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朱に滲む黒

【5】 (※)

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血成分多めですm(_ _)m

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ふわぁぁ~。。。
退屈だ。
タクの匂いが正常になってきている。
いつ目が覚めても良さそうだ。

おいちゃんにホットミルクにチェンジして貰って、なんとか隙間を作って、ちびちび飲んでる。
動く度に締まるのには辟易した。寝てるんじゃないのか?!
おいちゃんにはバカ受けだったが。

「タクぅ~、オレ帰りたい」
我慢出来ずに声をかける。

モソっと動いたかと思うと、パチっと目が開いた。
現れた瞳を見つめた。綺麗な色してんなぁ。見惚れてた。

下から身体を反らせて見上げていたら、焦点がバッチリ合った。

「帰ろ?」

「おぅ」

短い返事だが、いつもの力強さを感じる。

オレは疲れたから、タクに抱っこして貰ってる。うん。これ自然。
オレめっちゃ甘えたくなってます。
子供たちも旅立って、オレたちの時間。所謂、新婚生活スタートなんですよ。

今、気づいたんだけどね!

タクが礼儀正しくお礼言ってる。
オレは楽しかったって、ハイタッチでお別れ。タクは驚いてたけど、寝てる間にあれこれお話ししてたからね。酒もミルクに垂らして貰っちゃったもんね。いいブランデーをお持ちでした。

お姫様抱っこで、タクの首に腕を引っ掛け、自由に動く脚をパタパタと動かしていた。

なんだかワクワクする。
酔ってる訳ではないが、なんだろう。
ドキドキ、ワクワクしてる。

「タク~、これから二人っきりだぞ。何しようか? 新婚旅行でも行くか?」

もうすぐ夜が明けるかも知れない時間。
身体はとっても軽い。ワクワク、ふわふわ。

オレを抱っこしたまま屋上をポーンポーンとそぞろ歩きな感じで、移動している。駐車場まであと少し。

足が止まった。

「お? おおー、そうか!」
「タクさんたら、今頃お気づきで?」
ポーンと腕から飛び降りる。
オレだって、さっき気づいたんだけどね。それは内緒。オレが先ってのには変わらないんだし。

ニヤニヤしながら、脚をコンパスのようにして屋上の縁をぽてぽてと歩く。

一瞬風が止んだ。

「タク。オレ、お前に出会えて良かった。これから…「フード被れ!!!」

オレはタクの声に反射的にフードを被る。

タクが怖い顔で叫んでいる。
周りが明るくなってきてる。タクが白く輝いて…。

風が吹いた。
澄んだ空気の流れ…袖から出てる指がチリっと痛みが走った気がしたが、視線をそちらに向ける前にタクに掻っ攫われるように引き倒され抱え込まれた。
全てがスローモーションのように見えてたがあっという間の出来事だった。

背中から抱き込まれてる。
横倒しでビルの縁、さっきまでオレが歩いていた平均台のようなブロックの影に入るが、タクの影が真っ直ぐな影にこんもりと形がプラスされてる。大した高さじゃなかったから当たり前だ。
白い光が黒い影を伸ばしていく。

影が伸びる。

朝日に照らされてる。
夜明け。浄化される。始まりの光と風。
西の空が最後の夜を抱えて去って行こうとしている。
夜が去って、朝が来る。

去っていく夜に手を伸ばす。
夜が消える。掴めそうな気がした。
タクの影から出た手の指がツッと消えた。

「俺の影から出るな!!! 動かないでくれ! 小さく、小さく、お願いだ、じっとしてくれッ!」
腕を掴まれ、抱き込まれ身動きが取れない。

心臓が跳ねる。
なんて素晴らしいんだ。
ワクワクが止まらない。
朝日を初めて…否、朝日は見れなかった。陽光を、朝の陽光がここにある。
オレは触ったのか? あれがそうなのか?

タクの血の匂いがする。
血が溢れるように流れる腕が翳される。
嗚呼、見えないじゃないか……。

「飲めッ! 早くッ」
顔に押し付けられる。
流れ落ちてしまう。勿体無いなぁ。
啜り上げる。美味い。でも、ちょっと苦い。急に喉が乾いてきた。もっともっとと抱え込んで啜り、齧り付いた。

コンクリートに伸びる黒い影を赤く染まる視界の中、うっとりと眺めながら、喉を鳴らしてタクの血を飲む。
不思議だ。一向に乾きが治らない。
身体の末端から蒸発するようだ。

「小さく、じっと、お願いだ…」
タクの声が遠くで聞こえる。力が抜けていくようだ。
小さく、タクの影に隠れて、じっと…。ちゃんとしてるよ、タク……。
朝なんだ。一日の始まりなんだね……。綺麗だね。
赤く朱に染まる視界にも白い陽光に作り出されるくっきりとした黒い影。徐々に滲んでいく……。





『パパ』
『パパァ』
二人の声がする。

『二人ともまたお昼寝かい?』
ふわぁぁと大きくあくびをして伸びて起き上がる。

夢の世界か…。
オレは夢の中でも寝てたのか? 寝ぼすけ過ぎるだろ。

『良かった。すぐに起きて!』
『起きたじゃん。君たちはちゃんと勉強してるのかい?』
どうだ。ちょっと親っぽいだろ。

『してるよ』
『連絡したら、父が子育てしててびっくりしたよぉ』
二人がプンプン怒ってるが仔犬の姿では、可愛いしかない。

『子育て?』

『パパ自分の姿見てみなよ』
ん?
手を見たら布…うんしょと出して見る。
ん? 小さい…。
さっきからなんだか視点が低くて、身体が軽いんだが、バランスの取り方がよく分からん。
立ちたてってところか?

