3 / 7
第三話
しおりを挟む
気がつくと、僕はトイレの前に立っていた。
どうしてここに?
そこは3階のトイレの前だ。
「カズキくん、早く。一番奥の個室よ。」
廊下に響く声。
校内放送と同じ声。
カシマさんだ。
僕は恐怖で後ずさりしようとしたが、体が勝手に動き出す。
まるで糸で操られる人形のように、僕の足は女子トイレへと向かっていく。
「やめて!行きたくない!」
僕は叫んだが、体は止まらない。
トイレに入り、一番奥の個室の前まで来た時、ドアがゆっくりと開いた。
トイレの個室の中が見える。
長い黒髪を垂らし、白いブラウスと白いスカートを着た女の子がいた。
おそらくカシマさんだ。
「私を見つけてくれてありがとう。」
カシマさんはそう言った。
その目は悲しみに満ちていた。
僕は言葉を失った。ユウタから聞いた話の通りだ。もし答えてしまったら……。
その瞬間、僕のズボンにあるスマホが振動を始めた。
着信しているようだ。
僕の体は、まったく自分の意志では動かない。
しかし、スマホが意志を持ったかのように、自動で電話を取った。
スマホ越しにメリーさんの声が響いた。
「私、メリーさん。あなたのうしろにいるの。………何も答えちゃダメよ!」
それだけ言って、電話が切れた。
カシマさんは、その電話を聞いているようだった。
そして、僕の方向をその悲しい目で見つめなおす。
すると、僕の体は勝手に動き出そうとしてた。
僕の口は、何かを言おうとしている。
カシマさんは、じっと僕を見つめていた。
「……ど………う………い………た……し……」
僕の口が、自分の意志とは関係なく、動く。
どういたしまして?
「だめー!!!」
僕の後ろから、突然、そんな声が聞こえた。
何か青いものが高速で突っ込んできた。
メリーさんだ。
メリーさんの声を聴いた瞬間。
僕の体は、自由を取り戻した。
メリーさんのほうを向いた。
「さあ、逃げるわよ!」
メリーさんは、僕の手を取って女子トイレから飛び出した。
トイレから出た先は、廊下だった。
廊下は、真っ赤だった。
……いや、違う。
廊下はいつもと変わっていなかった。
窓の外から差し込む光が赤いのだ。
太陽が真っ赤になっていて、夕暮れの色が赤くなっているのだ。
窓の外からは、赤一色の不気味な風景が見える。
校舎の外は、その赤い世界に覆われていて、学校の敷地より外の様子が見えない。
いや、でも。
そんなことを気にするよりも。
逃げないと!
全速力で廊下を走る。
僕の背の半分くらいのメリーさんは、まるで宙に浮くように走っている。
僕とメリーさんは、駆け足で廊下を走った。
3階の階段へと向かう。
そのまま僕は、段差を飛ばして一気に階段を下がる。
「ちょっと!」
メリーさんは、僕が先に階段を下りるのを見て、そういった。
メリーさんは、背が低いので僕のように段差を飛ばして降りられないようだ。
「わかった。乗って!」
僕は、階段を下りているメリーさんを背負った。
メリーさんは、人形のように軽い。
僕は、メリーさんを背負って階段を下りていく。
そして、1階に到着した。
階段が終わると、メリーさんは、僕の背から飛び立つのように勝手に降りた。
「こっちよ!」
メリーさんは、そういって走り始めた。
降りてきた階段から一番近い教室。
メリーさんは、一目散に1階の職員室へ駆け込む。
僕もメリーさんに続いて、職員室へ入る。
「ここまでくれば、大丈夫でしょう。」
「また、カシマさんによって3階のトイレに飛ばされるかもしれない。」
油断できない僕は、メリーさんにそう言った。
「じゃあ、カシマさんってどうやって退治すればいいのよ?」
メリーさんは、困った顔で言った。
「カシマさんの話を他の誰かにすればいい。」
僕はひらめいた。
ユウタがやったようにすればいい。
僕が他の誰かにカシマさんの話をすればいいのだ。
「どういうこと?」
メリーさんは、僕に話の催促をしてきた。
「実は…。」
僕はそこで一度、深呼吸をした。
「カシマさんの話を誰かにすると、話を聞いた人にカシマさんが現れるようになるんだ。」
「それで?」
メリーさんは、ふむふむという感じで僕の話を聞いている。
「だけど、話をした人にはカシマさんは二度と現れなくなる。つまり、話をした人は助かるんだ。」
