るよしもない。
その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。
成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。
翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。
すれ違う思いは交わるのか─────。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない
ゆきりんご
BL
同性の幼馴染である美也に「僕とケッコンしよう」と告げた過去を持つ志悠。しかし小学生の時に「男が男を好きになるなんておかしい」と言われ、いじめにあう。美也に迷惑をかけないように距離を置くことにした。高校は別々になるように家から離れたところを選んだが、同じ高校に進学してしまった。それでもどうにか距離を置こうとする志悠だったが、美也の所属するバレーボール部のマネージャーになってしまう。
部員とマネージャーの、すれ違いじれじれラブ。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる