報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

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14.お迎え

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 出来上がっている料理を見せると、三人は言い合いを続けながらやってくる。食欲には勝てないらしい。

「それから、そろそろ名前を教えてくれないかしら?」

 もうなんとなくは知ってるけど、とは言わずに全員の前にお皿を並べながら話しかけると、ぴたっと静かになった。朝と同じように顔を見合わせて、肘でお互いをつつきあう。

「こいつが長男のファビアーノ。俺様がティルノーノでこっちが弟のウェスティーノだ」

 恥ずかしそうにしながらも名乗ってくれたことが嬉しくて頬が緩む。

「私はリラ。よろしくね」

 今度こそ自己紹介を終え、食事にする。やはり年頃の男の子だからだろうか。食いっぷりに感心していると、ぽいっと肉をお皿に投げ入れられた。

「ちゃんと食べないと大きくなれないよ?」

 ウェスティーノに小首を傾げて覗き込まれたかとおもうと、今度は葉野菜がお皿に入れられる。ご丁寧に罵倒と共に。

「バーカ、人間はちっちゃい生き物なんだって母ちゃんがいってただろ」

 そうか。私にとって魔族が大きな種族だけど、魔族にとっては私たちのほうが特別なんだ。少し新鮮な気持ちになって目の前の三人を見るとなるほど。人間と変わらなく思えた。さっきまでは『子供っぽい大人に見えるけどやっぱり子供』だったのが、『子供』になった。それにしても、まだ末っ子のウェスティーノよりはまだ身長は高いのに、追い抜くのが前提の話しぶりに魔族との違いを思い知る。それはともかくとして、

「二人ともありがとう」

 そういえば、ティルノーノとウェスティーノは照れたようにへへっと笑った。クールなファビアーノと三人、なんやかんやで仲が良いようだ。

 昼食を終えて、三人はまた絵を描き始めた。描き終われば次の紙へ。のびのびと描かれたそれを、私は窓際で乾かしていく。それから時間が過ぎるのはあっという間で、気がつけば辺りは暗くなりはじめていた。灯りをつけようと立ち上がった時、丁度玄関が開く音がする。ナディヤたちが帰って来たらしい。

「ただいまー! 帰ったわよ!」
「おかえりなさい」
 出迎えに行くと、ナディヤとロイス兄さん。それからイゾッタさんもいた。
「イゾッタさんもおかえりなさい」
「ああ、ただいま。あいつらの世話大変だっただろ。ありがとね」
「そんなことなかったですよ。三人ともお絵描きに夢中でおとなしかったですから」
「なんだい? それは」
 絵を描く文化がないのはもう分かっている。見てもらったほうが早いだろうと、中へと案内する。部屋には一心に絵に向かう子供たちの姿待っていた。家でのわんぱくな様子からは想像できない風景にイゾッタさんは目を見開いた。
「おやまぁ、この子たちがこんなにテーブルで大人しくしてるなんて初めて見たよ」
「見てあげてください。三人が描いたんですよ」
 完成した絵はどれも子供らしく、森や好きな生き物、そして家族が生き生きと描かれている。驚いた表情で絵と子供たちを見比べるイゾッタさん。
「人間ってのは面白いことを考えるもんだねぇ」
 部屋がざわついたことで集中が切れたのか、三人はイゾッタさんが帰ってきていることに気づくとわっと駆け寄った。
「おかえり!」
「ねぇ見て見て! 上手く描けてるでしょ?」
「リラに教えてもらったんだ」
「はいはい。良かったね」
 家族団欒を邪魔しないように、そっと距離を置く。
 服を着替えて戻ってきたナディヤが怪我をしているのに気づいた私に、ナディヤは黙っておけと首を振る。私は、イゾッタさんたちがまだ話に夢中になっているのを確かめて、ナディヤを別室へと引っ張っていった。
「怪我なんて、どうしたの?」
 幸い怪我は軽かったようで、すぐに治療は終わる。でも、ロイス兄さんがついているナディヤが怪我をするなんて、珍しいことだ。
「いやーなんかせこい戦い方するやつらが増えてきたのよねぇ。嫌になっちゃうわ」
「明日から私も行くよ。ほかの人たちも危ないでしょう」
「んーん、リラが出るほどじゃないからいいわ。今日のはあたしがちょっと失敗しただけよ」
 ナディヤが戦闘中に気を抜くことなんてないのに。眉を潜めると、ナディヤは誤魔化すように抱き着いてきた。
「大丈夫だって言ってるでしょ。さ、みんなのところに戻らないと心配するわよ」
「ちょっとナディヤ!」
 私の声を聞こうとしないナディヤは、涼しい顔でみんなのところに戻っていき、三兄弟がイゾッタさんに自分たちが描いた絵の説明を思い思いに語っているところに混じってしまう。
 私は抗議のタイミングを逃してしまった。
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