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庇護欲をそそるという言葉は、何も女子供に向けてのものだけじゃない
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「ああああっ、ちょっと待ってください!」
ぼんやりしていたノアは、キノコ図鑑を手にしたまま慌てて立ち上がった。
「ノア、時には休息も大事だよ。これまでずっと頑張っていたんだから、今日は、お休みしよう」
立ち上がったノアの肩に手を置いて優しく諭したのは、アシェルだった。ちなみにアシェルは執務机に着席して、ノアはそのすぐ隣のソファに座っている。
そして、アシェルは執務机からやおら立ち上がると、ノアの肩に手を置いた。
「さ、もう一度座って。ゆっくりしなさい」
そんなお優しい言葉をいただいても、休みなく政務に励んでいる彼からの発言では説得力ゼロである。
「いえ、大丈夫です。ちょっくら行ってきます」
「ううーん。でも、グレイアスは今日、兄上とちょっと揉めてたから機嫌が悪いかも……。それにノア、課題は完璧に終わっている?」
「……」
(実は完璧どころか、終わってないんだよねー)
日に日に授業内容は難しくなっていくのに、自分の頭は初級の初級で理解を止めている。
それでも一応お仕事として毎日授業を受けるし、課題もできる範囲でやっている。
しかしいつも以上に不機嫌な先生が待ち構えているとわかっていて、中途半端にしかできていない課題を提出するのは相当な勇気が必要になる。
「だ、だ、大丈夫……です」
無言のままではいけないという気持ちから、強がりを口にしてみたけれど本当は行きたくない。
その気持ちはアシェルにダイレクトに伝わったのだろう。
彼はくすっと笑うと「なら、こうしよう」と言って、ノアの手を強く引いて強引にソファに着席させた。そして椅子から立ち上がると、流れるようにノアの隣に座り、ごろんと横になる。
アシェルの頭は、ちょうどノアの膝に収まった。
「私が君の膝で眠ってしまったから、ノアは動けない。私は一応王子と呼ばれる存在だからね。グレイアスだって、文句は言えないさ」
そう言いながらアシェルは、ノアを抱きかかえるように腕を腰に絡めた。
対してノアは、びっくり仰天だ。
こんな授業のさぼり方があるなんて考えつかなかった。それに何よりも、これまでアシェルとずっと過ごしてきたが、こんな触れ合いをされるなんて初めてだったから。
「……と、いうわけだからワイアット、グレイアスに事情を説明してきてくれ」
「かしこまりました」
グレイアスの側近その2は先ほどと同じように慇懃に礼を取り部屋を出て行った。
今度はノアは引き留めることはしなかった。いや、できなかった。
***
少し間をおいて、側近その1のイーサンも部屋を出る。
年中腰に剣をぶら下げているので脳筋のように見えるが、彼は大変空気を読める人間なのだ。
ただ、扉の前で護衛に徹してなければならないので、まるで盗み聞きをするような立ち位置になるのは、少々倫理的に胸が痛む……はずなのに、どこか楽しそうだった。
「さあて殿下は、どんな手を使ってお嬢さんを引き留めるかな。こりゃあ見ものだ」
イーサンは、アシェルの気持ちを知っている。
そして長い付き合いのおかげで、アシェルがどんな人間なのかも熟知している。
一見、無欲で穏やかな盲目王子が、どれだけ策士で欲しいと思ったら絶対に手に入れる強い意思を持っているかを。
ぼんやりしていたノアは、キノコ図鑑を手にしたまま慌てて立ち上がった。
「ノア、時には休息も大事だよ。これまでずっと頑張っていたんだから、今日は、お休みしよう」
立ち上がったノアの肩に手を置いて優しく諭したのは、アシェルだった。ちなみにアシェルは執務机に着席して、ノアはそのすぐ隣のソファに座っている。
そして、アシェルは執務机からやおら立ち上がると、ノアの肩に手を置いた。
「さ、もう一度座って。ゆっくりしなさい」
そんなお優しい言葉をいただいても、休みなく政務に励んでいる彼からの発言では説得力ゼロである。
「いえ、大丈夫です。ちょっくら行ってきます」
「ううーん。でも、グレイアスは今日、兄上とちょっと揉めてたから機嫌が悪いかも……。それにノア、課題は完璧に終わっている?」
「……」
(実は完璧どころか、終わってないんだよねー)
日に日に授業内容は難しくなっていくのに、自分の頭は初級の初級で理解を止めている。
それでも一応お仕事として毎日授業を受けるし、課題もできる範囲でやっている。
しかしいつも以上に不機嫌な先生が待ち構えているとわかっていて、中途半端にしかできていない課題を提出するのは相当な勇気が必要になる。
「だ、だ、大丈夫……です」
無言のままではいけないという気持ちから、強がりを口にしてみたけれど本当は行きたくない。
その気持ちはアシェルにダイレクトに伝わったのだろう。
彼はくすっと笑うと「なら、こうしよう」と言って、ノアの手を強く引いて強引にソファに着席させた。そして椅子から立ち上がると、流れるようにノアの隣に座り、ごろんと横になる。
アシェルの頭は、ちょうどノアの膝に収まった。
「私が君の膝で眠ってしまったから、ノアは動けない。私は一応王子と呼ばれる存在だからね。グレイアスだって、文句は言えないさ」
そう言いながらアシェルは、ノアを抱きかかえるように腕を腰に絡めた。
対してノアは、びっくり仰天だ。
こんな授業のさぼり方があるなんて考えつかなかった。それに何よりも、これまでアシェルとずっと過ごしてきたが、こんな触れ合いをされるなんて初めてだったから。
「……と、いうわけだからワイアット、グレイアスに事情を説明してきてくれ」
「かしこまりました」
グレイアスの側近その2は先ほどと同じように慇懃に礼を取り部屋を出て行った。
今度はノアは引き留めることはしなかった。いや、できなかった。
***
少し間をおいて、側近その1のイーサンも部屋を出る。
年中腰に剣をぶら下げているので脳筋のように見えるが、彼は大変空気を読める人間なのだ。
ただ、扉の前で護衛に徹してなければならないので、まるで盗み聞きをするような立ち位置になるのは、少々倫理的に胸が痛む……はずなのに、どこか楽しそうだった。
「さあて殿下は、どんな手を使ってお嬢さんを引き留めるかな。こりゃあ見ものだ」
イーサンは、アシェルの気持ちを知っている。
そして長い付き合いのおかげで、アシェルがどんな人間なのかも熟知している。
一見、無欲で穏やかな盲目王子が、どれだけ策士で欲しいと思ったら絶対に手に入れる強い意思を持っているかを。
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