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本編
第39話 『アランの告白』 ③
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(ま、待って、だって、アラン様はレノーレ様のことがお好きなはずで……!)
そうなのだ。だって、アラン様はレノーレ様に恋い焦がれているはずで。だから、私なんかが彼の恋のお相手ということはなくて……。そうよ、間違いない。きっと、何かの勘違いが生んだことなの。言葉がちょっと拗れただけ……なのよ、ね?
「あ、アラン様……?」
私が窺うようにそう言えば、アラン様は私の瞳をまっすぐに見据えていらっしゃる。それが、とても心地悪かった。だから、私の方が先に視線を逸らしてしまう。なのに、逸らした視線の先にもアラン様が現れて。まるで、逃げることは許さないとでもおっしゃりたいみたいだった。
「……僕は、モニカ様がずっと好きだった。初めて見たときから、好きだなぁって思いました。でも、アイザイア様には到底敵うわけがない。そう、思っていました。でも……想いを伝えられないまま終わるのは、嫌だった」
そんな風なことをおっしゃるアラン様。そのお言葉を聞いて……私の頭はパンクしてしまった。わ、私が、好き……? そんなこと、言われたことがない。だからだろうか、頭が正常な判断をしてくれなかった。戸惑って、パニックになって、思考回路から冷静さが失われていく。……なのに、心のどこかでは思っていた。
――こんな風におっしゃってくれる相手が、アイザイア様だったらよかったのに、と。
今、私のことを好きだとおっしゃってくださっているのは、間違いなくアラン様だというのに。
「はっきりと言います。僕は貴女が、モニカ様が好きです。恋をしています。僕を選んで、なんて言いません。好きな人の幸せを願うことが……一番だと、分かっているからです」
「……」
「綺麗ごと、かもしれませんね。それでも、僕は貴女の幸せを誰よりも願っている。……そう、願っているんですよ」
アラン様のそのお言葉が、私の胸の中に響いていく。アラン様のことを恋愛対象だなんて、思ったことはない。だって、アラン様はレノーレ様のことを好きなのだと思い込んでいたから。ううん、それ以前に私は次期王妃。恋愛なんてする気もないし、するようなことも出来ない。だから……この想いを、受け止めることは出来ない。拒否することしか、出来ない。
「……でも、一つだけお聞かせください。アラン様は……レノーレ様のことが、お好きだったのでは?」
それに、それだけは確認しておきたかった。レノーレ様のことがお好きだというのは、私の勝手なる妄想で、ただの勘違いなの? そう、確認しておきたかった。なんでかなんて、分からない。ただ、それを確認したかったから確認するだけなのだ。
「レノーレ様と僕は、ただの幼馴染ですよ。それ以上でも、それ以下でもありません。見ての通り、彼女はアイザイア様にご執心だ。そんな彼女のことを好きになれ、という方が無理ですよ。だって……彼女にとって、僕はしもべ以下の存在だから」
苦笑を浮かべられながら、そんなことをおっしゃるアラン様。でも、その声音は何処か刺々しくて。言葉を具現化することが出来るとすれば、多分チクチクとしていると思う。そんなことを、考えても無駄なのにね。そう、心のどこかで考えていた私だけれど、それよりも気になることがあった。
レノーレ様にとって、アラン様がしもべ以下の存在だということが、気になった。
「……あ、あの、どうして、しもべ以下の存在なのでしょうか……?」
私のその問いかけに、アラン様は一瞬ポカンとされたものの、すぐに優しそうな表情になられる。そして、その言葉の意味を私に教えてくださった。
「フェリシタル王国の身分制度は、とても大切なもの。レノーレ様のお生まれが辺境侯であるビエナート侯爵家であり、僕の生まれた家がただの伯爵家であるベアリング伯爵家ということだけで、十分ですよ。だって……あの人は、高飛車でわがままで。貴女とは、似ても似つかない存在ですからね」
「……」
だけど、そんなことをおっしゃるアラン様の声音はばかばかしいとでも言いたげで。今までのアラン様への印象が、私の中でがらりと変化した瞬間だった。
彼も、人間だったんだ。レノーレ様に振り回されている、哀れなお方。そんな印象から、生きた人間で嫌悪感だって持っていらっしゃるんだという印象へと変化する。彼にも、感情があって、気持ちがあって。そんな当たり前のことを、私は忘れていたのかもしれない。
そう、誰にだって気持ちがあるのだ。想いが、あるのだ。
だから――。
(アイザイア様が、レノーレ様のことをお好きになれてもおかしくはないのよね)
そう言うこと、なのだ。
そう、自らを半ば無理やり納得させた。そんな風な言い訳を自らに言い聞かせ、笑顔を浮かべる。私は……完璧にならなくちゃ。そんな思いを、より一層強くしてしまった。アイザイア様は完璧じゃなくてもいいっておっしゃるけれど、それでも……完璧に、ならなくちゃ。
「あ、そろそろ僕は行きますね。……モニカ様、どうか、お幸せになってください」
そんなことを考えていた私に、アラン様はそれだけをおっしゃると、この場を去って行かれた。去って行かれるアラン様の後ろ姿を眺めながら、私はただ腕の前で手のひらをぎゅっと握った。
……アラン様の想いと、アイザイア様への想い。
……私は、どうすればいいのだろうか。私の気持ちは、間違いなくアラン様の告白により揺れていた。揺れてしまった。
そうなのだ。だって、アラン様はレノーレ様に恋い焦がれているはずで。だから、私なんかが彼の恋のお相手ということはなくて……。そうよ、間違いない。きっと、何かの勘違いが生んだことなの。言葉がちょっと拗れただけ……なのよ、ね?
