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仮初めの恋人と過ごす日々※なぜか相手はノリノリ
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長い歴史を持つマルグネス国には数多くの学校がある。
その中で最も権威が高いのは王都にあるランラード学園である。
唯一の国立学園であるここは、名門貴族が数多く通い、13歳から18までの男女が同じ校舎で学ぶ全寮制。入学してからまず3年間は、全生徒は教養を身に着け、残りの2年間は各々に合った科目を選択する。
選択科目には魔法科を始め、士官養成科や声楽科など多岐に渡る為、生徒の中には推薦を受けた市井の者も入学可能とされている。
とはいっても全員が全員、選択科目を選ぶわけではない。3年間教養のみを身に着け卒業することも可能だ。むしろ女子生徒は16歳で卒業する者が殆どで、その後は親が決めた婚約者の元に嫁ぐ未来を歩む。
ただ生徒でいる間は、身分という格差は無い。規律を守るという前提の下、固く閉ざされた門扉の中限定で、のびのびとした生活を許される。
その中には男女交際も含まれており、女性側が一方的に傷付くような事態にならなければ、教師たちは生徒の恋愛事情に口を挟まないのが暗黙の了解だった。
***
午前中の授業終了を知らせるチャイムが響いた数分後、ざわざわと騒ぐ教室は上級生2名の入室によって水を打ったかのように静まり返った。
「アンナ」
好奇心丸出しの下級生の視線をもろともせず恋人の名を呼んだのは、学園内で一番目立つカイロスだった。
対して名を呼ばれた交際1週間目のピチピチ恋人であるアンナは、教室の端っこからテケテケと駆け寄る。
「お、お……待たせしましたっ。カイロスさん、ワイトさん」
アンナがぺこっと頭を下げれば、すぐに小さなため息を落とされた。
「走るな、危ない」
言葉だけを受け止めれば厳しいものであるが、カイロスの表情は甘く、恋人をただただ心配しているだけにしか見えない。
「すいませ……いえ、ありがとうございます」
「よろしい」
仮初の恋人になって一番最初にカイロスがアンナに求めたのは、他人行儀にすぐ謝る癖を直せというものだった。
さすがに一週間では要望通りにできない。だが、それでも変わろうとしているのをカイロスはちゃんと気づいてくれて、その都度認めてくれる。アンナはそれが嬉しくてくすぐったい。
そんな中、ぎこちなくもほんのり甘い空気に水を差す男子生徒がいた。先ほどカイロスと並んで教室に入って来たもう一人の上級生である。
「アンナさん、そんなに恐縮しないでください。殿下なんて待たせておけば良いんですから」
「おい」
すかさずカイロスが不機嫌になるが、睨まれた男子生徒は涼し気な表情をしている。
彼はカイロスのルームメイトであり、城から派遣された護衛兼お目付け役だった。名はワイト・シエルドと言い、癖のある茶褐色の髪と灰色の瞳は人懐っこい印象を与える。
しかしカイロスにとったらワイトは悪友に近い存在のようで、わずかに眉間に皺を寄せた後、アンナの手を強引に取った。
「食堂に行くぞ」
「ぅあ……あ……はい」
モジモジするアンナの手を取って歩き出すカイロスは、口調こそぶっきらぼうだが仕草はとても優しい。そして当然のようにアンナの背に手を回す。
廊下に出れば付き合いたてのカップルの為に、、同級生達はそそくさと道を開けてくれる。
それが当然のようにカイロスは表情一つ変えないけれど、アンナは生きた心地がしなかった。
その中で最も権威が高いのは王都にあるランラード学園である。
唯一の国立学園であるここは、名門貴族が数多く通い、13歳から18までの男女が同じ校舎で学ぶ全寮制。入学してからまず3年間は、全生徒は教養を身に着け、残りの2年間は各々に合った科目を選択する。
選択科目には魔法科を始め、士官養成科や声楽科など多岐に渡る為、生徒の中には推薦を受けた市井の者も入学可能とされている。
とはいっても全員が全員、選択科目を選ぶわけではない。3年間教養のみを身に着け卒業することも可能だ。むしろ女子生徒は16歳で卒業する者が殆どで、その後は親が決めた婚約者の元に嫁ぐ未来を歩む。
ただ生徒でいる間は、身分という格差は無い。規律を守るという前提の下、固く閉ざされた門扉の中限定で、のびのびとした生活を許される。
その中には男女交際も含まれており、女性側が一方的に傷付くような事態にならなければ、教師たちは生徒の恋愛事情に口を挟まないのが暗黙の了解だった。
***
午前中の授業終了を知らせるチャイムが響いた数分後、ざわざわと騒ぐ教室は上級生2名の入室によって水を打ったかのように静まり返った。
「アンナ」
好奇心丸出しの下級生の視線をもろともせず恋人の名を呼んだのは、学園内で一番目立つカイロスだった。
対して名を呼ばれた交際1週間目のピチピチ恋人であるアンナは、教室の端っこからテケテケと駆け寄る。
「お、お……待たせしましたっ。カイロスさん、ワイトさん」
アンナがぺこっと頭を下げれば、すぐに小さなため息を落とされた。
「走るな、危ない」
言葉だけを受け止めれば厳しいものであるが、カイロスの表情は甘く、恋人をただただ心配しているだけにしか見えない。
「すいませ……いえ、ありがとうございます」
「よろしい」
仮初の恋人になって一番最初にカイロスがアンナに求めたのは、他人行儀にすぐ謝る癖を直せというものだった。
さすがに一週間では要望通りにできない。だが、それでも変わろうとしているのをカイロスはちゃんと気づいてくれて、その都度認めてくれる。アンナはそれが嬉しくてくすぐったい。
そんな中、ぎこちなくもほんのり甘い空気に水を差す男子生徒がいた。先ほどカイロスと並んで教室に入って来たもう一人の上級生である。
「アンナさん、そんなに恐縮しないでください。殿下なんて待たせておけば良いんですから」
「おい」
すかさずカイロスが不機嫌になるが、睨まれた男子生徒は涼し気な表情をしている。
彼はカイロスのルームメイトであり、城から派遣された護衛兼お目付け役だった。名はワイト・シエルドと言い、癖のある茶褐色の髪と灰色の瞳は人懐っこい印象を与える。
しかしカイロスにとったらワイトは悪友に近い存在のようで、わずかに眉間に皺を寄せた後、アンナの手を強引に取った。
「食堂に行くぞ」
「ぅあ……あ……はい」
モジモジするアンナの手を取って歩き出すカイロスは、口調こそぶっきらぼうだが仕草はとても優しい。そして当然のようにアンナの背に手を回す。
廊下に出れば付き合いたてのカップルの為に、、同級生達はそそくさと道を開けてくれる。
それが当然のようにカイロスは表情一つ変えないけれど、アンナは生きた心地がしなかった。
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