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8杯目【前編】
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夢は追い続けるものだ
そして、叶え続けるものだ
固定された未来図なんて、夢とは呼ばない
常に更新され、わくわくできるからこそ
全てを費やす価値がある
経営者は、ずっとそう信じている。
信じて、毎日ひたすらに走り続ける
不器用に何かを目指した若い頃
色んなものを傷つけ傷ついて
様々なものを蓄積してきた
そのおかげもあって
自分ひとり、そして身内だけが生きていくなら
あくせく働く必要なんて彼にはもうない
それでも誰より、命を削ってでも
走ろうと決めたのは、夢があったからだ
好きな人たちと、好きに生きていきたい
世界に眠る原石を掘り起こし、磨いていく
よい作品をさらなる価値に変えて
関わる人たちを豊かにしていくことで
きっと世界はもっと面白くなる
経営者は、様々な業界に関わり
その現状を見てきた
そして憂いていた
力があるのになお搾取される人たちも
努力もなくクレクレになる人たちも
いい加減うんざりだ
彼は思う。
全ての人に対してやさしくあろうとは
少しも思わない
ただ、自分が受けた恩を返しながら
好きな人たちと価値が循環する仕組みを
つくることで、本気で世界を変えてみたい
そのために、力を尽くしてきた
小さな積み重ねと数々の失敗をへて
ひとつのプロジェクトがやっと動き出す
原石たるクリエイターたちを集めて
世界へと広げていくための小さな一歩
大変なことだらけだろう
でも、やると決めたのだ。だから貫く
無数のメールに軽く目を通してから
いったんパソコンの画面を落とす
ふうと一息、経営者は煙草に火をつけた
苦い煙が部屋を漂っていく
関わる相手が増え、信頼値が増す一方
行き違いやトラブルも生じやすくなった
せっかく築いた関係であっても
この先で崩れることもあるだろう
「できる限り仕事はこちらで引き受けますから
どうか少し休んでください」
先ほどまで打ち合わせをしていたディレクターが
最後に発した声を思い出す
初期からついてきてくれている彼にしては
珍しい物言いだったと経営者は思う
一度言い出したら聞かない彼の性質を
初期のメンバーたちはよく知っていた
信頼があるからこそ互いにシビアで
変な労りなど不要な関係ができている
それでも声をかけずにはいられないほど
おそらく自分の顔色が悪かったのだろう
経営者は煙草をくわえたまま
洗面所へと向かった
(ああ、こりゃ言われても仕方ないか)
鏡に映る顔は血の気が引いているし
隈も隠せないほどひどくなってきている
幸い、ディレクターの気遣いのおかげで
アポをまとめて調整できた
ひさしぶりにゆっくり目の睡眠をとる時間が
ようやく経営者にも訪れた
煙草の火をもみ消して、ばしゃっと顔を洗う
『もう少し、もう少しがんばれや自分』
鏡の向こうの自分に笑みを作って
発破をかけてみる
彼なりの気持ちを切り替え方だ
睡眠に集中すべく、ベッドに転がる
目を閉じれば、あっという間に
経営者は眠りに導かれた
「ようやくお会いできますね」
夢に落ちる間際
そんな声がどこかから聞こえた気がした
そして、叶え続けるものだ
固定された未来図なんて、夢とは呼ばない
常に更新され、わくわくできるからこそ
全てを費やす価値がある
経営者は、ずっとそう信じている。
信じて、毎日ひたすらに走り続ける
不器用に何かを目指した若い頃
色んなものを傷つけ傷ついて
様々なものを蓄積してきた
そのおかげもあって
自分ひとり、そして身内だけが生きていくなら
あくせく働く必要なんて彼にはもうない
それでも誰より、命を削ってでも
走ろうと決めたのは、夢があったからだ
好きな人たちと、好きに生きていきたい
世界に眠る原石を掘り起こし、磨いていく
よい作品をさらなる価値に変えて
関わる人たちを豊かにしていくことで
きっと世界はもっと面白くなる
経営者は、様々な業界に関わり
その現状を見てきた
そして憂いていた
力があるのになお搾取される人たちも
努力もなくクレクレになる人たちも
いい加減うんざりだ
彼は思う。
全ての人に対してやさしくあろうとは
少しも思わない
ただ、自分が受けた恩を返しながら
好きな人たちと価値が循環する仕組みを
つくることで、本気で世界を変えてみたい
そのために、力を尽くしてきた
小さな積み重ねと数々の失敗をへて
ひとつのプロジェクトがやっと動き出す
原石たるクリエイターたちを集めて
世界へと広げていくための小さな一歩
大変なことだらけだろう
でも、やると決めたのだ。だから貫く
無数のメールに軽く目を通してから
いったんパソコンの画面を落とす
ふうと一息、経営者は煙草に火をつけた
苦い煙が部屋を漂っていく
関わる相手が増え、信頼値が増す一方
行き違いやトラブルも生じやすくなった
せっかく築いた関係であっても
この先で崩れることもあるだろう
「できる限り仕事はこちらで引き受けますから
どうか少し休んでください」
先ほどまで打ち合わせをしていたディレクターが
最後に発した声を思い出す
初期からついてきてくれている彼にしては
珍しい物言いだったと経営者は思う
一度言い出したら聞かない彼の性質を
初期のメンバーたちはよく知っていた
信頼があるからこそ互いにシビアで
変な労りなど不要な関係ができている
それでも声をかけずにはいられないほど
おそらく自分の顔色が悪かったのだろう
経営者は煙草をくわえたまま
洗面所へと向かった
(ああ、こりゃ言われても仕方ないか)
鏡に映る顔は血の気が引いているし
隈も隠せないほどひどくなってきている
幸い、ディレクターの気遣いのおかげで
アポをまとめて調整できた
ひさしぶりにゆっくり目の睡眠をとる時間が
ようやく経営者にも訪れた
煙草の火をもみ消して、ばしゃっと顔を洗う
『もう少し、もう少しがんばれや自分』
鏡の向こうの自分に笑みを作って
発破をかけてみる
彼なりの気持ちを切り替え方だ
睡眠に集中すべく、ベッドに転がる
目を閉じれば、あっという間に
経営者は眠りに導かれた
「ようやくお会いできますね」
夢に落ちる間際
そんな声がどこかから聞こえた気がした
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