「あ、アラン様……?」
私が窺うようにそう言えば、アラン様は私の瞳をまっすぐに見据えていらっしゃる。それが、とても心地悪かった。だから、私の方が先に視線を逸らしてしまう。なのに、逸らした視線の先にもアラン様が現れて。まるで、逃げることは許さないとでもおっしゃりたいみたいだった。
「……僕は、モニカ様がずっと好きだった。初めて見たときから、好きだなぁって思いました。でも、アイザイア様には到底敵うわけがない。そう、思っていました。でも……想いを伝えられないまま終わるのは、嫌だった」
そんな風なことをおっしゃるアラン様。そのお言葉を聞いて……私の頭はパンクしてしまった。わ、私が、好き……? そんなこと、言われたことがない。だからだろうか、頭が正常な判断をしてくれなかった。戸惑って、パニックになって、思考回路から冷静さが失われていく。……なのに、心のどこかでは思っていた。
――こんな風におっしゃってくれる相手が、アイザイア様だったらよかったのに、と。
今、私のことを好きだとおっしゃってくださっているのは、間違いなくアラン様だというのに。
「はっきりと言います。僕は貴女が、モニカ様が好きです。恋をしています。僕を選んで、なんて言いません。好きな人の幸せを願うことが……一番だと、分かっているからです」
「……」
「綺麗ごと、かもしれませんね。それでも、僕は貴女の幸せを誰よりも願っている。……そう、願っているんですよ」
アラン様のそのお言葉が、私の胸の中に響いていく。アラン様のことを恋愛対象だなんて、思ったことはない。だって、アラン様はレノーレ様のことを好きなのだと思い込んでいたから。ううん、それ以前に私は次期王妃。恋愛なんてする気もないし、するようなことも出来ない。だから……この想いを、受け止めることは出来ない。拒否することしか、出来ない。
「……でも、一つだけお聞かせください。アラン様は……レノーレ様のことが、お好きだったのでは?」
それに、それだけは確認しておきたかった。レノーレ様のことがお好きだというのは、私の勝手なる妄想で、ただの勘違いなの? そう、確認しておきたかった。なんでかなんて、分からない。ただ、それを確認したかったから確認するだけなのだ。
「レノーレ様と僕は、ただの幼馴染ですよ。それ以上でも、それ以下でもありません。見ての通り、彼女はアイザイア様にご執心だ。そんな彼女のことを好きになれ、という方が無理ですよ。だって……彼女にとって、僕はしもべ以下の存在だから」
苦笑を浮かべられながら、そんなことをおっしゃるアラン様。でも、その声音は何処か刺々しくて。言葉を具現化することが出来るとすれば、多分チクチクとしていると思う。そんなことを、考えても無駄なのにね。そう、心のどこかで考えていた私だけれど、それよりも気になることがあった。
レノーレ様にとって、アラン様がしもべ以下の存在だということが、気になった。
「……あ、あの、どうして、しもべ以下の存在なのでしょうか……?」
私のその問いかけに、アラン様は一瞬ポカンとされたものの、すぐに優しそうな表情になられる。そして、その言葉の意味を私に教えてくださった。
「フェリシタル王国の身分制度は、とても大切なもの。レノーレ様のお生まれが辺境侯であるビエナート侯爵家であり、僕の生まれた家がただの伯爵家であるベアリング伯爵家ということだけで、十分ですよ。だって……あの人は、高飛車でわがままで。貴女とは、似ても似つかない存在ですからね」
「……」
だけど、そんなことをおっしゃるアラン様の声音はばかばかしいとでも言いたげで。今までのアラン様への印象が、私の中でがらりと変化した瞬間だった。
彼も、人間だったんだ。レノーレ様に振り回されている、哀れなお方。そんな印象から、生きた人間で嫌悪感だって持っていらっしゃるんだという印象へと変化する。彼にも、感情があって、気持ちがあって。そんな当たり前のことを、私は忘れていたのかもしれない。
そう、誰にだって気持ちがあるのだ。想いが、あるのだ。
だから――。
(アイザイア様が、レノーレ様のことをお好きになれてもおかしくはないのよね)
そう言うこと、なのだ。
そう、自らを半ば無理やり納得させた。そんな風な言い訳を自らに言い聞かせ、笑顔を浮かべる。私は……完璧にならなくちゃ。そんな思いを、より一層強くしてしまった。アイザイア様は完璧じゃなくてもいいっておっしゃるけれど、それでも……完璧に、ならなくちゃ。
「あ、そろそろ僕は行きますね。……モニカ様、どうか、お幸せになってください」
そんなことを考えていた私に、アラン様はそれだけをおっしゃると、この場を去って行かれた。去って行かれるアラン様の後ろ姿を眺めながら、私はただ腕の前で手のひらをぎゅっと握った。
……アラン様の想いと、アイザイア様への想い。
……私は、どうすればいいのだろうか。私の気持ちは、間違いなくアラン様の告白により揺れていた。揺れてしまった。
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