「なるほど。わかったわ。」
メリーさんは、何かを考えたようだった。
「私にカシマさんの話をして?」
「えっ、でも。それじゃあ。」
「大丈夫。私には別に話す相手がいるの。」
メリーさんは、そういってニコッと笑った。
「わかった。そうするよ。えっと、カシマさんの話をしよう。」
僕は話を続けていった。
「まず、この学校の3階の女子トイレにカシマさんという幽霊が出るんだ。カシマさんは昔この学校の生徒だったんだけど、いじめられて……その女子トイレでいじめっ子たちに見つかって。」
僕はそこでいったん話を区切った。
メリーさんは、興味津々といった様子で話を聞いている。
「それ以来、3階の女子トイレには、カシマさんの幽霊が出るようになった。そして、カシマさんに会うと『私を見つけてくれてありがとう』って言われるんだ。でも、それに答えちゃいけない。答えると。」
「答えると?」
メリーさんは僕に聞き返してきた。
「分からない。僕も聞いてない。」
「ふーん。」
メリーさんは、それだけ言った。
そして、先ほど逃げてきた女子トイレのことを思い出しているようだった。
「それで、この話を聞いた人にはカシマさんが現れるようになるんだ。現れたカシマさんは、話を聞いた人を、とにかく3階の女子トイレ、一番奥の個室へ誘導する。えっと、これまでに起こったような感じだよ。」
僕は、ユウタから聞いた話を話し終えた。
話を終えた僕はなんだか体が軽くなった気がした。
メリーさんは考え込むような表情をしていた。
「それで話は終わり?」
メリーさんは僕に聞いてきた。
「うん。」
僕がそう言うと、メリーさんの手が光りだした。
僕が驚いたようにメリーさんの手を見る。
光が収まると、メリーさんの手にはスマホが握られていた。
メリーさんのスマホは、ピンク色の女の子が持つようなカラーデザインだ。
スマホには、カバーもしていた。
スマホを何もない空間から取り出したのは、メリーさんの能力なんだろう、と僕は思った。
「誰かに電話するの?」
僕は驚いて聞いた。
「ええ、知り合いよ。」
メリーさんはスマホを操作しながら答えた。
電話が繋がると、メリーさんは話し始めた。
「もしもし、私メリーよ。えっと、ちょっと怖い話を聞いたんだけど、聞いてくれる?」
メリーさんは僕から聞いたカシマさんの話を、電話の相手に詳しく伝え始めた。
僕は緊張しながらその様子を見守った。
「………そういうことなの。怖いでしょ?じゃあね。」
メリーさんは話を終えた。
電話を切ると、メリーさんのスマホは、ふっと消えた。
スマホをしまった、ということだろう。
スマホをしまったメリーさんは、僕に向き直った。
「これで私たちは助かったはず、よね?」
メリーさんは、僕のほうを向いてそういった。
「えっと、あの。電話の相手は?」
「さとるくん、私の都市伝説仲間よ。大丈夫。あいつは死なないから。」
メリーさんは、特に気にした様子もなく。
それだけポツリといった。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわね。」
メリーさんは、僕にそう聞いてきた。
「僕は、中村カズキ。この学校の生徒で6年1組だ。」
「私はメリーさんよ。」
僕たちは互いに自己紹介をした。
カシマさんから逃げ切ったことで、多少はゆっくりできるようになったので、僕は改めてメリーさんをじっと見た。
人形のような顔や背丈。そして、服装。
やはり、メリーさんは、あの有名な怪談のやつらしい。
「どうかしたの?カズキ。」
メリーさんは、僕へ問いかけてきた。
じっと、見つめているのが気になったらしい。
「いや、メリーさんって本当に有名なんだなぁって。」
僕は素直に思ったことを話した。
メリーさんは、少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔になって話し始めた。
「そうでしょ!私ってすごいのよ!」
メリーさんは自慢げに言った。
背が自分の半分くらいなこともあって、メリーさんは小学校低学年の子供のように見えた。
ふと、僕は職員室から外を見た。
相変わらずの赤い空だ。
外からは赤い光しか差し込まないせいで、この職員室も真っ赤な夕暮れの世界だ。
