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第四章 中等部

第57話 温泉対スピード

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「馬車道を、盛り土の上に整備し、上下線まで造った」
 なぜかシンは、シュワード伯爵の使者と話し会いの最中。

 シンが提案をしたのは、昔この大陸にあった技術。
 駅馬車。
 金属製のレールの上、馬車が線路の上を走っていた。
 もう少しすれば、蒸気機関などが出来て発展をしたかもしれない。

 だが、そこでやっかいなのが、この世界に組み込まれた保護システム。
 急激に魔獣が駆逐されてバランスが崩れてしまうと、魔物に対して保護プログラムが発動してしまう。強個体が生まれ、それは必要以上に増えた種族、つまりこの場合人を駆逐しようとする。

 そう、この世界で文明が妙に後退をしているのは、それのせいだろう。

 種族間の調和と言えば良いだろうが、それは、満遍なく歩みを止める。
 今回、イングヴァル帝国で予想外に起こった進化は、星にどのような影響を与えるのか…… 誰も知らない。知っているだろう、神はまだ寝ている……

「そして一般道とは、橋を造り道を分ける」
 予定の絵図を指し示しながら、基本的構想を使者に教えていく。

「なるほど、なるほど。そしたら、このキャンプサイトというのは?」
「これは、何処ででも火を使われないための工夫だ。やはり火事というのは怖い。飲用の水場とこの竈はくっ付けて設置。作った料理を自分たちのテントへ運ぶように徹底させる。無論テントの場所は、この竈群からは距離を取るように。そして一カ所に来させないように竈は、テントサイトを挟む形で二箇所以上作る。こうすれば、近い方に分散をするだろう」
 なるほどと、簡単な絵図を眺めて、使者であるヘーパイトスは納得をする。

「後は、店では特産物を考えろ。ここでしか手に入らぬものが良い。それが流行れば、それを目的に来る者がきっとできる」
「それはどのような?」
 そく質問に、シンは少し呆れる。

「簡単にマネができぬ物。食い物ならば日持ちがしないもの」
「なるほど。ここに来ないと、食せ無いとあれば人は来ますね。例えばどのような?」
 この男、人当たりは良いが、すべてを人に頼ろうとするのはどうだ?

「地の物で他で取れない物を探せ。それをりょうれば良いだろう」
 料るというのは、獣や魚などを捕らえ、工夫をしてごちそうとする意味を持つ。
「ほう。そうですな」
 意図した事を感じたのか、やっと帰るようだ。

 上級店舗と中級。これを貴族と商人。
 低級でも絶対に個室とする。これを民向けと、一部の探索者向け。
「広間での雑魚寝は犯罪に繋がるねえ。そこまで気にするほどのものかね」
 この世界、安宿は雑魚寝。
 当然朝起きたら腹にくくりつけた金子が無くなっていたりと言うことは日常茶飯事にちじょうさはんじ。これはよくあるという意味。毎日の食事くらい普通という意味。

 後はテントサイト。
 ふむ。

「これに少し味付けをして、奥方に報告をしましょう」
 ヘーパイトスは知らなかった。
 シンには絶えず王国の間者と、奥方アウロラの間者がくっ付いていることを……


「このような形で、客の身分をすべて網羅できます。無論価格の面でも……」
「それで、名物はどうなった?」
「はぃ?」
「シン殿から、案を貰い。名物を探しておったのではないのか?」
「いやはい。どうしてそれを?」
「貴様の身はどうでもよいが、情報は貴重。当然周りに護衛を配置するであろうが」
 奥方は冷たい目を向ける。

 やっと理解をする。
 会話の内容はすでに知られていた。
 つまり、自分の発見や開発はこの説明に一つも入っていないことを、すでに知られている……

「どのような物が良いでしょう?」
 意外とめげないようだ。

「さがせ。己の手足、目と耳を用いて……」
「はい」
 そこで何かを言えば、使わないなら要らぬなと、手足をもがれる様な気迫が、アウロラ様から伝わる。

 その後地元を回り、魚醤の魚が捕れない山間部。川魚や代わりに使った醤を発見。その他に、マメを使用した豆しょうを発見。
 それと、未醤と呼ばれる発酵途中の物を使い、地産の名物を作り始めてゆく。

 意外とそれは上手く行った。その香ばしくも食欲をそそる焼き物は、この宿場の名物となっていく。


 そして噂が広がり、スピードが命の商人達は、シュワード伯爵領を再び利用し始めた。
 そして、奥方の方策は上手くいく。
 『この街道を利用する者は、通行税を免除』と書かれた看板を掲示。
 だが道中、宿泊等は必要。
 荷物預かりや、施設利用料がかかる。

 そう…… 利用者は気が付かなかったが、税収は上がっていた。
 人知れず税金を取る。
 税と名乗らない税金。隠密税とも言える。

 奥方は、伯爵の前で高笑いをすることになる。
「わたくしには別に役職もありませんが、税収が倍とか? 高い給金を取っている周りの者達のこと、今少しお考えになっては?」
 伯爵はぐぬぬとなる。

 元々、武の家系。
 脳筋が多い。
「うらぁ」とやれば、何とかなるだろうとか、「そこはエイヤと返せば良いだろう」とか……
 そんな謎の会議で、今まで方策が決まっていた。

 一方、この世の春がいきなり減収へと落ち込んだ者が居る。
 そう、温泉を前面に押し出していた、ナルゴー侯爵家。
 安泰だと思っていた決算書が、いきなり下降した。

「なぜだ、これは?」
「例の、シュワード伯爵領が造った街道のためです。元々、我が領は標高が高く。利用者が少なかったのです。商人達はこぞって向こうへ行きました。いえ戻りました。向こうでは、通行税も免除だとか?」
「通行税を取っていない? それでどうやって……」
「さあっ? やり手の奥方が計画をしたそうです。噂では、なぜか税収は上がったようですよ?」
 うぬぬ。と侯爵は腕組みをする。

 なんとかせねば。
 そう侯爵家と言っても、王国に対して何も貢献がなければ立場はなく、降格もありえる。
 現王は、意外としたたかで、やり手と名高い。

 こうして、侯爵家と伯爵家の静かな戦いが幕を開けた。


「このお団子とか、五平餅美味しいですね」
 試食用にやって来た、モチ類。
 実際の宿泊街では、つるっと食べられる麺類が大人気のようだ。
 他にも旅の必需品、燻製や干し肉も、未醬つまり味噌味だったり市販品とは一風変わっており、美味いと人気のようだ。

 五平餅とは、米を半殺しにして平べったい木の板に張り付け、砂糖や醤油、酒、みりん、クルミを入れた味噌をつけて焼く。
 長野県辺りで、お焼きと共に食べられる。
 
 この世界を創った女神。その上位の神は、長野県民と高知県民のハーフで子どもの頃、長野県それも天竜峡辺りでうろうろしていたらしい。

 そして、以外と人気だったのがイナゴの佃煮とか蜂の子。
 使者であるヘーパイトスは、毟られないように、頑張ったようだ。
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