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本編
第22話 『独占欲』 ①
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あの日から数日後。私は心にモヤモヤを抱えながら、日々を過ごしておりました。アイザイア様のお言葉は、私のことを縛り付けていました。あれがダメ、これがダメ。日に日に増えている制限の数々。それが、私の心を疲弊させていたからです。徐々に心に余裕がなくなり、食事の量も明らかに減っていました。それを、ヴィニーに指摘されることも多くなったのですが、それでも必死に「何でもない」と言って誤魔化していました。ですが、それも徐々に限界に近づいてきている気が、していました。
「……はぁ、今日も上手く集中できなかったなぁ……」
ある日の私は、少し落ち込んでいました。食事が喉を通らないこともあり、最近集中力が続かなくなっていたのです。その結果、お妃教育の授業では失敗ばかりしてしまいます。不幸中の幸いなのは、私は普段真面目だったこともあり、家庭教師の方々は私を責めるではなく、ただ心配のお言葉だけをかけてくださったことでしょうか。
――調子が悪いのですか?
――風邪でも、引かれたのですか?
そう何度も問われましたが、本当のことは言えませんでした。ただ、「少し体調が優れないのです」と言って誤魔化すことしか出来ません。アイザイア様のことを相談したからと言って、このことが解決するわけがないからです。
「……モニカ様。最近、お疲れのようですが……何か、落ち着くものをご用意しましょう」
「……ありがとう、ヴィニー」
お妃教育の間、側に控えていることが多いヴィニーは、私の体調が優れないことに気が付いていたのでしょう。だからこそ、しばらくの間でも、と休暇を勧めてくれました。でも、私は断固として頷きませんでした。
今は、休みたくなかった。何かをして、心を誤魔化していたかったから。
そう思った私の気持ちも尊重してくれるものの、ヴィニーはきっと納得できていないのでしょう。表情に、そう書いてありますから。
「……モニカ? 偶然だね」
そんな時、いつもの声が聞こえてきました。その声は、私をここまで疲弊されている主の声であり、全ての元凶であるアイザイア様の声でした。聞き間違えるわけがないのです。だからこそ、私はゆっくりと顔を上げていました。目の下にできている隈は、寝不足から来たものです。
「……はい、アイザイア様」
出来れば、今はお話したくない。そう思うものの、アイザイア様はその気持ちを察してくださいません。いえ、アイザイア様のことです。きっと察していても無視を貫いているのでしょう。それは、すぐに想像が出来ました。
「……あ、そうだ。モニカに伝えておかなくちゃならないことがあるんだ。確か、座学の方に初老の家庭教師が付いていただろう? あの人、モニカの担当から外してもらったから」
「……え?」
ですが、アイザイア様のそのお言葉は先ほどまでの私の考えを吹き飛ばすぐらい、衝撃的なお言葉でした。
確かに、勉強で座学の方に初老の家庭教師がいました。六十を過ぎているということも、聞いたことがあります。彼は、いつも私のことを孫の様に可愛がってくれました。だからこそ、私にとって祖父のような存在だったのです。そんな彼の授業はとても面白く、私はいつも楽しみにしていました。だけど……その家庭教師を、私の許可なく担当から外した、とアイザイア様はおっしゃったのです。
「なんで」
「なんで? おかしなことを言うね? 男性の家庭教師はダメだって言ったでしょう? あ、大丈夫だよ。これからはリンフォードの家庭教師になってもらうから、路頭に迷ったりすることはないからさ」
――違う、そんなことが言いたいんじゃないんです。
そう思うのに、私の声は出ませんでした。それはきっと、疲れからくるものだったのでしょう。もう、限界だ。そんな心のサインでもあったのだと、思います。
「……はぁ、今日も上手く集中できなかったなぁ……」
ある日の私は、少し落ち込んでいました。食事が喉を通らないこともあり、最近集中力が続かなくなっていたのです。その結果、お妃教育の授業では失敗ばかりしてしまいます。不幸中の幸いなのは、私は普段真面目だったこともあり、家庭教師の方々は私を責めるではなく、ただ心配のお言葉だけをかけてくださったことでしょうか。
――調子が悪いのですか?
――風邪でも、引かれたのですか?
そう何度も問われましたが、本当のことは言えませんでした。ただ、「少し体調が優れないのです」と言って誤魔化すことしか出来ません。アイザイア様のことを相談したからと言って、このことが解決するわけがないからです。
「……モニカ様。最近、お疲れのようですが……何か、落ち着くものをご用意しましょう」
「……ありがとう、ヴィニー」
お妃教育の間、側に控えていることが多いヴィニーは、私の体調が優れないことに気が付いていたのでしょう。だからこそ、しばらくの間でも、と休暇を勧めてくれました。でも、私は断固として頷きませんでした。
今は、休みたくなかった。何かをして、心を誤魔化していたかったから。
そう思った私の気持ちも尊重してくれるものの、ヴィニーはきっと納得できていないのでしょう。表情に、そう書いてありますから。
「……モニカ? 偶然だね」
そんな時、いつもの声が聞こえてきました。その声は、私をここまで疲弊されている主の声であり、全ての元凶であるアイザイア様の声でした。聞き間違えるわけがないのです。だからこそ、私はゆっくりと顔を上げていました。目の下にできている隈は、寝不足から来たものです。
「……はい、アイザイア様」
出来れば、今はお話したくない。そう思うものの、アイザイア様はその気持ちを察してくださいません。いえ、アイザイア様のことです。きっと察していても無視を貫いているのでしょう。それは、すぐに想像が出来ました。
「……あ、そうだ。モニカに伝えておかなくちゃならないことがあるんだ。確か、座学の方に初老の家庭教師が付いていただろう? あの人、モニカの担当から外してもらったから」
「……え?」
ですが、アイザイア様のそのお言葉は先ほどまでの私の考えを吹き飛ばすぐらい、衝撃的なお言葉でした。
確かに、勉強で座学の方に初老の家庭教師がいました。六十を過ぎているということも、聞いたことがあります。彼は、いつも私のことを孫の様に可愛がってくれました。だからこそ、私にとって祖父のような存在だったのです。そんな彼の授業はとても面白く、私はいつも楽しみにしていました。だけど……その家庭教師を、私の許可なく担当から外した、とアイザイア様はおっしゃったのです。
「なんで」
「なんで? おかしなことを言うね? 男性の家庭教師はダメだって言ったでしょう? あ、大丈夫だよ。これからはリンフォードの家庭教師になってもらうから、路頭に迷ったりすることはないからさ」
――違う、そんなことが言いたいんじゃないんです。
そう思うのに、私の声は出ませんでした。それはきっと、疲れからくるものだったのでしょう。もう、限界だ。そんな心のサインでもあったのだと、思います。
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