上 下
8 / 62
本編

第8話 『素敵な婚約者』 ②

しおりを挟む
**

「……アイザイア様? 私に、何か御用でしょうか……?」

 アイザイア様が待っていると伝えられた中庭に私が出向くと、そこではアイザイア様がいつもの場所にて優雅に紅茶を飲んでおられました。ですが、すぐに私に気が付いてくださりにっこりとした笑みを向けてくださいます。私にとってその表情は、いつもよりも柔らかい気がしました。……まぁ、気のせいなのでしょうが。

「あぁ、モニカ。急に呼んだりしてごめんね。俺が休みになって、モニカも休みだって聞いたからさ。お茶でもしようかなって思ったんだ」

 そうおっしゃいながら、アイザイア様は目の前の椅子を私に勧めてくださいました。なので、私はそのお誘いに乗り、椅子に腰かけました。本日選んだドレスは淡い水色のものです。これは、私がとても気に入っていて、何度も何度もコーディネートを変えてまで着ているものです。このドレスを身に纏えば、少しは気分が晴れるかもしれない。そう、思っての行動でした。でも、その期待は裏切られたに等しかったのですけれど。

「ルーサー。モニカの分のお茶を」
「はい、アイザイア様」

 そんな会話のすぐ後に、私の前に湯気の上がった紅茶が出されます。一口飲めば、口の中に広がる味。その味に、私は驚きました。だって、これは私が好きなブレンドだったからです。よくよく見れば、隣にお茶菓子として出されているケーキも、私が好きだと常日頃から言っていたものです。

 ――もしかして、私のことを励ましてくださっている?

 そう思いましたが、アイザイア様が本日私が落ち込んでいるということを、知っているわけがありません。すべては、偶然なのです。そう、私は思いこむことにしました。紅茶もケーキも、本日用意できたものがこれだった。そんなことを、自分自身に言い聞かせました。じゃないと……なんだか、期待してしまいそうなのです。

「……モニカ? 浮かない表情をしているけれど、やっぱり、何かがあったんだろう?」

 しばらく他愛のないお話をしていた私たちでしたが、不意にアイザイア様が私にそう声をかけてくださいました。それに、私はまたしても驚いてしまいます。……普段通りの表情を装っていたはずなのに。なのに……どうして、気分が落ち込んでいることをアイザイア様が知っていらっしゃるのでしょうか?

「……いいえ、特にいつもと変わりありませんわ」

 ですが、やはり私は素直にはなれませんでした。こんな時、素直になれたら可愛らしいと思うのに。そう思うのに、いつも素直になれない。いつも……強がってしまうのです。

「……嘘が下手だね。……モニカは、よく頑張っているよ。だから、完璧になんてならなくてもいいんだ。大切なのは努力することと優しさなんだから。……偉いよ、モニカは、すごくいい子で優しい子だ」
「っつ!」

 そのお言葉に、私の身体が小さく震えました。

 ――妹扱いは、もういい加減やめてほしい。

 そんな言葉が、脳内ではループするのに、実際には口には出せません。

 しかも、ポツリポツリと涙がこぼれてしまいました。……これは、一体何なのでしょうか?

「……頑張ってるの。俺はきちんと知っているからね」

 ――どうして、このお方は、人が弱っているときに限ってそんな優しいお言葉をかけてこられるのだろうか。そう言うところが――大嫌いで、大好きなんだ。

「……あり、が、とう、ございます……」

 その気持ちを実感しながら、とぎれとぎれに伝えた感謝の言葉。それは、しっかりとアイザイア様の元に届いていたようでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

内気な貧乏男爵令嬢はヤンデレ殿下の寵妃となる

下菊みこと
恋愛
ヤンデレが愛しい人を搦めとるだけ。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く

魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」 帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。 混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。 ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。 これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

【完結】帰れると聞いたのに……

ウミ
恋愛
 聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。 ※登場人物※ ・ゆかり:黒目黒髪の和風美人 ・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ

冷血弁護士と契約結婚したら、極上の溺愛を注がれています

朱音ゆうひ
恋愛
恋人に浮気された果絵は、弁護士・颯斗に契約結婚を持ちかけられる。 颯斗は美男子で超ハイスペックだが、冷血弁護士と呼ばれている。 結婚してみると超一方的な溺愛が始まり…… 「俺は君のことを愛すが、愛されなくても構わない」 冷血サイコパス弁護士x健気ワーキング大人女子が契約結婚を元に両片想いになり、最終的に両想いになるストーリーです。 別サイトにも投稿しています(https://www.berrys-cafe.jp/book/n1726839)

処理中です...