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幸せの定義なんて、所詮は自分で決めるもの
◇おまけ◇ それはきっと二人にしかわからない
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「マジでむかつく」
横井 仁愛こと仁愛は、苛立つ気持ちを隠すことなく呟くと、制服のブラウスのボタンを一つ外した。
隣で歩く級友の朋美と恵が、すぐに「あははっ、わっかるぅー」と声を上げる。
下校時間の今は、たくさんの生徒がいて騒がしい。けれどそれを上回る声の大きさで同感してくれたのは嬉しい。でも、そのリアクションちょっと軽くない?と仁愛は不満に思う。
今日は服装検査の日。仁愛の通う高校は公立だから校則は緩いと思いきや、まあまあ厳しい。ご近所さんからは「デモクラ高」と呼ばれている。
なんじゃそれと思うが、語源は大正デモクラシーからきている。そんでもって大正時代のような堅っ苦しい高校だから「デモクラ高」。
その話を入学当初に聞いた仁愛は、あまりに微妙なネーミングセンスに名付け親が誰なのか大変興味を持った。二年生になった今でも、その興味はまだ失せてない。
……っというのは、置いておいて。
とにかくデモクラ高の服装検査は厳しい。朋美は緩いパーマをかけているので当然反省文。恵はスカート丈が短くして学校指定じゃないリボンを付けていたから同じく反省文。
でも仁愛は校則違反なんてしていない。ボブの髪は真っ黒のストレート。ピアスも今日は外しているし、ネイルだって昨日のうちに落とした。スカート丈もリボンも直前に規定内に戻した。
なのに、生徒指導の先生に怒られた。あり得ないことにタトゥーをしてると冤罪をかけられ、個別で1時間も説教を受けた。これは間違いなくスクハラだ。
「ねえ、これそんなに目立つ?タトゥーに見える?私には痣にしか見えないんだけど」
鞄を持ったまま二つ目のブラウスのボタンを器用に片手で外して、仁愛は朋美と恵に鎖骨の下を見せる。
返って来たのは「んー微妙!」というまさに微妙な回答で、仁愛は苦笑する。
仁愛には生まれた時から、左胸……というより鎖骨のちょっと下、襟がつまった服でなければ見えてしまう微妙な位置に薄桃色の雪の結晶のような痣がある。
母親の証言によれば、痣は生まれた瞬間からあったそうだ。あと、大きくなればそのうち消えると判断され、今日にいたるまでずっと放置され続けていた。
まぁ仁愛としても服装検査で冤罪をかけられなければ、そのままで良いと思っている。だが、長々と説教を喰らってしまった日は「もういっそ消そうかな」なんて思ってしまったりもする。
「仁愛ぃー、気を落とすなっ。一緒に反省文書けばいいだけじゃん!」
「そうそう、3人で書けばすぐに終わるじゃん!私、今日の為にドーナツ無料券持って来たんだ!」
浮かない顔になった仁愛を励ますように、朋美と恵が肩を叩きながらそんな提案をしてくれる。
「よっしゃ、駅前のマスドに行こー」
ドーナツ無料券で完全に浮上した仁愛は、先陣切って駅に向かう。頭の中はチョコ系にするか、抹茶系にするかで忙しい。
後ろを歩く二人も同じネタで悩んでいるようで「抹茶」と「チョコ」の単語が聞こえてくる。今日はイチゴじゃないらしい。
そうして駅を目指してテクテク歩きながら仁愛がチョコ系にしようと決めた時、一人の男子生徒とすれ違った。
「ーーあ」
男子生徒が視界から消えた瞬間、仁愛の足が止まった。一拍遅れて男子生徒も足を止め、踵を返す気配がする。
「なあ、君……っ」
仁愛の行く手を阻むように前に立った男子生徒は、何かを言いかけて息を呑んだ。
それから少し間を置いて、男子生徒は再び口を開く。
「……ごめん、待った?」
「ううん。そんなには」
初対面の人からそんなことを聞かれ怪しいことこの上ないのに、仁愛はすんなりと言葉が出た。しかも笑顔で。
釣られるように男子生徒が笑う。良く見れば彼は、近所で有名な進学校の制服を着ている。頭良いんだ。ちょっと安心した。あとイケメン。マジヤバい。
などと仁愛が取り留めも無いことを考えていたらーー
「ちょっと、仁愛ぃー。いつ彼氏できたの!?」
