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本編
第23話 『独占欲』 ②
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「ねぇ、モニカ。一つだけ、聞いてもいいかな?」
また別の日。私とアイザイア様は、いつものように中庭でお茶をしていました。私たちを纏う雰囲気は、とても和やかなものであり、きっと使用人たちも心をホッと撫でおろしたでしょう。私たちの関係が歪になってきていることは、使用人たちの間でも広まり始めていたようですから。
ですが、アイザイア様の発したこの一言で、この場が凍り付くことになるなど、今の段階で誰が予想していたでしょうか。きっと、誰も想像できなかったことだと思います。
「……はい」
「昨日、俺の知らない男と一緒に居たよね? あれは……誰?」
使用人たちは、きっとその瞬間ブリザードが吹き荒れた気がしたでしょう。もちろん、私もです。しかも、アイザイア様は間違いなく不機嫌でした。紅茶に入ったカップを乱暴にテーブルの上に置かれると、私をまっすぐに見据えます。対する私は、必死に考えを張り巡らせていました。
(……昨日、昨日)
必死に思い出そうとしますが、特にアイザイア様の存じ上げない貴族の男性と一緒に居た覚えはありません。むしろ、貴族の男性だった場合は同性であるアイザイア様の方がお詳しいはずです。「誰」なんておっしゃるわけがありません。……しかも、私は昨日一日ずっとお妃教育を詰め込まれていました。家庭教師を含め、周りの人たちがほとんど女性になった今、アイザイア様の存じ上げない男性と一緒に居るわけがありません。
(……あ、もしかしてだけれど……)
しかし、私の頭の中には一人の男性が思い浮かんでいました。にこやかに微笑んでいる、糸目の男性。彼は……私の実家であるエストレア公爵家に最近入ってきたという従者。アイザイア様が存じ上げないのも、頷けます。
「……もしかして、従者の、方……?」
そう私がつぶやけば、アイザイア様は「そっか」とだけおっしゃいました。
「……そう。じゃあ、そいつのことも俺に紹介してね。エストレア公爵家の従者も執事も、俺がちゃんと把握しておかないとだめだからさ。あと、基本的に実家からの使者も女性にしてもらってね。侍女やメイドだって、たくさんいるでしょう? そっちの方が、俺も安心できるからさ」
早口でそんな言葉を紡がれたアイザイア様に、私はただポカンとするしか出来ませんでした。おっしゃっている内容を要約すると、実家からの使者は全て女性にしろとおっしゃっているのでしょう。そして、実家の使用人たちはみなアイザイア様に紹介しろということなのでしょう。
「……で、ですがっ!」
――それは、したくない。
そう、思ってしまいました。今の歪なアイザイア様との関係を、実家の人には誰にも知らせていませんでした。もしも、そんなことを伝えてしまえば……何かがあったと、実家の人たちに余計な心配をかけてしまいます。それだけは、何としてでも私が避けたいことだったからです。
「ねぇ、モニカ。一つだけ、聞いてもいいかな?」
また別の日。私とアイザイア様は、いつものように中庭でお茶をしていました。私たちを纏う雰囲気は、とても和やかなものであり、きっと使用人たちも心をホッと撫でおろしたでしょう。私たちの関係が歪になってきていることは、使用人たちの間でも広まり始めていたようですから。
ですが、アイザイア様の発したこの一言で、この場が凍り付くことになるなど、今の段階で誰が予想していたでしょうか。きっと、誰も想像できなかったことだと思います。
「……はい」
「昨日、俺の知らない男と一緒に居たよね? あれは……誰?」
使用人たちは、きっとその瞬間ブリザードが吹き荒れた気がしたでしょう。もちろん、私もです。しかも、アイザイア様は間違いなく不機嫌でした。紅茶に入ったカップを乱暴にテーブルの上に置かれると、私をまっすぐに見据えます。対する私は、必死に考えを張り巡らせていました。
(……昨日、昨日)
必死に思い出そうとしますが、特にアイザイア様の存じ上げない貴族の男性と一緒に居た覚えはありません。むしろ、貴族の男性だった場合は同性であるアイザイア様の方がお詳しいはずです。「誰」なんておっしゃるわけがありません。……しかも、私は昨日一日ずっとお妃教育を詰め込まれていました。家庭教師を含め、周りの人たちがほとんど女性になった今、アイザイア様の存じ上げない男性と一緒に居るわけがありません。
(……あ、もしかしてだけれど……)
しかし、私の頭の中には一人の男性が思い浮かんでいました。にこやかに微笑んでいる、糸目の男性。彼は……私の実家であるエストレア公爵家に最近入ってきたという従者。アイザイア様が存じ上げないのも、頷けます。
「……もしかして、従者の、方……?」
そう私がつぶやけば、アイザイア様は「そっか」とだけおっしゃいました。
「……そう。じゃあ、そいつのことも俺に紹介してね。エストレア公爵家の従者も執事も、俺がちゃんと把握しておかないとだめだからさ。あと、基本的に実家からの使者も女性にしてもらってね。侍女やメイドだって、たくさんいるでしょう? そっちの方が、俺も安心できるからさ」
早口でそんな言葉を紡がれたアイザイア様に、私はただポカンとするしか出来ませんでした。おっしゃっている内容を要約すると、実家からの使者は全て女性にしろとおっしゃっているのでしょう。そして、実家の使用人たちはみなアイザイア様に紹介しろということなのでしょう。
「……で、ですがっ!」
――それは、したくない。
そう、思ってしまいました。今の歪なアイザイア様との関係を、実家の人には誰にも知らせていませんでした。もしも、そんなことを伝えてしまえば……何かがあったと、実家の人たちに余計な心配をかけてしまいます。それだけは、何としてでも私が避けたいことだったからです。
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