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39.二人きりの空間は
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居心地が悪い。
馬車に乗ったはいいけれど、この空間で二人っきりというのがツラいよ。それに一番の問題は。
私は、デートをした事がない。
これ、誘っておいて不味いよね。だから、この数日間ずっと私なりには考えてみた。でも、此処にはカラオケや遊園地がない。ついでに水族館や動物園もない。
そもそも街になんて決まった場所しか行かなかったので流行りが分からない。
出だしから終わった。
「気分が悪いのか?」
「え? あ、違います」
自分は、いつの間にか腕を組みうんうん唸っていたようだ。問いかけるような視線が続くので少し見上げ彼に正直に伝えてみた。
「実は、デートというものが初めてで流行りが分かりません」
「流行り?」
「はい」
そうです。
「例えば今、この場所人気スポット!特にカップルにオススメ! 休憩するカフェなら、あそこのスイーツとっても美味しい!みたいなものがゼロで。いやマイナスかもしれません」
言い出したのは自分なのに今回ばかりは失敗した。
「無計画ですみません」
軽く頭を下げて謝れば、沈黙しているので、そろりと顔をあげてみた。
「何で笑っているんですか?」
「ふっ失礼した」
謝ってくれても横向きながらだし。それに口の端が上がってる。思わず文句が出る。
「私、真面目に悩んでいたんですけど」
ムッとしてつい強い口調になる。
「では、今日は私の選んだ場所でよいか? 次の時は貴方にお願いしよう」
窓の縁に肘を軽く乗せこっちを見ている様子は、いつもの隙のない服装じゃないからなのか、とても表情が豊かというか柔らかい気がする。
全然冷たくない。
「あれ? 私がおかしいのかな?」
目をごしごし擦りまた彼をじっと見た。
「どうした? 擦ると赤くなる」
避ける間もなく手袋をしていない手が自分の目元に触れていた。少し乾いた手の親指が私の目尻へとなぞっていく。
「ふおっ!」
さらっと何をしてくれちゃってるの?!
「睫毛が入ったみたいで!なので大丈夫です! あ、その、嫌悪感とかじゃないで…」
思わず彼の手を払ってしまい、それが思っていた以上に強くしてしまったので焦り、きっと不愉快な気分にさせたと慌てて顔をみた。
「…だから、何で笑ってるんですか?」
また笑っている。その目が窓がら私に移り柔らかい口調で話しかける。
「からかっているわけではない。ただ、驚いた声といいつい」
そんなのフランネルさんが悪いんだよ! 確かに自分でも変な声が出たと思った。それは認める。
「わかっている。今のは、いきなり触れた私に非がある」
急にと言っておいて、頭撫でないで下さい。彼は、そのまま覗きこむように視線を絡ませてきた。この人、自分の整いすぎる顔を理解してこのような仕草をやってのけているのかな?
いや、おそらく無意識だ。なんか違う意味で怖いよ。
「今日の色は」
私の服装の水色を言っているんだろう。好きな人や恋人、夫婦などの関係だと相手の色を服装や装飾品にとりいれるのは教えてもらっていた。だけど。
「知ってはいましたけど違います。曇り空だから晴れたらいいなというのと気持ちが明るくなるかなという考えで選びました」
こんな答え方って可愛くないよね。相手に合わせて喜ばせるなら「はい。フランネルさんの色です」と言えばいいのに。
「そうか。いい色だな」
嫌な顔もせず、むしろ微笑んでいる顔になんか上から目線に感じ少しイラッとして聞いてみた。
「フランネルさんは、どうなんですか?」
私の色っていうと黒か濃い茶かな。だとするとズボンとか?
「当ててみろ」
えー。なんで間違い探しみたいな展開に。でも、服じゃないのかな。じっと観察してみるがなかなか見つからない。
「あ、腕の」
袖から少しみえたのは、レザーのブレスレットだ。シンプルな飾り気のない茶色い平らな1センチ幅くらいのものだ。見えるようにしてくれたので、それに小さな黒い丸い石が茶色の石を挟むように通してある。
「これもだ」
そう言われ、今は髪が切られて見えている耳。そこには黒に近い茶のとても小さい石がいた。
……私の色。
「うわっ」
なんか、とてつもなく恥ずかしい。つい対抗意識で言っておいて、これでは返り討ちにあったようなものだ。
「ああ、ヒイラギの国にはない風習だったか? 不快にさせたら」
「いえ、物凄く恥ずかしくて。でもちょっと嬉し…な、何でもないです!」
ああっ! だめだ! 私まで変なフランネルさんに引きずられて変になってる!
怖い! 馬車空間恐るべし!
「そんなに頭を振ると酔うぞ」
フランネルさんは、空気が読める人なの? それとも天然?