その異様な雰囲気は、今の異常さを感じさせる。
「じゃあ、連絡先でも交換しましょうか。」
メリーさんは、そう言った。
いつの間にか、メリーさんはピンクのスマホを取り出していた。
僕は頷いて、自分のスマホを取り出した。
ふと、自分のスマホを操作し始めようとして、電波状況を見た。
相変わらず電波が入っていない。
本来、学校内で電波が入ってこないはずがない。
「メリーさん、スマホの電波って、どうなってる?」
僕はメリーさんに聞いてみた。
「あっ!電波入ってこない。カズキも?」
メリーさんは、そう言ってスマホの画面を見せてきた。
スマホの画面は圏外の表示になっている。
僕はそれに頷く。
「まだ、完全にカシマさんから抜け出せていないのかな。」
僕は、呟くようにそういった。
「可能性はあるわね。あるいは………。」
メリーさんはそう言って、職員室から赤い空間と化した校庭へと続くドアへと歩いていく。
外へ出るドアは、大きなガラスとアルミの枠組みで出来ている。
ガラスからは、外にある赤い太陽や誰もいない赤い校庭の様子が見えた。
メリーさんは、ドアを動かそうとしている。
全然動く様子がない。
そこで、僕もメリーさんが格闘しているドアへ向かった。
二人で、ドアを開けようとする。
ビクともしない、とはこのことだろう。
なにか強い力で固定されているかのように、ドアは動かない。
「メリーさん、後ろに下がって!」
僕がそういうと、メリーさんは後ろに下がった。
僕は思いっきり、ドアを蹴る。
何度か蹴ってみるが、ドアはまったく変化がない。
昇降口で、僕が出入口に消火器を投げつけた時と同じだ。
「やっぱりね。」
メリーさんはそう呟く。
僕はドアへの攻撃をやめて、メリーさんの方向に振り返った。
「私たちは、この校舎に囚われちゃったのよ。」
メリーさんは、難しい表情を浮かべていた。
どうしてここに?
そこは3階のトイレの前だ。
「カズキくん、早く。一番奥の個室よ。」
廊下に響く声。
校内放送と同じ声。
カシマさんだ。
僕は恐怖で後ずさりしようとしたが、体が勝手に動き出す。
まるで糸で操られる人形のように、僕の足は女子トイレへと向かっていく。
「やめて!行きたくない!」
僕は叫んだが、体は止まらない。
トイレに入り、一番奥の個室の前まで来た時、ドアがゆっくりと開いた。
トイレの個室の中が見える。
長い黒髪を垂らし、白いブラウスと白いスカートを着た女の子がいた。
おそらくカシマさんだ。
「私を見つけてくれてありがとう。」
カシマさんはそう言った。
その目は悲しみに満ちていた。
僕は言葉を失った。ユウタから聞いた話の通りだ。もし答えてしまったら……。
その瞬間、僕のズボンにあるスマホが振動を始めた。
着信しているようだ。
僕の体は、まったく自分の意志では動かない。
しかし、スマホが意志を持ったかのように、自動で電話を取った。
スマホ越しにメリーさんの声が響いた。
「私、メリーさん。あなたのうしろにいるの。………何も答えちゃダメよ!」
それだけ言って、電話が切れた。
カシマさんは、その電話を聞いているようだった。
そして、僕の方向をその悲しい目で見つめなおす。
すると、僕の体は勝手に動き出そうとしてた。
僕の口は、何かを言おうとしている。
カシマさんは、じっと僕を見つめていた。
「……ど………う………い………た……し……」
僕の口が、自分の意志とは関係なく、動く。
どういたしまして?
「だめー!!!」
僕の後ろから、突然、そんな声が聞こえた。
何か青いものが高速で突っ込んできた。
メリーさんだ。
メリーさんの声を聴いた瞬間。
僕の体は、自由を取り戻した。
メリーさんのほうを向いた。
「さあ、逃げるわよ!」
メリーさんは、僕の手を取って女子トイレから飛び出した。
トイレから出た先は、廊下だった。
廊下は、真っ赤だった。
……いや、違う。
廊下はいつもと変わっていなかった。
窓の外から差し込む光が赤いのだ。
太陽が真っ赤になっていて、夕暮れの色が赤くなっているのだ。
窓の外からは、赤一色の不気味な風景が見える。
校舎の外は、その赤い世界に覆われていて、学校の敷地より外の様子が見えない。
いや、でも。
そんなことを気にするよりも。
逃げないと!
