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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ
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田舎貴族の平凡娘と、光り輝く第三王子が男女交際をしている。
それだけでもセンセーショナルな出来事だというのに、付き合い始めたきっかけは、アンナがカイロスを襲ったからというランラード学園設立以来の大スクープ。
おかげでたった数日で、アンナは有名人となった。
これまで地味の代名詞でいたことなど幻だったかのように。
望む望まないは別として、時のスターとなってしまったアンナは、クラスメイトから質問攻めの毎日である。
おかげで嘘を付くのがちょっと上手くなった。嬉しくない。あと、やっかみが怖い。
でも人の評価というのは、どういうふうに転がるのか予測がつかない。
幸いアンナに下された評価は、ふしだらさを凌駕する勇気ある令嬢というもの。英雄扱いだ。
おかげで靴を隠されるとか、ロッカーにゴミを入れられるなどという陰湿な嫌がらせは受けていない。
それと信じられないことに振られた側のオフェールアは、これまでの悪女が嘘だったかのように模範生のような生活を送り始めている。しかも過去嫌がらせを受けた生徒に対して、一人一人に謝罪をしたとかしないとか。
そんなこともあって、生徒達は概ねアンナに好意的である。
でも、アンナをとりまく世界が一変したのは事実だ。
カイロスの恋人になったアンナは注目の的だった。直接あれこれ聞かれることはデフォルトで、どこに行くにも何をするにしても絶えず人の視線に晒される。
しかもカイロスは仮初の恋人だというのに、とことんアンナを大事に扱う。
付き合い始めて1週間。お昼時になれば毎日ランチに誘い、節度あるスキンシップにも手を抜かない。絵に描いたような健全なる男女交際を演じてくれている。
アンナの切ない気持ちなんて、微塵も気付かずに。
「すまない。少し早く歩きすぎたか?」
「へ?……あ、だ、大丈夫です」
他のことに気を取られていたせいでノロノロ歩きになっていただけなので、アンナを歩く速度を上げる。しかし、
「無理はするな」
カイロスの手が腰に触れたかと思ったら、優しく引き寄せられてしまった。
途端に、そこかしこからキャーと黄色い声が聞こえてくる。
咄嗟に後ろを歩くワイトに救いの手を求めるが、彼は満面の笑みでグッと親指を立てるだけ。何それ、意味わかんない。
アンナの目は、死んだ魚のようになる。
カイロスはカイロスで、どこまでもマイペースだ。
エスコートする手を軽く揺らしながら「午前中の授業はどうだったか?」とか「わからないことがあれば、放課後に見てやるぞ」とか先輩風を吹かす。
ほんのちょっと前、カイロスに片思いをしていたアンナは、そんなふうに彼から言われたら、ときめきすぎて死んじゃうと思っていた。
でも実際そうなってみると、何かが違う。いや大分違う。
理想と現実のギャップにしょっぱい思いを抱えつつ、アンナはとにかく右足と左足を交互に動かすことだけに専念した。
それだけでもセンセーショナルな出来事だというのに、付き合い始めたきっかけは、アンナがカイロスを襲ったからというランラード学園設立以来の大スクープ。
おかげでたった数日で、アンナは有名人となった。
これまで地味の代名詞でいたことなど幻だったかのように。
望む望まないは別として、時のスターとなってしまったアンナは、クラスメイトから質問攻めの毎日である。
おかげで嘘を付くのがちょっと上手くなった。嬉しくない。あと、やっかみが怖い。
でも人の評価というのは、どういうふうに転がるのか予測がつかない。
幸いアンナに下された評価は、ふしだらさを凌駕する勇気ある令嬢というもの。英雄扱いだ。
おかげで靴を隠されるとか、ロッカーにゴミを入れられるなどという陰湿な嫌がらせは受けていない。
それと信じられないことに振られた側のオフェールアは、これまでの悪女が嘘だったかのように模範生のような生活を送り始めている。しかも過去嫌がらせを受けた生徒に対して、一人一人に謝罪をしたとかしないとか。
そんなこともあって、生徒達は概ねアンナに好意的である。
でも、アンナをとりまく世界が一変したのは事実だ。
カイロスの恋人になったアンナは注目の的だった。直接あれこれ聞かれることはデフォルトで、どこに行くにも何をするにしても絶えず人の視線に晒される。
しかもカイロスは仮初の恋人だというのに、とことんアンナを大事に扱う。
付き合い始めて1週間。お昼時になれば毎日ランチに誘い、節度あるスキンシップにも手を抜かない。絵に描いたような健全なる男女交際を演じてくれている。
アンナの切ない気持ちなんて、微塵も気付かずに。
「すまない。少し早く歩きすぎたか?」
「へ?……あ、だ、大丈夫です」
他のことに気を取られていたせいでノロノロ歩きになっていただけなので、アンナを歩く速度を上げる。しかし、
「無理はするな」
カイロスの手が腰に触れたかと思ったら、優しく引き寄せられてしまった。
途端に、そこかしこからキャーと黄色い声が聞こえてくる。
咄嗟に後ろを歩くワイトに救いの手を求めるが、彼は満面の笑みでグッと親指を立てるだけ。何それ、意味わかんない。
アンナの目は、死んだ魚のようになる。
カイロスはカイロスで、どこまでもマイペースだ。
エスコートする手を軽く揺らしながら「午前中の授業はどうだったか?」とか「わからないことがあれば、放課後に見てやるぞ」とか先輩風を吹かす。
ほんのちょっと前、カイロスに片思いをしていたアンナは、そんなふうに彼から言われたら、ときめきすぎて死んじゃうと思っていた。
でも実際そうなってみると、何かが違う。いや大分違う。
理想と現実のギャップにしょっぱい思いを抱えつつ、アンナはとにかく右足と左足を交互に動かすことだけに専念した。
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