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13.子守り
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トントン。
玄関を開けると、よく様子を見に来ては多く作りすぎたから! と食べ物をくれる魔族のイゾッタさんがいた。後ろには同じくらいの高さの三人の魔族。身長から察するにまだ子供らしい。人見知りなのかイゾッタさんの後ろでもじもじとしている。
「悪いんだけど、ちょっと預かってくれない? うちも今日から警備に出ることにしたからさ」
はい、これあんたとこの子たちの食事ね。とイゾッタさんは勝手知ったるなんとやらで、家に入ってテーブルの上にどんっと置いた。
「森の警備ですか?」
ナディヤとロイス兄さんから話は聞いている。度々、冒険者が侵入しようと森を訪れているという。朝早くから二人が出かけてしまうのも、その見回りのためだった。
「人数は多いほうがいいだろうからね。うちの子たちは好きにこき使ってくれて構わないから、面倒をみといておくれ」
「いつもお世話になっているのでそれくらいはいつでも」
話しながらもう出ていこうとするのを玄関まで見送った。
「帰りにまた迎えに来るから、頼んだよ」
忙しそうに、イゾッタさんは三人の男の子には別れも告げず出ていった。
さあこれからどうしようかと考えながら部屋に戻ると、部屋の一角に三人が集まっていた。あそこは確か……。近寄ると、やっぱり私が絵を乾かしている場所だった。そこには今、昨日かいた空の絵が三枚ほど置いてある。
「絵が気にいった?」
話しかけた途端、三人はびくっと肩を震わせた。顔を見合わせたものの、かたくなに私のほうを見ようとはしない。
「描いてみる?」
テーブルに移動して、新しい紙を広げた。そして棚に片付けておいた作ったばかりの絵具を取り出す。三人のほうを見ると、そっぽ向いたまま視線だけ私の手元を凝視していた。可愛らしい。なるべく身体で壁を作らないようにしながら準備を整えて椅子に腰掛ける。
――さて、何を描こうか。
部屋を軽く見まわして、面白いことを思いついた。筆を手に取り、三人に見守られる中、紙に筆を乗せた。
この部屋と、テーブルを囲むようにして三人の男の子が楽し気にそれぞれ紙に向かっている。
「やってみる?」
いつの間にか側に来ていた三人に紙と筆を渡して座るように促した。絵具の使い方を説明し。まずは好きに描いてみるようにと伝えてみる。
「何でもいいの?」
一番小さい子がぎゅっと筆を握りしめている。目は赤色の絵具だけを見ていて、きっとこの色を使いたいのだろうと小皿を近くに押しやった。
「行ったことのある場所でもいいし、自分で考えた風景やものでもいいし、そもそもそういうのもなしに、好きに色を重ねるだけでもいいの。描いているうちに何か思いつくかもしれないし」
真っ先に書き始めたのは質問してきた男の子。予想通り赤を取って、ぐるぐると描き始めた。
次は一番大きな、恐らくお兄ちゃんらしい子、少し考えて黒を選んだ。慎重に筆を動かしている。初めてにも関わらずどうやらこだわりが見て取れる。
そして最後が真ん中の子。この子は落ち着かなさそうに周りを見回しては、首を捻っている。
「どうかした?」
困っている様子にも見えたもののそうではなかったらしく、大きく首を振る。
「なんでもない!」
叫ぶような返答に、そっかと返す。何かあったら遠慮せずに聞いてねと、伝えて私も自分の絵に向かう。見られていては描きにくいこともあるだろうから。
しばらくして顔を上げると、。三人の男の子はそれぞれ異なる絵を描いている。一人は白と黒の濃淡だけの絵、もう一人は沢山の色を使って町中を表現している。もう一人は、筆ではなく指に絵具をつけ、何重にも色を重ねた空の絵。みんな違ってみんな楽しい。夢中になっている様子をみて安心すると、再び自分の世界に戻った。
またしばらくして、ひとまず自分の絵は描き終わったと顔をあげると、三人ともまだ一生懸命に自分の絵と向き合っていた。集中しているようで、私が席を立ったことすら気づいていないらしい。
イゾッタさんが持ってきてくれたご飯に合わせてスープを作ってみたが、夢中になっているところを邪魔するのも憚られて、きりがつくまで見守ることにした。
「できたあああああ!」
頬に絵具をつけてそう叫んだのは、最後に描き始めた真ん中の子。叫び声に驚いてあとの二人が顔をあげる。
「ティルノーノ、うるさいんだけど!」
文句を言ったのは一番小さい子。
「まだかけないのかよ。ウェスティーノ」
真ん中の子はティルノーノと言うらしい。小さい子、ウェスティーノの反応が面白いようで、挑発してみせている。
「見ろよこの俺様の完璧な絵を」
「ぼくだって上手にできたよ!」
「なんだよこれ、わけわかんねーよ」
「ティルノーノのはそのまま描いただけじゃん!」
過熱する言い争いを止めたのは、一番上の子。
「うるさいぞ、二人とも」
顔も上げず冷静なまま。まだ紙の半分以上が白いまま手つかずだが、色のついたもう半分はこだわりの詰まった絵が描かれている。
「ファビアーノに言われたくねーよ。いつまでやってんだよ」
ティルノーノの言葉を綺麗に無視している様子に、お兄ちゃんらしいなと思った次の瞬間、ティルノーノがいたっと声をあげた。どうやらテーブル越しに蹴られたらしい。