「なになになになになになにっ、ちょ、彼氏なら紹介してよー」
と、朋美と恵が目を輝かせながら二人の間に割り込んできた。
大いなる誤解である。男子生徒とは初対面で名前も学年もわからない。他人も他人だ。
そう伝えれば良いだけなのに、なぜか否定する言葉が出てこない。なぜか”違う”と言うことに、びっくりするほど抵抗がある。
それは男子生徒も同じのようだ。まるでラクダのようにもごもご口を動かしている。おそらく口から出そうになる言葉を歯で噛み砕いているのだろう。そこそこ整った顔を台無しだ。
でもこの不思議な感覚がわからない朋美と恵は、仁愛たちは付き合い始めのバカップルにしか見えなかった。
「ごちそうさまぁー。まぁ、近いうちに紹介してー」
「反省文はあんたの分も書いといてあげるから。一つ貸しだよー」
生温い笑みを浮かべて級友想いの朋美と恵は、手を振り去っていく。
次第に小さくなっていく二人を見つめていた仁愛だが、「……あの」と男子生徒に声を掛けられた。
「ん?なあに?」
「あ……あのさ」
「うん」
「俺、浅井智也。君の名前、教えてくれる?」
ほんのり赤い顔をして尋ねた男子生徒に、仁愛は大きくうなずいてから口を開く。
「えっと私、横井仁愛。デモクラ高の二年。ねえ、浅井君は?」
「俺は旭高の三年。智也で良いよ」
「良いの?先輩なのに」
「もち、いいよ。ってか、そこ気にしないで。そのかわり俺も横井さんのこと仁愛って呼びたいんだけど」
「もちもち、いいよー」
ポンポンとトランポリンのように弾む会話が楽しくて仕方がない。
それが不思議だと仁愛と思うが、嬉しい気持ちの方が勝って智也に無邪気に笑いかける。
「なんだか私達、初めて会った気がしないねー。ねえ、こういうのって前世からのなんちゃらなのかな」
軽い気持ちで言った後、取りようによってはアレだなとちょっと恥ずかしくなる。引かれちゃったら嫌だなとかなり真剣に思った。
けれど智也は「そうかもね」と言いたげに、ふわりと笑ってくれてーー行きかう車と人のざわめき中、何かが始まる音がした。
◇◆◇◆おわり◆◇◆◇
最後までお付き合いいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
横井 仁愛こと仁愛は、苛立つ気持ちを隠すことなく呟くと、制服のブラウスのボタンを一つ外した。
隣で歩く級友の朋美と恵が、すぐに「あははっ、わっかるぅー」と声を上げる。
下校時間の今は、たくさんの生徒がいて騒がしい。けれどそれを上回る声の大きさで同感してくれたのは嬉しい。でも、そのリアクションちょっと軽くない?と仁愛は不満に思う。
今日は服装検査の日。仁愛の通う高校は公立だから校則は緩いと思いきや、まあまあ厳しい。ご近所さんからは「デモクラ高」と呼ばれている。
なんじゃそれと思うが、語源は大正デモクラシーからきている。そんでもって大正時代のような堅っ苦しい高校だから「デモクラ高」。
その話を入学当初に聞いた仁愛は、あまりに微妙なネーミングセンスに名付け親が誰なのか大変興味を持った。二年生になった今でも、その興味はまだ失せてない。
……っというのは、置いておいて。
とにかくデモクラ高の服装検査は厳しい。朋美は緩いパーマをかけているので当然反省文。恵はスカート丈が短くして学校指定じゃないリボンを付けていたから同じく反省文。
でも仁愛は校則違反なんてしていない。ボブの髪は真っ黒のストレート。ピアスも今日は外しているし、ネイルだって昨日のうちに落とした。スカート丈もリボンも直前に規定内に戻した。
なのに、生徒指導の先生に怒られた。あり得ないことにタトゥーをしてると冤罪をかけられ、個別で1時間も説教を受けた。これは間違いなくスクハラだ。
「ねえ、これそんなに目立つ?タトゥーに見える?私には痣にしか見えないんだけど」
鞄を持ったまま二つ目のブラウスのボタンを器用に片手で外して、仁愛は朋美と恵に鎖骨の下を見せる。
返って来たのは「んー微妙!」というまさに微妙な回答で、仁愛は苦笑する。
仁愛には生まれた時から、左胸……というより鎖骨のちょっと下、襟がつまった服でなければ見えてしまう微妙な位置に薄桃色の雪の結晶のような痣がある。
