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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ
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ーー待つことしばしば。
カイロス達の視線が逸れた気配を感じ取ったアンナは、柔らかい胸からそっと顔を上げる。
「ねえマチルダ、職員室……一緒に行こっか?」
地方豪族の末娘は、見た目とは裏腹になかなかのやんちゃ者だ。
職員室に呼び出されるということは、これまでの経験上、先生のお叱りを受ける可能性が高い。そんな時、アンナはいつもマチルダの引率者になる。
真面目がウリのアンナが一緒に頭を下げると、かなりの確率で小言が半減する。少々こすい手ではあるが、親友の為なら使える物は何でも使う所存だ。
でも、今日に限ってマチルダは首を横に振った。
「ふふっ、ありがとう。でも今日はお説教じゃなくて、来月の創立記念日の打ち合わせだから大丈夫よ」
にこっと笑うマチルダに、アンナはもしかしてと顔を輝かせる。
「マチルダ、今年も歌姫に選ばれたの?」
「そうだと言ったら、アンナは特等席で観てくれるかしら」
「そんなの当たり前だよっ。おめでとう、マチルダ!」
「どういたしまして。当日はアンナの為に歌うから。そのつもりで聞いてね」
「うん!」
ランラード学園の創立記念日は授業は全て休講となり、代わりに様々な行事が開催される。所謂。学園祭というものである。
ただ他校のように一般公開はせず規模としては小さなもの。それでも皆、創立記念日を楽しみにしている。
また開幕式で讃美歌を歌う女生徒は歌姫と呼ばれ、一年間学園のマドンナとなる。
そんな女生徒にとって最大の名誉である歌姫に入学してからずっと選ばれているマチルダと親友でいられる自分は最高に誇らしい。
一度はマチルダから身体を離したアンナだけれど、再びぎゅーと抱きつく。
「わぁーい!!今からとっても楽しみ!」
「ありがとうアンナ。じゃ、私そろそろ職員室に行ってくるわ。遅刻して歌姫を降ろされたら、末代までの恥だから」
「うん、じゃあまた後でね」
「ええ。またね」
男じゃなくてもクラリとしそうな魅惑的な笑みをアンナに向けたマチルダは、軽い足取りで校舎へと向かって行く。
「んじゃ、俺もやり残した課題があるから先、教室に戻るわ」
マチルダを追うようにアレクもそう言って駆けて行った。
残ったのはアンナとカイロス。距離を少しおいてワイトも居るが、彼は気配を消して庭の木と同化している。
「えっと……じゃあ、私も戻ります」
何となく居心地悪さを覚えたアンナは下手くそな笑みを浮かべて、そそそっとカイロスから距離を取ると校舎に続く石畳の歩道に足を向ける。
だがしかし一歩、歩道に踏み出した途端に太い腕がにゅっと伸びてきた。
「おい、予鈴はまだだぞ?」
「あーえっと、予習をしよっかなっと」
「随分、勉強熱心だな。で、午後の授業は何だ?」
「……文化史です」
カイロスは、アンナを抱き寄せながら「俺の得意科目だ」と囁く。
そんなの学年が違えどアンナとて知っている。
だって試験後に貼り出される成績表の一番上は、いつだってカイロスの特等席だ。彼にはきっと不得意科目なんてないだろう。
そんなんだから平気で、こんな言葉を耳に落としてくれるのだ。腹が立つほど優しい声音で。
「お前は本当に、俺を頼ろうとはしてくれないな。いつになったら甘えてくれるんだ?」
甘える?は??冗談じゃない。
ちょっとでも自分から距離を詰めたら、間違いなくカイロスに自分の想いを気付かれてしまう。
だからこうして引きちぎられるような痛みを覚えつつも、必死に節度ある態度を心掛けているというのに。
そんな気持ちから、拗ねた顔をするカイロスにアンナはつい睨んでしまう。
この人は、どれだけ自分が細心の注意を払って傍にいるのか知らないのか、と。
いやまあ知って欲しいとはこれっぽちも思わない。