「フランネルさんのせいですよ」
恨めしげに言えば。
「ヒイラギ、外でその呼び方は変えた方がいい」
さんづけがいけないのかな。ああ、夫婦だもんね。全くそういうコミュニケーションないけど。
あ、そういえば娯楽の本にあった。
「あなた?」
首を傾げてちょっと上に向きでゆっくりと甘ったるく。
果たして私で効果があるのか分からないが、いい加減手のひらで転がされっぱなしが気にくわないので、こんなの本の中舷梯の世界だけだろうと馬鹿にしつつもやってみた。
「…フランでいい」
完全に窓に向いた顔を見て、やはりなと思いながら彼をなんとなく観察してみると耳が赤い。
なんか可愛いんですけど。
「フラン」
「なんだ」
「ただ練習しただけです」
「…そうか」
新たな呼び方が新鮮。そして、実はわたしも服は偶然だけど後ろにまとめた髪に挿している生花の綺麗な水色は、選んだんだよと口にはださず心の中で呟いた。
馬車に乗ったはいいけれど、この空間で二人っきりというのがツラいよ。それに一番の問題は。
私は、デートをした事がない。
これ、誘っておいて不味いよね。だから、この数日間ずっと私なりには考えてみた。でも、此処にはカラオケや遊園地がない。ついでに水族館や動物園もない。
そもそも街になんて決まった場所しか行かなかったので流行りが分からない。
出だしから終わった。
「気分が悪いのか?」
「え? あ、違います」
自分は、いつの間にか腕を組みうんうん唸っていたようだ。問いかけるような視線が続くので少し見上げ彼に正直に伝えてみた。
「実は、デートというものが初めてで流行りが分かりません」
「流行り?」
「はい」
そうです。
「例えば今、この場所人気スポット!特にカップルにオススメ! 休憩するカフェなら、あそこのスイーツとっても美味しい!みたいなものがゼロで。いやマイナスかもしれません」
言い出したのは自分なのに今回ばかりは失敗した。
「無計画ですみません」
軽く頭を下げて謝れば、沈黙しているので、そろりと顔をあげてみた。
「何で笑っているんですか?」
「ふっ失礼した」
謝ってくれても横向きながらだし。それに口の端が上がってる。思わず文句が出る。
「私、真面目に悩んでいたんですけど」
ムッとしてつい強い口調になる。
「では、今日は私の選んだ場所でよいか? 次の時は貴方にお願いしよう」
窓の縁に肘を軽く乗せこっちを見ている様子は、いつもの隙のない服装じゃないからなのか、とても表情が豊かというか柔らかい気がする。
全然冷たくない。
「あれ? 私がおかしいのかな?」
目をごしごし擦りまた彼をじっと見た。
「どうした? 擦ると赤くなる」
避ける間もなく手袋をしていない手が自分の目元に触れていた。少し乾いた手の親指が私の目尻へとなぞっていく。
「ふおっ!」
さらっと何をしてくれちゃってるの?!
「睫毛が入ったみたいで!なので大丈夫です! あ、その、嫌悪感とかじゃないで…」
思わず彼の手を払ってしまい、それが思っていた以上に強くしてしまったので焦り、きっと不愉快な気分にさせたと慌てて顔をみた。
「…だから、何で笑ってるんですか?」
また笑っている。その目が窓がら私に移り柔らかい口調で話しかける。
「からかっているわけではない。ただ、驚いた声といいつい」
そんなのフランネルさんが悪いんだよ! 確かに自分でも変な声が出たと思った。それは認める。
「わかっている。今のは、いきなり触れた私に非がある」
急にと言っておいて、頭撫でないで下さい。彼は、そのまま覗きこむように視線を絡ませてきた。この人、自分の整いすぎる顔を理解してこのような仕草をやってのけているのかな?
いや、おそらく無意識だ。なんか違う意味で怖いよ。
「今日の色は」
私の服装の水色を言っているんだろう。好きな人や恋人、夫婦などの関係だと相手の色を服装や装飾品にとりいれるのは教えてもらっていた。だけど。
「知ってはいましたけど違います。曇り空だから晴れたらいいなというのと気持ちが明るくなるかなという考えで選びました」
こんな答え方って可愛くないよね。相手に合わせて喜ばせるなら「はい。フランネルさんの色です」と言えばいいのに。
「そうか。いい色だな」
嫌な顔もせず、むしろ微笑んでいる顔になんか上から目線に感じ少しイラッとして聞いてみた。
「フランネルさんは、どうなんですか?」
私の色っていうと黒か濃い茶かな。だとするとズボンとか?
「当ててみろ」
えー。なんで間違い探しみたいな展開に。でも、服じゃないのかな。じっと観察してみるがなかなか見つからない。
「あ、腕の」
袖から少しみえたのは、レザーのブレスレットだ。シンプルな飾り気のない茶色い平らな1センチ幅くらいのものだ。見えるようにしてくれたので、それに小さな黒い丸い石が茶色の石を挟むように通してある。
「これもだ」
そう言われ、今は髪が切られて見えている耳。そこには黒に近い茶のとても小さい石がいた。
……私の色。
「うわっ」
なんか、とてつもなく恥ずかしい。つい対抗意識で言っておいて、これでは返り討ちにあったようなものだ。
「ああ、ヒイラギの国にはない風習だったか? 不快にさせたら」
「いえ、物凄く恥ずかしくて。でもちょっと嬉し…な、何でもないです!」
ああっ! だめだ! 私まで変なフランネルさんに引きずられて変になってる!
怖い! 馬車空間恐るべし!
「そんなに頭を振ると酔うぞ」
フランネルさんは、空気が読める人なの? それとも天然?
「フランネルさんのせいですよ」
恨めしげに言えば。
「ヒイラギ、外でその呼び方は変えた方がいい」
さんづけがいけないのかな。ああ、夫婦だもんね。全くそういうコミュニケーションないけど。
あ、そういえば娯楽の本にあった。
「あなた?」
首を傾げてちょっと上に向きでゆっくりと甘ったるく。
果たして私で効果があるのか分からないが、いい加減手のひらで転がされっぱなしが気にくわないので、こんなの本の中舷梯の世界だけだろうと馬鹿にしつつもやってみた。
「…フランでいい」
完全に窓に向いた顔を見て、やはりなと思いながら彼をなんとなく観察してみると耳が赤い。
なんか可愛いんですけど。
「フラン」
「なんだ」
「ただ練習しただけです」
「…そうか」
新たな呼び方が新鮮。そして、実はわたしも服は偶然だけど後ろにまとめた髪に挿している生花の綺麗な水色は、選んだんだよと口にはださず心の中で呟いた。
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