美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第23話 え、いきなり?

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 何か怖かった……本当によかったんだろうか。
 今すぐ喧嘩という雰囲気ではなかったが、せめて仲介すればよかっただろうか……
 あの場を離れてから、色々と考えて悶々としてしまう。
 足元で1匹の猫が鳴き声を発した。それを皮切りに野良猫たちが鳴き出した。

「ごめんごめん」

 野良猫たちが鳴いて要求するまでいつものことを忘れていた。
 そんな彼らに急かされるように茹でた鳥肉を食べさせる。
 いつも通りの姿に癒されるもすぐに気持ちは先程の場を思い出し心配になってしまう。

「皆はどう思う?」

 ご飯から離れて慰めてくれるように集まってきた数匹を撫でて気を紛らわせながら話しかける。
 案の定というべきか「にゃ~」としか返ってこなかった。
 なんてことをしていると、後ろで扉が開く音が聞こえてきた。

「トーワ、悪い。待たせたな」

 どうやら話し合いは終わったらしい。
 アイリさんが僕を呼ぶ。

「いえ……大丈夫でしたか?」

 喧嘩とか、もしかして僕がしたことは余計なことで、実は皆は不仲だったとか……
 しかし、アイリさんは僕の言葉を笑って否定した。
 よかった……そういうことではないらしい。でもだったらなんでだろう?
 疑問に感じながらも院内へと戻った。
 そこではなかなか顔に表情を出さないミーナが僅かに顔を強張らせている。
 分かり易く緊張でガチガチになっているシルヴィさんもいた。

「あの……?」

 様子がおかしい。
 息を深く吐いたアイリさんを横目に見る。
 彼女は二人のほうに進み、僕と向かい合うように振り向いた。
 とても真剣な表情で言葉を発した。

「実は……伝えたいことがある」

 ミーナが一度、シルヴィさんが何度も頷いている。
 その様子を見るに、どうやら全員らしい。
 なんだろう。ちょっと緊張する。
 真面目な話なんだろうかと佇まいを直した。

「話というのは?」

 僕が皆に目を向ける。
 深く呼吸をするアイリさん、そわそわと落ち着かない様子のミーナ、なぜか細かく震え偶に動くと動きが硬いシルヴィさん。
 三者三様の様子を見せる中、アイリさんが見かねた様子でカチコチに固まったシルヴィさんを肘で突いた。
 ビクン!? と彼女は大きく体を跳ね上げる。
 弾かれるようにシルヴィさんは僕を呼んだ。

「あ、あのっ、トーワさんッ!」

 彼女の緊張がこっちにまで伝わってくる。
 シルヴィさんが大きく息を吸い、一瞬だけ間を空けると、彼女は一息に伝えてきた。

「け、結婚してくださいっ!!」

「え?」「は?」

 アイリさんとミーナさんが驚いている。
 僕も僕であまりのことに返事もできない。
 何とか「え……?」と、声を返すのがやっとだった。
 そんな僕を見てもう一度シルヴィさんが息を吸った。

「結婚してください!」

 違うんです。聞こえなかったわけじゃないんです。
 横の二人が信じられないような顔で「え、何してんの?」みたいな目をシルヴィさんに向けていた。
 さすがに察した。さっきは何でか驚いてたし、自惚れの可能性もなくはないけど……たぶんアイリさんとミーナも同じ話だ。
 二人に視線を向けると、アイリさんとミーナが分かり易く狼狽していた。

「い、いや、アタシは……違う、こともないんだが……」

 オロオロと手を落ち着きなく動かして、ガシガシと頭の後ろを掻いたアイリさん。
 射貫くような鋭い眼光でシルヴィさんを睨む。

「くっ……!」

 あーもう! と、吠えるように声を荒げて伝えてきた。

「アタシも、トーワのこと好きなんだ。け、結婚してくれ!」

 同様にシルヴィさんを睨みつけていたミーナも出遅れたとばかりに続く。

「私をトーワの番にしてほしいっ!」

 女の子たちがこんな寂れた治療院に遊びに来てくれることに何とも思わなかったわけじゃない。
 僕は鈍感な方だけど、少しくらいは察していた。
 彼女たちが僕のことを好いてくれていることは分かっていた。
 それを知った上で、ずっとこのままってわけにもいかなかった。
 だけど、それはまだ先だと思っていたんだ。
 異性として意識していたし、なんとなく、いつかこうなるかもとは思っていた。けど――

「……結婚?」

 シルヴィさんが顔をこれでもかと赤くして何度も頷く。
 アイリさんが照れ臭そうにしながらも、それでもハッキリと僕を見ながら肯定する。
 ミーナが無表情な目を潤ませ、酷く紅潮した顔で「うん」と口にした。

 彼女たちの真剣さは嫌というほど伝わった。
 3人の事を考えるなら、決して嫌いではない。
 むしろこの世界で仲良くなれた彼女たちを僕は好ましく思っている。
 この中の誰かとそういう関係になるのだって嫌じゃない。
 初めての告白に頭の中が軽い混乱状態ではあるけど……
 顔が熱い。
 いきなりで不意を突かれたこともあって心の準備が出来てなかった。

 いや、一旦感情は置いておこう。そこも大事だけどひとまずは。
 僕の稼ぎは少ない。治療院の運営も順調とは言い難い。
 結婚となるととても誰かを養うなんてことはできなかった。
 軽率に頷くわけにもいかない。

「トーワは、私が養う」

 そんな僕の考えの機先を制するようにミーナからの養う発言。
 いや……さすがにヒモになるのは……

「トーワ、その……ミーナじゃねーんだが、金のことは心配しなくていい。たぶん一生養えるし、何か問題があるなら解決もする」

 アイリさんは、だから――そう言って、とても真剣な顔で僕を見た。

「トーワが嫌じゃないなら、そういうの……色々と抜きで答えを聞かせてほしい……」

 アイリさんが僅かに声を震わせていた。
 もう一度考えた。決して嫌じゃない。

「ど、どう……ですかね?」

 シルヴィさんの縋るような伺い方。
 だけど、そう簡単に答えを出せるようなことでもなかった。
 黙る僕を見てアイリさんが不安そうにしている。

 僕自身整理はついてないけど。
 勇気を出してくれた彼女たちがそれを望んでいるのなら。
 答えは出さないといけない。
 彼女たちの覚悟に応えないといけない。
 答えは何があっても必ず出す。
 でも、彼女たちの決意に何か言いたいわけじゃないが――


「少しだけ……時間をもらえませんか」


 いきなり結婚はすっ飛ばし過ぎだと思う……






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