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本編
第37話 『アランの告白』 ①
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――信じてもらえるように、また頑張っていくからさ。
アイザイア様が、私に対して発せられたそのお言葉。そのお言葉の意味が、私にはよくわかりませんでした。だって、そのお言葉はまるで「今は信じられなくても仕方がない」とで喪言いたげじゃないですか。……私、そんなにアイザイア様のことを信じていないように見えたのでしょうか? ……今思いましたが、確かにそう見えましたね、はい。それに、確かに信じ切ることは出来ません。信じることも……あまり、出来ていない。
(だって、全部アイザイア様が悪いんじゃない……)
アイザイア様が、私に疑問を持たれるようなことを、されるからじゃない。元はと言えば、アイザイア様が悪いんじゃない。決して、口には出さない言葉たち。それでも、心の中でぼやくぐらい許してくださってもいいじゃない。そう思って、私は心の奥底でそんなことを呟いていました。
そんなことを考えながら、私は茫然と歩く。今は夕方。全てのスケジュールが終わり、のんびりと散歩を楽しむ時間。夕方のお散歩は、比較的大好きです。オレンジ色に染まった光が窓から差し込んできて、王宮内を照らす。それが、とても綺麗だから。
オレンジ色に染まる窓の外を眺めながら、私はボーっと歩いていました。だからこそ、側から人がやってくることに気が付かなかったのです。すれ違う際に、肩と肩がぶつかってしまう。それに、慌てて頭を上げてぶつかった人を見上げた。侍女かな、従者かな。そう思って、頭を上げたのだけれど……そこにいらっしゃったのは、想像もしていなかったお顔。
「……アラン様」
そこにいらっしゃったのは、他でもないアラン様でした。そう、あの、レノーレ様の幼馴染であられるベアリング伯爵家のご令息、アラン様です。……なんだか、アラン様が浮かない表情をされているのは、気のせいではないと思うのですが……私に、それを指摘する元気はありませんでした。だって、そんなことよりも自らのことの方が大切なんですもの。人の心配なんてしている余裕が、心にないんです。ごめんなさい、アラン様。
「も、モニカ様……。すみません、ぶつかってしまって。と、ところで……モニカ様? 何やら浮かない表情をされているようですが、何かありましたか?」
ですが、私とは対照的にアラン様は私が浮かない表情をしている理由を尋ねてこられました。……本当のことなんて、言えやしない。だって、アイザイア様との関係が歪になっているなんて、他所のお方に言っていいことではありません。私とアイザイア様の関係が歪なことは、王宮内で知られているだけで十分ですし。他言無用に決まっています。
「い、いいえ、ちょっと気分が優れないだけなんです。別に、何かがあったわけではありませんの」
にっこりと、出来る限り笑って、私はそう言いました。今更思いましたが、私って相当浮かない表情をしていたのでしょうか? だって、じゃないとアラン様が気が付くわけがないですもの。
「そうですか。じゃあ、良かったですよ。実は……僕は、気が重くて。両親の代わりに大臣たちに会うんです。両親は、そう言うのに一切興味がなくて……」
「……両親、ということは伯爵も、ですか?」
「はい、僕の両親……というか、父は今の母と再婚してから、ダメ人間になりました。領地経営にもほとんど関わらず、いつもいつも威張っているだけ。……そんな父を見ているからでしょうね。僕は、このままじゃダメだって思っているんですよ」
そんなことをおっしゃって、苦笑を浮かべられたアラン様。……なんだか、彼もいろいろと大変なご様子です。
(……確かに、ベアリング伯爵家の財政はあまり良くないそうですから……)
もしかしたら、アラン様のおっしゃっていること以上に、大変なことになっているのかもしれません。そう、思いました。でも、今の私に人のことを心配している余裕なんてちっともありません。なので……私の方もただ苦笑を浮かべて「そうなのですか」というだけにとどめました。その私の言葉を聞いたアラン様も「そうなんですよ」とおっしゃってくださいました。
