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権力争いと後継者争い(Side:アレクサンダー)

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(Side:アレクサンダー)

 嘘だろ、そんな事ある?
 仮にも一国の王女と筆頭公爵家当主の婚姻だぞ!?

 なんかこう、籍を入れて夫婦になる事に特別な想いというか、ロマンを持っていた私は、思わずその場でガックリと項垂れた。

 リアがフワフワ周りを飛びながら一生懸命フォローして来る。


『籍といっても、アウストブルクの物だけですわ! アレク様とミラはフェアランブルで暮らすわけですし、そちらでは二人揃って婚姻証明を受けて下さいな』


 実は私とミラは、婚姻を結ぶにあたりアウストブルクとフェアランブルの両方に国籍を持つ事になっている。
 フェアランブル側からすると異例の事態だが、配偶者にも自国の国籍を与えるアウストブルク側の法に則ったのだ。ちなみに、こちらの方が国際的にもスタンダードだったりする。

 私とカーミラの婚姻を、隙あらば邪魔しようという人間は未だに多い。
 もしもの時の為に後は提出するだけの婚姻届けを用意はしていたのだが……。

 
 それを出したって事か?
 なんとまぁ、相変わらず思い切りのいい。


 『ゴメンね、アレク』と、手を合わせて謝るミラの姿を想像すると、何だかこっちも『しょうがないなぁ』という気分になって来る。
 これが惚れた弱味という奴か。


 ふぅ、と小さく息を吐くと、気持ちを切り替えてリアに向き直る。

「会えて嬉しい……っていうのも、変なのかな? でも、嬉しいよ。改めまして、アレクサンダーだ。アレクでいいよ。よろしく、リア」

 そう言って手を差し出すと、リアは嬉しそうに私の人差し指を両手で握り、その手をフリフリと上下に振っていた。

 はは、可愛いな!




 ……なんて、夢にまで見た精霊とのひとときに喜んでいられたのは、ほんのわずかな時間だった。


「はぁ!? ジーンが自力で逃げ出して、魔の森に入った!??」

 馬で移動しながらリアの話を聞いた私は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまい慌てて口を閉じる。
 ここ数日で、一体私は何回こんな声を出した事だろうか。

 またも予想外の事をする幼馴染兼義弟の行動に、頭がクラクラする。

 昔から、変に行動的な所があるんだよな……。

『それで、ミラとアナ様もアウストブルク側から魔の森へ入るつもりの様ですわ』
「展開早過ぎない!?」

 これでも私も大分フライング気味に王都を飛び出して来たんだけどな!?

『お気持ち、お察しいたしますわ』

 またリアに慰められてしまった……。


「とにかく、やはりジーンは辺境伯の関係者に連れ去られてたって事でいいのかな?」
『はい。ただ辺境伯領も一枚岩ではない様で、ユージーン様を拐かしたのは反領主派ではないかと睨んでおります。その場合、現領主は今回の件を知らない可能性もありますわ』

 なるほど、後継者争いの話と状況は一致するな。

『それから、イングス伯爵家の後ろにはウェスティン侯爵家がいる可能性がありますわ。国内の権力争いにも関係のある話なのかもしれません』

 なるほど、ウェスティン侯爵家か……。

 ウェスティン侯爵家は伝統主義で、未だに女性軽視の姿勢が強い。
 そして、フェイラー辺境伯家は代々女性しか生まれない家系で、フェアランブル国内で、唯一女性が爵位を継ぐ事が許されている。

 今国内の権力争いで一番の鍵を握っているのが、『王位継承権を女性も持てる様にする為の法の改正をするか、否か』だ。

 この法の改正に反対のウェスティン侯爵は、この機会に女性辺境伯であるフェイラー辺境伯現当主を引き摺り下ろす事で、反対派の勢いを増したい考えなのかもしれない。


「これは……、辺境伯家だけの問題では済まなくなって来そうだな」
『ええ、ミラも同じ考えでしたわ』

 リアが真剣な顔をして頷く。


 マズイ。これ絶対ミラが怒る奴だ。
 とにかく急いで辺境伯領へ行かないと!


『ここからなら、後一日程で辺境伯領へ到着しますわね。妾は先に行って、辺境伯領の様子を伺って参りますわ!』


 そう言うとリアは、二、三回クルクルと回ると、そのまま姿を消してしまった。
 はぁー、精霊って凄いなぁ。



 その後は休みも入れずに走り続け、リアが言う様に一日程で辺境伯領へ入った。

 本来であれば先触れも出さずに直接領主の館に行くなど無礼極まりないのだが、今回に関して言えばもちろん先触れ等出している場合ではない。

 半ば強引に辺境伯邸に押し入った私は、通された応接室で当主である現辺境伯が現れるのを待つ。

 私は同時期にアウストブルクに滞在していた縁もあり、サミュエル様ともナジェンダ様ともそれなりに親しくお付き合いさせて頂いていたのだが、現フェイラー辺境伯はナジェンダ様の姉の娘。
 つまりは姪という事になる。

 ナジェンダ様は実家であるはずの辺境伯家についてはあまり話したがらなかったが、先代の辺境伯でもある自身の姉のことは信頼しているし大好きだと言っていた。

 そんな人の娘なら、当代の辺境伯も信頼出来る人かもしれない。


 どうか、まともな人であります様に……。


 —— 私は、開いていくドアを見ながらゴクリと唾を飲み込んだ。
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