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積もる話とコマローのお母さん

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 よし、それじゃあ出発だ!
 
 と、改めて自分達を見ると、想像以上に大所帯になっている事に気が付いた。

 人間で言えば、私と旦那様とクリスティーナ。そしてお父さんとお母さん(……も、人間だよね??)の五人だけど、とにかく精霊の数が凄い。
 後、さっきから旦那様が抱いている可愛いもふもふも気になって仕方ない。羨ましい。

「旦那様、そのもふもふな子はどうしたのですか? それに凄い数の精霊たちですね?」

「ああ、この魔狼の子供とは夜に休息を取ろうと入った洞穴で行き合ったのだ。どうも親とはぐれてしまったようでな。アナのクッキーを分けてやったら懐かれたので、そのまま一緒に行動している」

 今、サラッと私のクッキーって言ったよね?

 前に精霊トリオが、『アナのクッキーを持ち歩いてるのなんて、ユージーンぐらいだ』みたいな事を言っていたけど、旦那様、本当に私のクッキー持ち歩いていたのか……。


「それと、この精霊たちは皆、私を助けてくれたのだ。閉じ込められていた神殿の近くにいた者たちと、海の中にいた者たちと、森の中にいた者たちでな。皆付いて来たいと言うので連れて来た。すまんが、落ち着いたら皆にクッキーを焼いてやって欲しい」

「それ位はお安い御用ですが、また随分と集めましたね……」


 精霊たちは相変わらず自由気ままで、私に『こんにちはー』とか『クッキーよろしくねー!』と話しかけてきたり、お母さんの周りを飛んで『姫さまだー!』と喜んだりしている。

 その精霊たちの中にイルノの姿を見つけて、私はほっと胸を撫で下ろした。
 良かった、さっき確認しそびれちゃったけど、イルノはちゃんと旦那様の所に来れたんだね。

 そして、イルノを発見した私はふとある事に気が付いて、慌てて旦那様にたずねる。

「旦那様、こんなに沢山の精霊を引き連れて大丈夫なんですか? 魔力不足になったりしていませんか!?」
「魔力不足? いや、私は特に魔法を使ったりもしていないぞ?」
「ええっと、ナジェンダ様から聞いたんです。私や旦那様みたいに精霊に好かれる人間、つまり愛し子は、無意識のうちに周りの精霊に自分の魔力を与えてしまうって。旦那様、子供の頃はそれでよく体調を崩していたらしくって……」

 旦那様は驚いた顔をした後、少し考え込む。

「確かに子供の頃はよく体調を崩していたが、あれは魔力不足だったのか。しかし、今は問題ないぞ?」
「それもね、そのペンダントのおかげだと思うわよ!」

「「うわっ!?」」

 いきなり話に加わって来たお母さんに、思わず旦那様と声を合わせて驚いてしまった。
 お母さんって、昔から急に現れて話に加わって来たりするからびっくりするんだよね……。

「このペンダントってね、すっごく便利な優れものなの! 魔石を嵌めてその効果を増幅させるだけじゃなくて、今してるみたいに魔力を貯めておいて必要な時に使う事もできるし、さっきみたいに仕掛けの鍵にもなるしね? 状態異常を防いだり徐々に回復させる事もできるし……
「ちょ、ストップストップお母さん! 私、このペンダントがそんなに凄い物だとか何も聞いてないんだよ!?」

 慌ててペンダントを外して私に返してこようとする旦那様を手で制止して、お母さんの返事を待つ。

「うーん、それもね? 説明が難しくて、アナが大きくなったら話そうと思ってたの。なにせそのペンダントは、代々精霊姫の末裔に受け継がれている貴重な魔道具だから……」


 ひいぃぃー!! それなら逆に何の説明もせずに子供にそんな物持たせないで!?
 私、小さい頃そんな貴重な物付けたまま、平気で泥だらけになって遊んでたよ!?

 私は過去の自分の行動を思い出して冷や汗ものだが、旦那様も旦那様でもの凄く私にペンダントを返したそうな顔をしている。

 無理もない……が。

「旦那様、もしかすると今は、そのペンダントで旦那様の魔力不足が補われている状態かもしれません。ちょっと落ち着かないかもしれませんが、とりあえずはそのままにしておいて下さい」

「わ、わかった。では、大切に預からせてもらう」

 旦那様はそう言うと、慌ててまたペンダントを服の中に戻した。


「ねぇ、暗くならない内に森を出た方がいいでしょ? 話なら歩きながらにしたら?」

 つい色々と話を始めてしまう私達に、クリスティーナが出発を促す。悔しいが正論だ。

 積もる話はいったん我慢して、とりあえずみんなで塔を出る。

 辺りを見回せば、本当にそこはアウストブルクの監視塔だった。

 どうやって旦那様を連れてアウストブルクまで逃げるか、あんなに考えていたのに、まさかこんなあっさり戻って来れるとは……。

 本当に精霊の……特に精霊の王様とやらの力は規格外だなと思う。


『そういえば、まだコマローのお母さん、見つけてなかったー!』
『ほんとだ、さがさないとー』
『僕たち、いってくるね!』


 そう言って、一緒にいた精霊の半分くらいが、バーッと森の中に散って行った。

 そうか、このもふもふちゃんをこのまま連れて行く訳にはいかないのか……。

 残念過ぎる。
 
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