だが、それでもちょっとは危機感を持ってほしい。いつか本物の恋人の座を自分が求めてしまうかもしれないと。
カイロス達の視線が逸れた気配を感じ取ったアンナは、柔らかい胸からそっと顔を上げる。
「ねえマチルダ、職員室……一緒に行こっか?」
地方豪族の末娘は、見た目とは裏腹になかなかのやんちゃ者だ。
職員室に呼び出されるということは、これまでの経験上、先生のお叱りを受ける可能性が高い。そんな時、アンナはいつもマチルダの引率者になる。
真面目がウリのアンナが一緒に頭を下げると、かなりの確率で小言が半減する。少々こすい手ではあるが、親友の為なら使える物は何でも使う所存だ。
でも、今日に限ってマチルダは首を横に振った。
「ふふっ、ありがとう。でも今日はお説教じゃなくて、来月の創立記念日の打ち合わせだから大丈夫よ」
にこっと笑うマチルダに、アンナはもしかしてと顔を輝かせる。
「マチルダ、今年も歌姫に選ばれたの?」
「そうだと言ったら、アンナは特等席で観てくれるかしら」
「そんなの当たり前だよっ。おめでとう、マチルダ!」
「どういたしまして。当日はアンナの為に歌うから。そのつもりで聞いてね」
「うん!」
ランラード学園の創立記念日は授業は全て休講となり、代わりに様々な行事が開催される。所謂。学園祭というものである。
ただ他校のように一般公開はせず規模としては小さなもの。それでも皆、創立記念日を楽しみにしている。
また開幕式で讃美歌を歌う女生徒は歌姫と呼ばれ、一年間学園のマドンナとなる。
そんな女生徒にとって最大の名誉である歌姫に入学してからずっと選ばれているマチルダと親友でいられる自分は最高に誇らしい。
一度はマチルダから身体を離したアンナだけれど、再びぎゅーと抱きつく。
「わぁーい!!今からとっても楽しみ!」
「ありがとうアンナ。じゃ、私そろそろ職員室に行ってくるわ。遅刻して歌姫を降ろされたら、末代までの恥だから」
「うん、じゃあまた後でね」
「ええ。またね」
男じゃなくてもクラリとしそうな魅惑的な笑みをアンナに向けたマチルダは、軽い足取りで校舎へと向かって行く。
「んじゃ、俺もやり残した課題があるから先、教室に戻るわ」
マチルダを追うようにアレクもそう言って駆けて行った。
残ったのはアンナとカイロス。距離を少しおいてワイトも居るが、彼は気配を消して庭の木と同化している。
「えっと……じゃあ、私も戻ります」
何となく居心地悪さを覚えたアンナは下手くそな笑みを浮かべて、そそそっとカイロスから距離を取ると校舎に続く石畳の歩道に足を向ける。
だがしかし一歩、歩道に踏み出した途端に太い腕がにゅっと伸びてきた。
「おい、予鈴はまだだぞ?」
「あーえっと、予習をしよっかなっと」
「随分、勉強熱心だな。で、午後の授業は何だ?」
「……文化史です」
カイロスは、アンナを抱き寄せながら「俺の得意科目だ」と囁く。
そんなの学年が違えどアンナとて知っている。
だって試験後に貼り出される成績表の一番上は、いつだってカイロスの特等席だ。彼にはきっと不得意科目なんてないだろう。
そんなんだから平気で、こんな言葉を耳に落としてくれるのだ。腹が立つほど優しい声音で。
「お前は本当に、俺を頼ろうとはしてくれないな。いつになったら甘えてくれるんだ?」
甘える?は??冗談じゃない。
ちょっとでも自分から距離を詰めたら、間違いなくカイロスに自分の想いを気付かれてしまう。
だからこうして引きちぎられるような痛みを覚えつつも、必死に節度ある態度を心掛けているというのに。
そんな気持ちから、拗ねた顔をするカイロスにアンナはつい睨んでしまう。
この人は、どれだけ自分が細心の注意を払って傍にいるのか知らないのか、と。
いやまあ知って欲しいとはこれっぽちも思わない。
だが、それでもちょっとは危機感を持ってほしい。いつか本物の恋人の座を自分が求めてしまうかもしれないと。
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