美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸

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第4話 謝られる

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「申し訳ありませんでしたッ!!」

 手を地に着き床に額を擦り付ける。所謂土下座の体勢で僕をレイプしようとした彼女――シルヴィさんは身を震わせた。
 罪の意識に身を震わせながら、これだけは、仲間達だけはと、彼女は懇願を繰り返した。
 どうか、どうか――と。

「し、失礼ながら、謝罪として賠償金をお支払いします……っ! その他に望まれることがあれば従います! な、なのでどうか! この件は内密にして頂けないでしょうか!」

 名前は聞けた。
 彼女シルヴィさんの名前はこの街では有名らしい。
 確かに”銀翼”というパーティー名も聞いたことがあった。
 化け物のような実力者たち。彼女曰くそれは見た目のことらしい。
 僕は技術とか戦闘能力のことだと思ってたけど、まさか化け物という表現が容姿のことだとは思わなかった。

「つまり仲間の人たちが変な目で見られないかが心配ってことなんですよね?」

「は、はい。都合の良い頼みだというのは重々承知しています。ですが、彼女たちは何も悪くないんです……っ! 悪いのは、ぜ、全部私が……! お願いします……私のせいで仲間たちに迷惑がかかるのだけは……ッ!」

 シルヴィさんはパーティーのリーダーらしい。
 確かにまとめる人物がレイプ魔だったなんて広まったら仲間たちは肩身が狭いどころじゃなくなるだろう。
 悪いのは自分だけど仲間に迷惑をかけたくないからここだけの話にしてくれと、そういうことだ。
 都合がいいように思えるけど心情的には理解できる。それだけ大切な仲間なんだろう。
 彼女の言葉を遮るように立ち上がる。

「あの……とりあえず頭は上げてください。なんか居心地悪いんで」

 彼女は僕の服を一枚羽織ってるだけだった。僕が脱がせたから当然と言えば当然だけど下着すら履いていない。
 不可抗力とはいえ裸を見てしまい、さらには男の僕が着替えまで……っていうのは今更だろう。レイプまでされかけたんだから許してほしい。
 その時のことを思い出し、さらには彼女の煽情的な姿にムラッときてしまったけど、なんとか煩悩を振り払った。
 彼女がおずおずと体を起こす。
 いくら彼女が加害者でも女の人を裸で土下座させて喜ぶ性癖は僕にはなかったので一安心。
 それにここは治療院だ。先にそれを終わらせてから話したい。
 
「その話はもういいですよ。薬も出しますけど、粉薬で大丈夫ですか?」

 お薬と言ってもただの薬草の粉末だ。
 煎じて飲めば体力は回復するし、病気の進行を遅らせるとされている。
 薬、というよりサプリメントみたいな扱いかな。病人食としても有名だ。
 そう言って立ち上がる。

「ま、待ってください! お願いです! 後生です、どうか……どうか!」

 背を向けた僕を見て、何か誤解をしたようだった。
 シルヴィさんは顔を蒼白にして僕の足元に縋りつく。
 がしりと腰に腕を回された。
 転びそうになったので彼女を引きはがそうとするけど意外と力が強い。
 思わず苦笑いだ。安心させるように再度笑いかける。

「いや、それは気にしてないんで大丈夫です。そんな嫌でもなかったですし」

「え……?」

 僕が何の気なしに返すと彼女は端正な顔をぽかんとさせた。
 僅かに目を見開いて驚愕するようにこちらをジッと見ている。
 そこに込められた感情の意味は分からなかった。
 シルヴィさんが動かなくなったので気を取り直す様に僕は続けた。

「あの時は状態異常もありましたし、何より誠意を持って謝罪もして頂きました。それで終わりにしましょう」

「は、はい? あの……え? すみません。もう一度言ってもらってもいいですか……?」

 シルヴィさんはもう一度言葉にしてほしいらしい。そんなに不安なのだろうか? 気持ちは分かるけど衛兵に告げ口とかするつもりはないですよ?

「大丈夫ですよ。誰にも言わないので。出会ったばかりで信用というのも難しいとは思いますが」

「いや……そっちじゃ……いえ、それもですけど……えっと、あ、ありがとうございます……?」

「いえいえ、それで治療費なんですけど、本来なら2万ゴルドなんですけど、初診ということで1万8000ゴルドですね。お薬は食前にお湯に溶かして飲んで下さい」

「あ、はい」

 まだ立ち上がらないシルヴィさんに、彼女の着ていた服も洗って乾かしてあるのでそれらを渡した。
 真実味がないようでまだ動こうとしない。そんなに信用なかったんだろうかと苦笑した。

「経過を診たいのでまた来てください。基本的に日中は空いてるので違和感がある場合にもどうぞ」

「…………」

「ん?」

 動かないシルヴィさん。言いふらさない約束もできたし、症状は治ったと思うんだけど……もしかしてまだ何かあるんだろうか?

「ッ!?」

 僕が訝しんでいると彼女は急に顔を真っ赤に染め上げた。
 そんなに? ってくらい頬を染めたシルヴィさんは逃げるように慌てて出口へと――

「え、シルヴィさん!? 服! 服忘れてますよー!」

 すぐに戻ってきた。
 一言「ごめんなさい!」と謝ると僕に小さい布袋を渡してきた。
 そのまま用意した粉薬も受け取らずに、服を手に去っていく。
 まるで嵐のようだった。
 何か不手際があったんだろうかと僕は不安になるのだった。







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