母親の証言によれば、痣は生まれた瞬間からあったそうだ。あと、大きくなればそのうち消えると判断され、今日にいたるまでずっと放置され続けていた。
まぁ仁愛としても服装検査で冤罪をかけられなければ、そのままで良いと思っている。だが、長々と説教を喰らってしまった日は「もういっそ消そうかな」なんて思ってしまったりもする。
「仁愛ぃー、気を落とすなっ。一緒に反省文書けばいいだけじゃん!」
「そうそう、3人で書けばすぐに終わるじゃん!私、今日の為にドーナツ無料券持って来たんだ!」
浮かない顔になった仁愛を励ますように、朋美と恵が肩を叩きながらそんな提案をしてくれる。
「よっしゃ、駅前のマスドに行こー」
ドーナツ無料券で完全に浮上した仁愛は、先陣切って駅に向かう。頭の中はチョコ系にするか、抹茶系にするかで忙しい。
後ろを歩く二人も同じネタで悩んでいるようで「抹茶」と「チョコ」の単語が聞こえてくる。今日はイチゴじゃないらしい。
そうして駅を目指してテクテク歩きながら仁愛がチョコ系にしようと決めた時、一人の男子生徒とすれ違った。
「ーーあ」
男子生徒が視界から消えた瞬間、仁愛の足が止まった。一拍遅れて男子生徒も足を止め、踵を返す気配がする。
「なあ、君……っ」
仁愛の行く手を阻むように前に立った男子生徒は、何かを言いかけて息を呑んだ。
それから少し間を置いて、男子生徒は再び口を開く。
「……ごめん、待った?」
「ううん。そんなには」
初対面の人からそんなことを聞かれ怪しいことこの上ないのに、仁愛はすんなりと言葉が出た。しかも笑顔で。
釣られるように男子生徒が笑う。良く見れば彼は、近所で有名な進学校の制服を着ている。頭良いんだ。ちょっと安心した。あとイケメン。マジヤバい。
などと仁愛が取り留めも無いことを考えていたらーー
「ちょっと、仁愛ぃー。いつ彼氏できたの!?」
「なになになになになになにっ、ちょ、彼氏なら紹介してよー」
と、朋美と恵が目を輝かせながら二人の間に割り込んできた。
大いなる誤解である。男子生徒とは初対面で名前も学年もわからない。他人も他人だ。
そう伝えれば良いだけなのに、なぜか否定する言葉が出てこない。なぜか”違う”と言うことに、びっくりするほど抵抗がある。
それは男子生徒も同じのようだ。まるでラクダのようにもごもご口を動かしている。おそらく口から出そうになる言葉を歯で噛み砕いているのだろう。そこそこ整った顔を台無しだ。
でもこの不思議な感覚がわからない朋美と恵は、仁愛たちは付き合い始めのバカップルにしか見えなかった。
「ごちそうさまぁー。まぁ、近いうちに紹介してー」
「反省文はあんたの分も書いといてあげるから。一つ貸しだよー」
生温い笑みを浮かべて級友想いの朋美と恵は、手を振り去っていく。
次第に小さくなっていく二人を見つめていた仁愛だが、「……あの」と男子生徒に声を掛けられた。
「ん?なあに?」
「あ……あのさ」
「うん」
「俺、浅井智也。君の名前、教えてくれる?」
ほんのり赤い顔をして尋ねた男子生徒に、仁愛は大きくうなずいてから口を開く。
「えっと私、横井仁愛。デモクラ高の二年。ねえ、浅井君は?」
「俺は旭高の三年。智也で良いよ」
「良いの?先輩なのに」
「もち、いいよ。ってか、そこ気にしないで。そのかわり俺も横井さんのこと仁愛って呼びたいんだけど」
「もちもち、いいよー」
ポンポンとトランポリンのように弾む会話が楽しくて仕方がない。
それが不思議だと仁愛と思うが、嬉しい気持ちの方が勝って智也に無邪気に笑いかける。
「なんだか私達、初めて会った気がしないねー。ねえ、こういうのって前世からのなんちゃらなのかな」
軽い気持ちで言った後、取りようによってはアレだなとちょっと恥ずかしくなる。引かれちゃったら嫌だなとかなり真剣に思った。
けれど智也は「そうかもね」と言いたげに、ふわりと笑ってくれてーー行きかう車と人のざわめき中、何かが始まる音がした。
◇◆◇◆おわり◆◇◆◇
最後までお付き合いいただきありがとうございました(o*。_。)oペコッ
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