「三人とも、一回ご飯にしましょう。それからもう一回やらない?」
玄関を開けると、よく様子を見に来ては多く作りすぎたから! と食べ物をくれる魔族のイゾッタさんがいた。後ろには同じくらいの高さの三人の魔族。身長から察するにまだ子供らしい。人見知りなのかイゾッタさんの後ろでもじもじとしている。
「悪いんだけど、ちょっと預かってくれない? うちも今日から警備に出ることにしたからさ」
はい、これあんたとこの子たちの食事ね。とイゾッタさんは勝手知ったるなんとやらで、家に入ってテーブルの上にどんっと置いた。
「森の警備ですか?」
ナディヤとロイス兄さんから話は聞いている。度々、冒険者が侵入しようと森を訪れているという。朝早くから二人が出かけてしまうのも、その見回りのためだった。
「人数は多いほうがいいだろうからね。うちの子たちは好きにこき使ってくれて構わないから、面倒をみといておくれ」
「いつもお世話になっているのでそれくらいはいつでも」
話しながらもう出ていこうとするのを玄関まで見送った。
「帰りにまた迎えに来るから、頼んだよ」
忙しそうに、イゾッタさんは三人の男の子には別れも告げず出ていった。
さあこれからどうしようかと考えながら部屋に戻ると、部屋の一角に三人が集まっていた。あそこは確か……。近寄ると、やっぱり私が絵を乾かしている場所だった。そこには今、昨日かいた空の絵が三枚ほど置いてある。
「絵が気にいった?」
話しかけた途端、三人はびくっと肩を震わせた。顔を見合わせたものの、かたくなに私のほうを見ようとはしない。
「描いてみる?」
テーブルに移動して、新しい紙を広げた。そして棚に片付けておいた作ったばかりの絵具を取り出す。三人のほうを見ると、そっぽ向いたまま視線だけ私の手元を凝視していた。可愛らしい。なるべく身体で壁を作らないようにしながら準備を整えて椅子に腰掛ける。
――さて、何を描こうか。
部屋を軽く見まわして、面白いことを思いついた。筆を手に取り、三人に見守られる中、紙に筆を乗せた。
この部屋と、テーブルを囲むようにして三人の男の子が楽し気にそれぞれ紙に向かっている。
「やってみる?」
いつの間にか側に来ていた三人に紙と筆を渡して座るように促した。絵具の使い方を説明し。まずは好きに描いてみるようにと伝えてみる。
「何でもいいの?」
一番小さい子がぎゅっと筆を握りしめている。目は赤色の絵具だけを見ていて、きっとこの色を使いたいのだろうと小皿を近くに押しやった。
「行ったことのある場所でもいいし、自分で考えた風景やものでもいいし、そもそもそういうのもなしに、好きに色を重ねるだけでもいいの。描いているうちに何か思いつくかもしれないし」
真っ先に書き始めたのは質問してきた男の子。予想通り赤を取って、ぐるぐると描き始めた。
次は一番大きな、恐らくお兄ちゃんらしい子、少し考えて黒を選んだ。慎重に筆を動かしている。初めてにも関わらずどうやらこだわりが見て取れる。
そして最後が真ん中の子。この子は落ち着かなさそうに周りを見回しては、首を捻っている。
「どうかした?」
困っている様子にも見えたもののそうではなかったらしく、大きく首を振る。
「なんでもない!」
叫ぶような返答に、そっかと返す。何かあったら遠慮せずに聞いてねと、伝えて私も自分の絵に向かう。見られていては描きにくいこともあるだろうから。
しばらくして顔を上げると、。三人の男の子はそれぞれ異なる絵を描いている。一人は白と黒の濃淡だけの絵、もう一人は沢山の色を使って町中を表現している。もう一人は、筆ではなく指に絵具をつけ、何重にも色を重ねた空の絵。みんな違ってみんな楽しい。夢中になっている様子をみて安心すると、再び自分の世界に戻った。
またしばらくして、ひとまず自分の絵は描き終わったと顔をあげると、三人ともまだ一生懸命に自分の絵と向き合っていた。集中しているようで、私が席を立ったことすら気づいていないらしい。
イゾッタさんが持ってきてくれたご飯に合わせてスープを作ってみたが、夢中になっているところを邪魔するのも憚られて、きりがつくまで見守ることにした。
「できたあああああ!」
頬に絵具をつけてそう叫んだのは、最後に描き始めた真ん中の子。叫び声に驚いてあとの二人が顔をあげる。
「ティルノーノ、うるさいんだけど!」
文句を言ったのは一番小さい子。
「まだかけないのかよ。ウェスティーノ」
真ん中の子はティルノーノと言うらしい。小さい子、ウェスティーノの反応が面白いようで、挑発してみせている。
「見ろよこの俺様の完璧な絵を」
「ぼくだって上手にできたよ!」
「なんだよこれ、わけわかんねーよ」
「ティルノーノのはそのまま描いただけじゃん!」
過熱する言い争いを止めたのは、一番上の子。
「うるさいぞ、二人とも」
顔も上げず冷静なまま。まだ紙の半分以上が白いまま手つかずだが、色のついたもう半分はこだわりの詰まった絵が描かれている。
「ファビアーノに言われたくねーよ。いつまでやってんだよ」
ティルノーノの言葉を綺麗に無視している様子に、お兄ちゃんらしいなと思った次の瞬間、ティルノーノがいたっと声をあげた。どうやらテーブル越しに蹴られたらしい。
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