それに、服デカイって!

『父が言うには、朝の風と陽光からなんとか守ったんだけど、小さくって言ったからか小さくなっちゃったんだって。それが十日程前ね』

『二人っきりになった途端に何やってるんだよぉ』

『こっちで寮に入ったよ。二人部屋。ネットに繋げれる環境が出来たのが、ついさっき』

『で、二人心配してるだろうからとビデオ通話繋いだらぁ、パパが父の腕に齧り付いてウトウトしてるしぃ』

『最初は指に齧り付いてて、あっという間に手に齧り付いて、今が腕に齧り付いて吸ってるって、なんかデレデレしてたよ、父』

二匹が交互に喋ってる。
可愛い。目の高さが近くて、なんだか一緒にコロコロしたい気分だ。

『オレ、すくすく育ってるって事? タクの血で?』

『そういう事らしいね』

『起きてあげなよぉ。父は、早くパパとおしゃべりしたいんだってぇ』

『だから、起こしに来たの!』

この十日程でタッチ出来て歩ける感じ?
ん? なんだかもう走れる気分。
服もさっきよりは布から服感が出てきた?
すごい勢いでオレの身体、大きくなってないか?

『ここは最下層だから、ゆっくり上に上がってく感じで、跳び上がれば、普通の夢の階層まで行けるから』

『そこからは、夢から覚める感じで起きれるよぉ~』

『おぉ~、ありがとう。二人とも頑張って~』
下で弛んで広がってる布群を掻き集める感じで抱えると、ポーンと跳んだ。

『ゆっくりね』
『父によろしくぅ』
声が遠くなる。

パール色の空間を上っていく。
遥か彼方に月のように優しく輝く何かに向かってゆっくり浮き上がって行くように。ゆらゆらと揺らぐ光に引き寄せられる。




「エド…もう3歳ぐらいかな。もう喋れるんじゃないか? 起きてくれよ……」
頬に温もり。撫でてくれてる。
この感触はタクの手。オレの大好きな大きな手。

「蒸発したみたいに消えた身体は、一緒にくっついて来てくれたみたいでさ。キラキラ漂ってたけど今は全部お前に入ったみたいなんだが、これでいいのか?」
ほっぺを掌に押し付ける。
手の動きが一瞬止まった。
目を開くと、いつか見たクマさん飼ってるタクが覗き込んでた。バッチリ目が合う。

「タキュ、もっちょ血」
舌が上手く動かん!
「エドォォぉ~ーーーーッ」
く、苦しい……。
思いっきり抱きしめられてます。

モゾモゾと這い上がって、首に齧りついた。

血が薄い。

「なんきゃ食え。薄い」
文句言いつつ目覚めのひと飲み。

ぺろっと噛み跡を舐めてひと心地。

「分かった。なんか入れてくる。ここで待ってて」
「ちゅれてけ」
なんだその顔! デレデレしやがってキモイな!
オレの服で包まれて、抱っこ。
下にはパーカーやズボンや下着が残ってる。
周りにドリンク剤の瓶が転がってる。
なんかデジャブ感…。

「赤ん坊時代のお前って天使だな」
なんか言ってやがる。
「俺の指にチュウチュウ吸い付いて、歯が生えて来たら、手に齧り付いて。眠りながら吸ってるんだよ」

台所で冷食を物色して、電子レンジで温めてる間にヤカンで湯を沸かしてる。

いつの間にか家に帰っていてた。

夢の中で十日とか言われたなぁ。

「あれから、ずっと、こうなのか?」
タクの腕に腰掛けて、マグカップにスープの素を入れてる様子を見つつ尋ねる。
舌が上手く動き始めた。
手も動き易く腕も長くなった気がする。

「そうだな。正直時間はよく分からん。何度か寝て起きてを繰り返してるな。お前は飲み続けてる」
ふらふらと湯を注いで、その間に棒状の固形のクッキーをモソモソ食べてる。

「風呂入りたいな。寝たいし、腹も減った…」
ブツブツ言いながら、マグカップを傾けてる。
レンジが軽やかな音を立ててる。
取り出すと、次のを突っ込んだ。

テーブルについて食べ始める。
オレも腹が減って、首に齧りついて吸った。
タクが食べ終わる頃には、膝に座ってタクに凭れてうつらうつらと寝てた。

「目が覚めたからか、成長が加速した感じだな。小学生低学年ぐらいかな?」
タクの独り言を聴きながら、眠い目を擦る。ふわっと欠伸と伸び。スッポンと脱がされた。

「風呂入るぞ。で、寝る」
風呂場で湯はり完了のお知らせ音。
もうされるがまま。

「タクぅ、あとで説明してね~」
「おぅ、疲れた。あとでな」

ちんちん小せぇとか言われながら、ワシワシ洗われる。

洗濯機の音を聴きながら、ほこほこに二人とも仕上がって、ベッドに潜り込んで抱き合って眠った。
途中、タクに齧りついた気はするが、腹が減るので仕方がない。




「もうほとんど元に戻ったな。あー、エッチしとけば良かったか? 捕まるか?」
なんか言ってやがる。
脚を絡める。
ベッド抱き合って目覚めた。
目を開けるとスッキリした顔のタクがいた。
オレも喉の渇きというか、腹の減りは殆どない。

「やぁ…。んー、色々とこの度は、ご迷惑をおかけしまして……。ごめん?」

思いつくまま言葉を繋ぐ。
余裕の表情のタク。むむむ…!
唇をぶつけて、チュッとリップ音で離れる。

ぎゅっと抱きしめられました。


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