全速力で廊下を走る。
僕の背の半分くらいのメリーさんは、まるで宙に浮くように走っている。
僕とメリーさんは、駆け足で廊下を走った。
3階の階段へと向かう。
そのまま僕は、段差を飛ばして一気に階段を下がる。
「ちょっと!」
メリーさんは、僕が先に階段を下りるのを見て、そういった。
メリーさんは、背が低いので僕のように段差を飛ばして降りられないようだ。
「わかった。乗って!」
僕は、階段を下りているメリーさんを背負った。
メリーさんは、人形のように軽い。
僕は、メリーさんを背負って階段を下りていく。
そして、1階に到着した。
階段が終わると、メリーさんは、僕の背から飛び立つのように勝手に降りた。
「こっちよ!」
メリーさんは、そういって走り始めた。
降りてきた階段から一番近い教室。
メリーさんは、一目散に1階の職員室へ駆け込む。
僕もメリーさんに続いて、職員室へ入る。
「ここまでくれば、大丈夫でしょう。」
「また、カシマさんによって3階のトイレに飛ばされるかもしれない。」
油断できない僕は、メリーさんにそう言った。
「じゃあ、カシマさんってどうやって退治すればいいのよ?」
メリーさんは、困った顔で言った。
「カシマさんの話を他の誰かにすればいい。」
僕はひらめいた。
ユウタがやったようにすればいい。
僕が他の誰かにカシマさんの話をすればいいのだ。
「どういうこと?」
メリーさんは、僕に話の催促をしてきた。
「実は…。」
僕はそこで一度、深呼吸をした。
「カシマさんの話を誰かにすると、話を聞いた人にカシマさんが現れるようになるんだ。」
「それで?」
メリーさんは、ふむふむという感じで僕の話を聞いている。
「だけど、話をした人にはカシマさんは二度と現れなくなる。つまり、話をした人は助かるんだ。」
「なるほど。わかったわ。」
メリーさんは、何かを考えたようだった。
「私にカシマさんの話をして?」
「えっ、でも。それじゃあ。」
「大丈夫。私には別に話す相手がいるの。」
メリーさんは、そういってニコッと笑った。
「わかった。そうするよ。えっと、カシマさんの話をしよう。」
僕は話を続けていった。
「まず、この学校の3階の女子トイレにカシマさんという幽霊が出るんだ。カシマさんは昔この学校の生徒だったんだけど、いじめられて……その女子トイレでいじめっ子たちに見つかって。」
僕はそこでいったん話を区切った。
メリーさんは、興味津々といった様子で話を聞いている。
「それ以来、3階の女子トイレには、カシマさんの幽霊が出るようになった。そして、カシマさんに会うと『私を見つけてくれてありがとう』って言われるんだ。でも、それに答えちゃいけない。答えると。」
「答えると?」
メリーさんは僕に聞き返してきた。
「分からない。僕も聞いてない。」
「ふーん。」
メリーさんは、それだけ言った。
そして、先ほど逃げてきた女子トイレのことを思い出しているようだった。
「それで、この話を聞いた人にはカシマさんが現れるようになるんだ。現れたカシマさんは、話を聞いた人を、とにかく3階の女子トイレ、一番奥の個室へ誘導する。えっと、これまでに起こったような感じだよ。」
僕は、ユウタから聞いた話を話し終えた。
話を終えた僕はなんだか体が軽くなった気がした。
メリーさんは考え込むような表情をしていた。
「それで話は終わり?」
メリーさんは僕に聞いてきた。
「うん。」
僕がそう言うと、メリーさんの手が光りだした。
僕が驚いたようにメリーさんの手を見る。
光が収まると、メリーさんの手にはスマホが握られていた。
メリーさんのスマホは、ピンク色の女の子が持つようなカラーデザインだ。
スマホには、カバーもしていた。
スマホを何もない空間から取り出したのは、メリーさんの能力なんだろう、と僕は思った。
「誰かに電話するの?」
僕は驚いて聞いた。
「ええ、知り合いよ。」
メリーさんはスマホを操作しながら答えた。
電話が繋がると、メリーさんは話し始めた。
「もしもし、私メリーよ。えっと、ちょっと怖い話を聞いたんだけど、聞いてくれる?」
メリーさんは僕から聞いたカシマさんの話を、電話の相手に詳しく伝え始めた。
僕は緊張しながらその様子を見守った。
「………そういうことなの。怖いでしょ?じゃあね。」
メリーさんは話を終えた。
電話を切ると、メリーさんのスマホは、ふっと消えた。
スマホをしまった、ということだろう。
スマホをしまったメリーさんは、僕に向き直った。
「これで私たちは助かったはず、よね?」
