盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

文字の大きさ
74 / 105
おかしい。お愛想で可愛いと言われてただけなのにドキッとするなんて

14

しおりを挟む
「ノアが……そこまで頑張りたい理由を教えてもらえるかい?」

 アシェルはノアの足の裏から手を離さず言った。

「それは……その……」

 ノアは至極簡単な質問のはずなのに、言葉を濁す。なぜかお仕事の為だと即答できないのだ。

 しかしアシェルの無言の圧は、本日も半端ない。どうしてそこまで聞きたいの?と逆に問いただしたくなるくらいだ。

 だが足の裏の手当てをしてもらった今、質問を質問で返すなんていう失礼なことはノアの立場からしてできなかった。

「えっと……頑張った先に、楽しみが待っているからです」

 ノアはむぎゅっと渋面を作りながら答えた。

 ぶっちゃけ答えたあとに「ああ、そっか」と自分自身が納得するものだった。

 そしてアシェルもその答えは、満足いくものだったようだ。

「そっか。なら、無理はするなと言えても、やめろとは言えないな」

 ふんわりと笑いながらそう言ったアシェルは、どことなく不本意そうであった。形の良い眉も、ちょっと下がっている。

 でもノアは、ここは都合よくニュアンスよりも吐いた言葉だけを重視することにした。

「はい、私、今回は駄目って言われても、やめろって言われてもやり続けますから。あ、でも……ワガママを許されるなら、一つだけお願いが。私、殿下に”頑張れ”って言って欲しいです」

 へへっと笑ったノアは、2拍遅れて自分がとんでもないことを要求してしまったことに気付いた。

(しまったっ! しっかりがっつりお給金をいただいている身なのに、これ以上何を望んでいるんだっ、私)

 まったくもって図々しい発言に、きっとアシェルは呆れかえっているだろうと思った。

 けれど、予想に反してアシェルの唇は弧を描いていた。ただ、それはなぜかノアの目の前にあった。

「で、殿下!?」

 秒速でアシェルが顔を近づけた意味がわからないノアは、目を白黒させた。

 そんなアタフタするノアの耳元にアシェルは口を寄せる。

「頑張れ、ノア」
「ひゃいっ」

 囁くように紡がれた言葉は、何故か檄を飛ばすというよりも手の甲で撫でられるような温もりがあった。
 
「……足りない? もっと言おうか?」
「足りますた!充分、満たしゃれました!!」

 噛みっ噛みで即答したノアに、アシェルは低く笑う。

 その度に耳に盲目王子の息がかかるから、ノアはくすぐったくて仕方が無い。しかも、時折彼の唇が耳たぶに触れるのだ。

 そりゃあアシェルは盲目だ。だから距離間が掴めないのは、わかる。……わかるのだけれど、される側としたら、平常心を保つのは無理な話で。

 しかしそこから逃げようとしても、アシェルはノアに覆いかぶさるように背もたれに両手を付いているから、彼の腕が邪魔して身動きすらできないのだ。

 無論、この不埒な男を押しのけるなんていう発想はノアには無い。

 だって、アシェルは自分の雇用主であり、この国の王子であり、妙に庇護欲をそそる人であり、己を必要としてくれる相手なのだ。

 そんな彼に対して無下な態度を取るなんてできないノアは、雨の中震える仔猫のように身を縮こませることしかできなかった。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...