盲目王子の策略から逃げ切るのは、至難の業かもしれない

当麻月菜

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庇護欲をそそるという言葉は、何も女子供に向けてのものだけじゃない

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【あの書簡は偽物だから】

 その言葉を言葉のままにゆっくりと時間をかけて理解した結果、たった一言だけ紡ぐことができた。

「は?」

 いろんな感情が凝縮された一言を向けられたアシェルは、ただニコニコしている。

 ついさっき、あれほど的確にノアの気持ちを読み取ったというのに、今はただただ微笑んでいるだけ。

「……殿下、あのですね」
「ん?どうしたんだい?」

 にこにこ顔を崩さず、アシェルは続きを促す。ただ、その笑みはどことなく圧がある。

 そこにいい加減気付けと思うが、ノアは今自分の身に降りかかった災難を振り払うことで精一杯だった。

「今の件、聞かなかったことにして良いですか?」

 いろいろ考えたけれど保身に走ることにしたノアに、アシェルはどうとでも取れる笑みを向けるだけ。

 そして一切表情を崩さず、ぽつりと呟いた。

「……ま、あんな初歩の魔法に気付けないんだから、あいつだって陛下に密告もできないだろうしね」

 これをノアがちゃんと聞き取ったかどうかは定かではない。

 ただ、もし仮に聞いてしまっていても、次に起こる展開で奇麗さっぱり忘れることになる。

「あっ、お話中すんませんっ。ちょっと良いすか?」

 急に二人の間に割り込んできたのは、アシェルの側近その1であるイーサンだった。

 その口調はまるで台詞を棒読みしているかのようだが、さして深い付き合いをしているわけではないノアは、そんなもんだと疑問にすら思わない。

 アシェルもノアと同様に側近の不審な口調に対して気にする素振りはない。

「どうした?手短にしてくれ」

 顔だけをイーサンに向け続きを促せば、側近その1はまるで見えないカンペを探すように目を泳がせながら口を開く。

「えっと……実は今の今、ノアさん宛に手紙が届いたんで……このタイミングで渡すのもアレなんですが、一応お伝えしておいた方が良かったか……あれ?悪かったのか?えっと───」
「渡してあげてくれ」

 棒読みかつ挙動不審なイーサンの言葉を遮るように、アシェルは顎で指示を出す。

 ちなみにノアはこの現状を孤児院のロキにはこう伝えている。

 森で知り合った知らない人に良い仕事を紹介してもらえて、それが定員1名で即面接に行かないと他の人に決まってしまいそうだったから、着の身着のまま王都へ向かってしまった。幸い面接に受かって王都で働いている、と。

 そんなあやふやで突っ込みどころ満載の説明で誰が信用するのかと思うが、ロキはあっさり納得した。

 まぁ……もしかして最初は怪しんでいたのかもしれない。

 だが、定期的にイーサンが商人に変装してロキに手紙と仕送りを届け、かつロキからの手紙はちゃんとノアに届いているのことが安心材料になっているようで、現在ロキから届く手紙には、不審がる内容は一切書かれていない。 

 ─── というノアのご家庭事情は置いておいて、イーサンは上着のポケットから手紙を取り出すとノアに手渡した。

 すかさず、アシェルが口を開く。

「ノア、ここで読んでいいよ」

 まるでノアが今すぐにでも読みたくてうずうずしているように聞こえるが、ノアは別にここで読みたいとは、これっぽっちも思ってはいなかった。
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