メリーさんは、僕のほうを向いてそういった。
「えっと、あの。電話の相手は?」
「さとるくん、私の都市伝説仲間よ。大丈夫。あいつは死なないから。」
メリーさんは、特に気にした様子もなく。
それだけポツリといった。
「そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわね。」
メリーさんは、僕にそう聞いてきた。
「僕は、中村カズキ。この学校の生徒で6年1組だ。」
「私はメリーさんよ。」
僕たちは互いに自己紹介をした。
カシマさんから逃げ切ったことで、多少はゆっくりできるようになったので、僕は改めてメリーさんをじっと見た。
人形のような顔や背丈。そして、服装。
やはり、メリーさんは、あの有名な怪談のやつらしい。
「どうかしたの?カズキ。」
メリーさんは、僕へ問いかけてきた。
じっと、見つめているのが気になったらしい。
「いや、メリーさんって本当に有名なんだなぁって。」
僕は素直に思ったことを話した。
メリーさんは、少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔になって話し始めた。
「そうでしょ!私ってすごいのよ!」
メリーさんは自慢げに言った。
背が自分の半分くらいなこともあって、メリーさんは小学校低学年の子供のように見えた。
ふと、僕は職員室から外を見た。
相変わらずの赤い空だ。
外からは赤い光しか差し込まないせいで、この職員室も真っ赤な夕暮れの世界だ。
その異様な雰囲気は、今の異常さを感じさせる。
「じゃあ、連絡先でも交換しましょうか。」
メリーさんは、そう言った。
いつの間にか、メリーさんはピンクのスマホを取り出していた。
僕は頷いて、自分のスマホを取り出した。
ふと、自分のスマホを操作し始めようとして、電波状況を見た。
相変わらず電波が入っていない。
本来、学校内で電波が入ってこないはずがない。
「メリーさん、スマホの電波って、どうなってる?」
僕はメリーさんに聞いてみた。
「あっ!電波入ってこない。カズキも?」
メリーさんは、そう言ってスマホの画面を見せてきた。
スマホの画面は圏外の表示になっている。
僕はそれに頷く。
「まだ、完全にカシマさんから抜け出せていないのかな。」
僕は、呟くようにそういった。
「可能性はあるわね。あるいは………。」
メリーさんはそう言って、職員室から赤い空間と化した校庭へと続くドアへと歩いていく。
外へ出るドアは、大きなガラスとアルミの枠組みで出来ている。
ガラスからは、外にある赤い太陽や誰もいない赤い校庭の様子が見えた。
メリーさんは、ドアを動かそうとしている。
全然動く様子がない。
そこで、僕もメリーさんが格闘しているドアへ向かった。
二人で、ドアを開けようとする。
ビクともしない、とはこのことだろう。
なにか強い力で固定されているかのように、ドアは動かない。
「メリーさん、後ろに下がって!」
僕がそういうと、メリーさんは後ろに下がった。
僕は思いっきり、ドアを蹴る。
何度か蹴ってみるが、ドアはまったく変化がない。
昇降口で、僕が出入口に消火器を投げつけた時と同じだ。
「やっぱりね。」
メリーさんはそう呟く。
僕はドアへの攻撃をやめて、メリーさんの方向に振り返った。
「私たちは、この校舎に囚われちゃったのよ。」
メリーさんは、難しい表情を浮かべていた。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない
セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。
しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。
高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。
パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。
※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ダルマさんが消えた
猫町氷柱
ホラー
ダルマさんが転んだの裏側には隠された都市伝説があった。都市伝説実践配信者の頬月 唯は実際に検証しその日を境に姿をくらましてしまう。一体彼女の身に何が起きたのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる