23 / 45
第23話 え、いきなり?
しおりを挟む何か怖かった……本当によかったんだろうか。
今すぐ喧嘩という雰囲気ではなかったが、せめて仲介すればよかっただろうか……
あの場を離れてから、色々と考えて悶々としてしまう。
足元で1匹の猫が鳴き声を発した。それを皮切りに野良猫たちが鳴き出した。
「ごめんごめん」
野良猫たちが鳴いて要求するまでいつものことを忘れていた。
そんな彼らに急かされるように茹でた鳥肉を食べさせる。
いつも通りの姿に癒されるもすぐに気持ちは先程の場を思い出し心配になってしまう。
「皆はどう思う?」
ご飯から離れて慰めてくれるように集まってきた数匹を撫でて気を紛らわせながら話しかける。
案の定というべきか「にゃ~」としか返ってこなかった。
なんてことをしていると、後ろで扉が開く音が聞こえてきた。
「トーワ、悪い。待たせたな」
どうやら話し合いは終わったらしい。
アイリさんが僕を呼ぶ。
「いえ……大丈夫でしたか?」
喧嘩とか、もしかして僕がしたことは余計なことで、実は皆は不仲だったとか……
しかし、アイリさんは僕の言葉を笑って否定した。
よかった……そういうことではないらしい。でもだったらなんでだろう?
疑問に感じながらも院内へと戻った。
そこではなかなか顔に表情を出さないミーナが僅かに顔を強張らせている。
分かり易く緊張でガチガチになっているシルヴィさんもいた。
「あの……?」
様子がおかしい。
息を深く吐いたアイリさんを横目に見る。
彼女は二人のほうに進み、僕と向かい合うように振り向いた。
とても真剣な表情で言葉を発した。
「実は……伝えたいことがある」
ミーナが一度、シルヴィさんが何度も頷いている。
その様子を見るに、どうやら全員らしい。
なんだろう。ちょっと緊張する。
真面目な話なんだろうかと佇まいを直した。
「話というのは?」
僕が皆に目を向ける。
深く呼吸をするアイリさん、そわそわと落ち着かない様子のミーナ、なぜか細かく震え偶に動くと動きが硬いシルヴィさん。
三者三様の様子を見せる中、アイリさんが見かねた様子でカチコチに固まったシルヴィさんを肘で突いた。
ビクン!? と彼女は大きく体を跳ね上げる。
弾かれるようにシルヴィさんは僕を呼んだ。
「あ、あのっ、トーワさんッ!」
彼女の緊張がこっちにまで伝わってくる。
シルヴィさんが大きく息を吸い、一瞬だけ間を空けると、彼女は一息に伝えてきた。
「け、結婚してくださいっ!!」
「え?」「は?」
アイリさんとミーナさんが驚いている。
僕も僕であまりのことに返事もできない。
何とか「え……?」と、声を返すのがやっとだった。
そんな僕を見てもう一度シルヴィさんが息を吸った。
「結婚してください!」
違うんです。聞こえなかったわけじゃないんです。
横の二人が信じられないような顔で「え、何してんの?」みたいな目をシルヴィさんに向けていた。
さすがに察した。さっきは何でか驚いてたし、自惚れの可能性もなくはないけど……たぶんアイリさんとミーナも同じ話だ。
二人に視線を向けると、アイリさんとミーナが分かり易く狼狽していた。
「い、いや、アタシは……違う、こともないんだが……」
オロオロと手を落ち着きなく動かして、ガシガシと頭の後ろを掻いたアイリさん。
射貫くような鋭い眼光でシルヴィさんを睨む。
「くっ……!」
あーもう! と、吠えるように声を荒げて伝えてきた。
「アタシも、トーワのこと好きなんだ。け、結婚してくれ!」
同様にシルヴィさんを睨みつけていたミーナも出遅れたとばかりに続く。
「私をトーワの番にしてほしいっ!」
女の子たちがこんな寂れた治療院に遊びに来てくれることに何とも思わなかったわけじゃない。
僕は鈍感な方だけど、少しくらいは察していた。
彼女たちが僕のことを好いてくれていることは分かっていた。
それを知った上で、ずっとこのままってわけにもいかなかった。
だけど、それはまだ先だと思っていたんだ。
異性として意識していたし、なんとなく、いつかこうなるかもとは思っていた。けど――
「……結婚?」
シルヴィさんが顔をこれでもかと赤くして何度も頷く。
アイリさんが照れ臭そうにしながらも、それでもハッキリと僕を見ながら肯定する。
ミーナが無表情な目を潤ませ、酷く紅潮した顔で「うん」と口にした。
彼女たちの真剣さは嫌というほど伝わった。
3人の事を考えるなら、決して嫌いではない。
むしろこの世界で仲良くなれた彼女たちを僕は好ましく思っている。
この中の誰かとそういう関係になるのだって嫌じゃない。
初めての告白に頭の中が軽い混乱状態ではあるけど……
顔が熱い。
いきなりで不意を突かれたこともあって心の準備が出来てなかった。
いや、一旦感情は置いておこう。そこも大事だけどひとまずは。
僕の稼ぎは少ない。治療院の運営も順調とは言い難い。
結婚となるととても誰かを養うなんてことはできなかった。
軽率に頷くわけにもいかない。
「トーワは、私が養う」
そんな僕の考えの機先を制するようにミーナからの養う発言。
いや……さすがにヒモになるのは……
「トーワ、その……ミーナじゃねーんだが、金のことは心配しなくていい。たぶん一生養えるし、何か問題があるなら解決もする」
アイリさんは、だから――そう言って、とても真剣な顔で僕を見た。
「トーワが嫌じゃないなら、そういうの……色々と抜きで答えを聞かせてほしい……」
アイリさんが僅かに声を震わせていた。
もう一度考えた。決して嫌じゃない。
「ど、どう……ですかね?」
シルヴィさんの縋るような伺い方。
だけど、そう簡単に答えを出せるようなことでもなかった。
黙る僕を見てアイリさんが不安そうにしている。
僕自身整理はついてないけど。
勇気を出してくれた彼女たちがそれを望んでいるのなら。
答えは出さないといけない。
彼女たちの覚悟に応えないといけない。
答えは何があっても必ず出す。
でも、彼女たちの決意に何か言いたいわけじゃないが――
「少しだけ……時間をもらえませんか」
いきなり結婚はすっ飛ばし過ぎだと思う……
0
お気に入りに追加
837
あなたにおすすめの小説
二度目の勇者の美醜逆転世界ハーレムルート
猫丸
恋愛
全人類の悲願である魔王討伐を果たした地球の勇者。
彼を待っていたのは富でも名誉でもなく、ただ使い捨てられたという現実と別の次元への強制転移だった。
地球でもなく、勇者として召喚された世界でもない世界。
そこは美醜の価値観が逆転した歪な世界だった。
そうして少年と少女は出会い―――物語は始まる。
他のサイトでも投稿しているものに手を加えたものになります。
貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる