盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

文字の大きさ
73 / 105
おかしい。お愛想で可愛いと言われてただけなのにドキッとするなんて

13 

しおりを挟む
 ノアの足の裏に触れているアシェルの手つきは、恐ろしいほど優しい。生まれたての子ウサギに触れるよりもっと慎重な手つきだ。

 そりゃあ皮が破れた足の裏に触っているのだから、乱暴に扱うなんて言語道断である。

 たがしかし、傷口ではない部分にも長い指を這わせ、そんでもって土踏まずの部分を時折くすぐるように動かすのは如何なものかと思う。絶対に医療行為以外の邪な考えがあるに違いない。

 対してノアは、殿上人に傷の手当てをされているという現実に、申し訳なくて仕方がない。

 そして現在進行形で辞退する台詞を吐き続けているけれど、どうしてなのかわからないが盲目王子にだけそれが伝わってくれない。

(……どうしよう。運んでもらった時に無理させちゃって、具合が悪いのかなぁ)

 ノアは真剣に耳が遠くなってしまったアシェルの体調を心配する。

 心配するべきなのは、好き勝手にアシェルに足を触らせている現状なのだが、ノアの頭の中にはこの手の持ち主がいかがわしいことをするなんていう発想は、これっぽっちも無い。

 ちなみにこの光景は、年後の、しかも未婚の男女がイチャイチャしているようにしか見えない。

 だから傍から見れば胸焼けするほど甘い空気が充満している。3日はスウィーツなんて見たくない程に。

 そんな中、アシェルがため息交じりに口を開いた。

「───……ノア、頑張ることと、無理をすることは違うんだよ」

 ポツリと呟いたアシェルのそれは、暗にもうレッスンをやめろと言っているように聞こえてしまう。

 しかし、雇用主の命令とてノアは頷けない。

 傷口に丁寧に薬を塗りこんでくれるアシェルには感謝してる。でも欲しい言葉はそんなんじゃ無い。「頑張れ」という背中を押す類のもの。

「んー……殿下、そうは言っても、できないことをしようとしているんですから、多少の無理は必要ですよ」

 読み書きだって、料理だって、お裁縫だって。これまで身に着けてきたものは、楽しみながら覚えたものではない。

 暗記は苦痛だったし、使い慣れないフライパンで火傷だってしたし、針で指を刺したことなんて数えきれないほど。

 まぁ、手先が器用で要領が良い人間なら片手間で覚えることができるのかもしれない。しかしながら、ノアはそういう類の人種ではないことをちゃんとわかっている。

 なのにアシェルは、ノアの気持ちにちっとも気付いてくれない。

「でもね、こんな足の怪我をしてまで頑張るものじゃない。ダンスを踊れなくっても私はノアが一緒に夜会に出てくれるならそれで良いんだ」
「そんなこと言わないでくださいよぅ」

 思わず拗ねた口調で反発したノアに、アシェルは弾かれたように顔を上げた。

 その表情は、気遣いを無下にしやがってという不機嫌なものではなく、何かを期待するようなそれだった。 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

妹なんだから助けて? お断りします

たくわん
恋愛
美しく聡明な令嬢エリーゼ。だが、母の死後に迎えられた継母マルグリットによって、彼女の人生は一変する。実母が残した財産は継母に奪われ、華やかなドレスは義姉たちに着られ、エリーゼ自身は使用人同然の扱いを受ける。そんなある日――。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

処理中です...