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世界②
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「さあ、家に帰ろか」
父がそう言いました。やはり今日の目的はあの集落だったようです。
父は僕に見せたかったのか、自分が見たかったのか。それとも他に何か目的があったのかどうかは分かりませんでした。
家路につきながら、先ほどの少女の目を思い出していました。
少女の身なりはすごく貧相だったけれど、その瞳は燃えているようでした。
そこから少女のプライドや情熱が見えてくるようでした。
「自分の置かれた境遇からいつかは逃げ出してやる」
そんな言葉が聞こえてくるような瞳でした。
おそらく、彼女の心は僕より遥かに強いでしょう。
少なくとも僕のようなひ弱な子供ではありません。困難にぶち当たってもへこたれはしないでしょう。
僕は振り返って、トタン屋根の平屋が並ぶ住宅街を眺めながら思いました。
僕たちの生れた時間と場所が運命のように合えば、アケミちゃんとも友だちになれたかもしれません。
ですが、運命の神さまは残酷です。
お互いの知らない世界だけを見せておいて、あとは知らんぷりです。
僕は少女の境遇に驚き、少女は僕の身なりを羨ましく思ったことでしょう。
二人の距離は一瞬すごく近づいたけれど、その間の距離は永遠に開き切ったままです。
その日の夕食後、二階の部屋からトイレに降りると、父と母の声が聞こえてきました。
「陽一をあんな場所に連れて行ったん?」母は父に抗議しているようです。
すると父は、「もう少し大きくなってからと思ってたけど、もうええやろ、と思ってな」と言ってます。
「そやけど、あんな場所、知らん方がええやないの」母は父が僕と集落に行ったことに納得できないようです。
「あそこが・・あんな檻がこの町にあるのも本当の事やで」父が反論しています。
そんなやり取りが繰り返された後、
「あの子、あの場所を見ても平気やった?」
母が不安そうに訊ねると、父は、「平気ではなかったと思うけど、あの子なりに色々と感じ入るところはあったやろな」と返しました。
「でも、ショックを受けてたんとちゃうやろか?」母は繰り返し言いました。
父はしばらく黙った後、
「あの子には、強い子になってもらわなあかんしな。世の中の綺麗なものばかり見せるのが親の役目と違うんやで」と言いました。
父には父の考えがあるようです。
その後、父はこうも言っていました。
「イヤな事から目を背けて見ないのは簡単やけどな・・イヤなものを見続けるのはずっと難しいんや。心もすり減らすしな」
「けど・・」母が言い淀みました。
母はそれには反対のようです。
ですが父は、
「楽な方に流れてたら心も成長せえへん」と突っ撥ねました。
父の考えが間違っていてもそうでなくても、僕は父の息子です。父の考えを受け入れなければいけません。もし間違っているのなら、僕が抵抗するだけのことです、
その後、母が、「あんな場所、早くなくなったらええのにな」と言いました。
それはそう思いますが、あの集落がなくなると、アケミちゃんはどうなるのか、それが不安になります。
「しばらくはあの檻みたいなのはあるやろな」と父が言いました。
父の言葉に不安を感じていいのか、それともあそこにアケミちゃんがしばらくいることに安心すればいいのか、分からなくなってきました。
その日の夜、僕は一晩中泣きました。
あの集落は僕の住んでいる世界と同じ世界なのか? そんな疑問が浮かびました。
どっちが本当の世界なのでしょうか。
その夜、こう思ったのです。
「今日、集落とあの子供たちのことは死ぬまで忘れないようにしよう」
そう決意しました。
「アケミちゃん、お休みなさい」
僕は柔らかな布団で寝ることはできても、アケミちゃんは金網の中です。安眠など到底できないでしょう。
「アケミちゃん、ごめんなさい・・」
父がそう言いました。やはり今日の目的はあの集落だったようです。
父は僕に見せたかったのか、自分が見たかったのか。それとも他に何か目的があったのかどうかは分かりませんでした。
家路につきながら、先ほどの少女の目を思い出していました。
少女の身なりはすごく貧相だったけれど、その瞳は燃えているようでした。
そこから少女のプライドや情熱が見えてくるようでした。
「自分の置かれた境遇からいつかは逃げ出してやる」
そんな言葉が聞こえてくるような瞳でした。
おそらく、彼女の心は僕より遥かに強いでしょう。
少なくとも僕のようなひ弱な子供ではありません。困難にぶち当たってもへこたれはしないでしょう。
僕は振り返って、トタン屋根の平屋が並ぶ住宅街を眺めながら思いました。
僕たちの生れた時間と場所が運命のように合えば、アケミちゃんとも友だちになれたかもしれません。
ですが、運命の神さまは残酷です。
お互いの知らない世界だけを見せておいて、あとは知らんぷりです。
僕は少女の境遇に驚き、少女は僕の身なりを羨ましく思ったことでしょう。
二人の距離は一瞬すごく近づいたけれど、その間の距離は永遠に開き切ったままです。
その日の夕食後、二階の部屋からトイレに降りると、父と母の声が聞こえてきました。
「陽一をあんな場所に連れて行ったん?」母は父に抗議しているようです。
すると父は、「もう少し大きくなってからと思ってたけど、もうええやろ、と思ってな」と言ってます。
「そやけど、あんな場所、知らん方がええやないの」母は父が僕と集落に行ったことに納得できないようです。
「あそこが・・あんな檻がこの町にあるのも本当の事やで」父が反論しています。
そんなやり取りが繰り返された後、
「あの子、あの場所を見ても平気やった?」
母が不安そうに訊ねると、父は、「平気ではなかったと思うけど、あの子なりに色々と感じ入るところはあったやろな」と返しました。
「でも、ショックを受けてたんとちゃうやろか?」母は繰り返し言いました。
父はしばらく黙った後、
「あの子には、強い子になってもらわなあかんしな。世の中の綺麗なものばかり見せるのが親の役目と違うんやで」と言いました。
父には父の考えがあるようです。
その後、父はこうも言っていました。
「イヤな事から目を背けて見ないのは簡単やけどな・・イヤなものを見続けるのはずっと難しいんや。心もすり減らすしな」
「けど・・」母が言い淀みました。
母はそれには反対のようです。
ですが父は、
「楽な方に流れてたら心も成長せえへん」と突っ撥ねました。
父の考えが間違っていてもそうでなくても、僕は父の息子です。父の考えを受け入れなければいけません。もし間違っているのなら、僕が抵抗するだけのことです、
その後、母が、「あんな場所、早くなくなったらええのにな」と言いました。
それはそう思いますが、あの集落がなくなると、アケミちゃんはどうなるのか、それが不安になります。
「しばらくはあの檻みたいなのはあるやろな」と父が言いました。
父の言葉に不安を感じていいのか、それともあそこにアケミちゃんがしばらくいることに安心すればいいのか、分からなくなってきました。
その日の夜、僕は一晩中泣きました。
あの集落は僕の住んでいる世界と同じ世界なのか? そんな疑問が浮かびました。
どっちが本当の世界なのでしょうか。
その夜、こう思ったのです。
「今日、集落とあの子供たちのことは死ぬまで忘れないようにしよう」
そう決意しました。
「アケミちゃん、お休みなさい」
僕は柔らかな布団で寝ることはできても、アケミちゃんは金網の中です。安眠など到底できないでしょう。
「アケミちゃん、ごめんなさい・・」
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