檻の中の少女 ~ 集落で飼われる子供たち

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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世界①

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◆世界

 余りの衝撃的なことに、僕は立ち尽くすだけでした。
 そんな僕を見かねてか、一人の男が、「ほらほら、いい子はお父ちゃんの所に早く戻りな」と急かしました。
 男の顔は怖いです。まるで人殺しでも簡単にしそうな顔に見えます。
 アケミという子ともっと話したかったのですが、僕は怖くなって、父の元へと駆け出しました。

 檻の所にいたのは、数分だったのでしょうか。
 父はそれほど心配することなく、先ほどいた所で待っていました。
「陽一・・怖かったか?」
 父に名前を呼ばれると、元の世界に戻った気がしました。
 僕は「うん」と、強く頷きました。
「すごい場所やろ?」父はそう言いました。
 それにしても、父はどうしてこんな場所に僕を連れて来たのでしょう。
 父にとってのあの場所は僕の社会見学のようにも思えました。

「あの子ら、閉じ込められてるの?」僕は一番に訊ねました。
 すると父は、「たぶん、そんなに長くはいないんとちゃうかな。じきにとこかに移されるはずや」と言いました。
 どこかに移される・・その言葉を聞くと余計に怖くなります。
「何かされるん?」
「よそ者に何かすることはあらへん」
「いや、僕のことじゃなくて・・」
 あのアケミちゃんが心配だったのです。
「それはお父さんにも分からん」父はそう言いました。
 そして、僕の記憶が正しければ、父はこう言ったと思います。
「あの子供たちは、あそこの集落の人が安く買った子供たちや。ここから、またどこかに売られるはずや」
 僕は絶句しました。
 僕が大人になったら助け出すも何もありません。アケミちゃんは明日にもどこかに売られる運命かもしれないのです。

 僕は檻の方を振り返りました。
 アケミちゃんは、奥に身を隠しているのか、見えません。
 他の子供たちは、僕たち父子を興味深げに見ています。
 僕は想像しました。
 あの檻に入れられている子供たちは、学校に行くどころか、親もいない子供なのです。
 身よりは、同じく檻に入れられている子供たちしかいません。
 その子たちも、いずれは引き裂かれるかもしれないのです。

 そんな僕の顔を見ながら父は、
「ええか。よく頭に刻み付けておくんやで。あれが世界というもんや・・世界は綺麗な場所ばかりやないんや」と言いました。
 父が言うには、この集落には水も電気もないそうです。
「電話はあるん?」
 僕が訊ねると、
「そんなもん、あるかいな」と父は言いました。
 父はその後「陽一」と僕の名を呼び、
「お前は、お父さんとお母さんの子供に生まれて幸せと思わなあかんで」と強く言いました。
 僕は「うん」と頷いた後、
「あの子らを助けてあげること・・檻から出してあげること、できへんの?」
 父なら何とかしてくれる。そう思ったのです。
 僕の頭にはアケミちゃんのことしかありませんでした。
 けれど父は、
「あほか、そんなことしたら、あそこの連中に殺されるわ」と言いました。
 更に、「あそこの女ボスの二人は、何人も人を殺しているらしいからな」と続けました。
 確かに男の人より、顔が同じ女の人の方が怖く見えました。
「あの女の人らって双子なん?」
「ああそうや、あれは双子や。顔が同じなのを利用して、悪どい犯罪をしているらしい」
 顔が同じなのを利用して・・まるで江戸川乱歩の推理小説みたいです。
 双子の女の人の目はすごく不気味でした。
 三日月みたいな笑っている目です。怒っているようにも、笑っているように見える目です。
 父の「何人も殺している」という言葉、それだけは真実のような気がしました。
 あの双子なら、人を殺していても不思議ではない。そう思いました。人としての情がない。もっと言えば人間の血が通っていないようにも見えました。

 父の話を聞きながら、これ以上、この集落に関わると本当に殺されるかもしれないと思いました。父がよそ者には手を出さないと言っていましたが、安心はできません。

「警察に言うたらええんとちゃうの?」
 僕が訊ねると、父は、「日本には、警察とか手が出せない場所もあるんや」と言いました。
 愕然としました。
 僕は警察というものは悪い人を逮捕してくれる正義の人だと思っています。そんな警察が手を出せないのなら、僕は何を頼りにすればいいのでしょうか。

 父の話を聞くうちに、大人であるお父さんのことまで怖くなってきました。
「言うことを聞かないと、檻の中に入れるぞ!」
 父の目を見ていると、そんなお仕置きのような言葉が聞こえてきそうです。
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