……なんて言うか、私たちって似た者同士なのかもしれませんね。そんなことを、失礼にも思ってしまいました。
アイザイア様が、私に対して発せられたそのお言葉。そのお言葉の意味が、私にはよくわかりませんでした。だって、そのお言葉はまるで「今は信じられなくても仕方がない」とで喪言いたげじゃないですか。……私、そんなにアイザイア様のことを信じていないように見えたのでしょうか? ……今思いましたが、確かにそう見えましたね、はい。それに、確かに信じ切ることは出来ません。信じることも……あまり、出来ていない。
(だって、全部アイザイア様が悪いんじゃない……)
アイザイア様が、私に疑問を持たれるようなことを、されるからじゃない。元はと言えば、アイザイア様が悪いんじゃない。決して、口には出さない言葉たち。それでも、心の中でぼやくぐらい許してくださってもいいじゃない。そう思って、私は心の奥底でそんなことを呟いていました。
そんなことを考えながら、私は茫然と歩く。今は夕方。全てのスケジュールが終わり、のんびりと散歩を楽しむ時間。夕方のお散歩は、比較的大好きです。オレンジ色に染まった光が窓から差し込んできて、王宮内を照らす。それが、とても綺麗だから。
オレンジ色に染まる窓の外を眺めながら、私はボーっと歩いていました。だからこそ、側から人がやってくることに気が付かなかったのです。すれ違う際に、肩と肩がぶつかってしまう。それに、慌てて頭を上げてぶつかった人を見上げた。侍女かな、従者かな。そう思って、頭を上げたのだけれど……そこにいらっしゃったのは、想像もしていなかったお顔。
「……アラン様」
そこにいらっしゃったのは、他でもないアラン様でした。そう、あの、レノーレ様の幼馴染であられるベアリング伯爵家のご令息、アラン様です。……なんだか、アラン様が浮かない表情をされているのは、気のせいではないと思うのですが……私に、それを指摘する元気はありませんでした。だって、そんなことよりも自らのことの方が大切なんですもの。人の心配なんてしている余裕が、心にないんです。ごめんなさい、アラン様。
「も、モニカ様……。すみません、ぶつかってしまって。と、ところで……モニカ様? 何やら浮かない表情をされているようですが、何かありましたか?」
ですが、私とは対照的にアラン様は私が浮かない表情をしている理由を尋ねてこられました。……本当のことなんて、言えやしない。だって、アイザイア様との関係が歪になっているなんて、他所のお方に言っていいことではありません。私とアイザイア様の関係が歪なことは、王宮内で知られているだけで十分ですし。他言無用に決まっています。
「い、いいえ、ちょっと気分が優れないだけなんです。別に、何かがあったわけではありませんの」
にっこりと、出来る限り笑って、私はそう言いました。今更思いましたが、私って相当浮かない表情をしていたのでしょうか? だって、じゃないとアラン様が気が付くわけがないですもの。
「そうですか。じゃあ、良かったですよ。実は……僕は、気が重くて。両親の代わりに大臣たちに会うんです。両親は、そう言うのに一切興味がなくて……」
「……両親、ということは伯爵も、ですか?」
「はい、僕の両親……というか、父は今の母と再婚してから、ダメ人間になりました。領地経営にもほとんど関わらず、いつもいつも威張っているだけ。……そんな父を見ているからでしょうね。僕は、このままじゃダメだって思っているんですよ」
そんなことをおっしゃって、苦笑を浮かべられたアラン様。……なんだか、彼もいろいろと大変なご様子です。
(……確かに、ベアリング伯爵家の財政はあまり良くないそうですから……)
もしかしたら、アラン様のおっしゃっていること以上に、大変なことになっているのかもしれません。そう、思いました。でも、今の私に人のことを心配している余裕なんてちっともありません。なので……私の方もただ苦笑を浮かべて「そうなのですか」というだけにとどめました。その私の言葉を聞いたアラン様も「そうなんですよ」とおっしゃってくださいました。
……なんて言うか、私たちって似た者同士なのかもしれませんね。そんなことを、失礼にも思ってしまいました。
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