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第3話 エルフさんに襲われる
しおりを挟む「……大丈夫ですか?」
なんて的外れな言葉が口から出た。
大丈夫なわけない。というか大丈夫だったらここには来ない。まさか道に迷ったわけでもないだろうし。
「ォ゛ッ」
背中を丸めて悶えたと思ったら、美女らしからぬ声が聞こえた。
大丈夫ですか? とは聞かなかった。代わりに出たのは「どうしたんですか……?」だった。
これどういう状況なんだろうか。基本的に治療院は切り傷や打撲何かの治療を前提としている。
それ以外となるとある程度専門的な知識が必要だ。
だけど目の前の女性に怪我の痕跡は見られなかった。
もう一度観察する。
ガクガクと震え内股になっている長い脚。股間を抑える手。
目の端には涙を浮かべ、口の端からは涎を垂らし、真っ赤になって何かを耐えるその顔。
あ……トイレ?
一人目のお客さんじゃなかったことは残念だけど仕方ない。
それよりも女性が恥を忍んでトイレを借りに来ているなら、快く貸してあげるというのが――
押し倒された。
唇を奪われる。
悲鳴は出なかった。舌を吸われて唾液を口内に送り込まれる。
「ちょっ!?」
体を弄られ、押し付けられる。
倒れ込んだ僕の太ももの上で彼女はずりずりと腰を振る。
たくし上げられたローブの隙間から見えた局部はぬるぬると何かでテカっていた。
「ンああっ!! ひっ、ふああ!!」
喘ぐエルフさん。
さすがにトイレではなかった。冗談抜きに考えれば……強姦だろう。
どうやら僕はレイプされているらしい。
まさか初体験がレイプとは……って、いやいやいや、何冷静に考えてるの!?
慌てて力を入れて痴女エルフを退かそうとする。が、どうも力の入れ方が上手いのか、僕の抵抗が下手なのか彼女を動かすことは叶わなかった。
「あの! こういうのよくな」
「あああ!! うひぃっ、ひっ、あああああああ!!」
聞いてくれない!?
こういうので無理やりされても感じる、とかエロ漫画でたまに見るけど実際されるとそんな余裕はなかった。
普通に怖い。というかこの人どういうつもりなんだろう。
僕は一体どうなってしまうんだろう――
…………
……………………
………………………………
「ゥ゛ゥぅ!! あああああ!!」
「……」
なんだろうね。いまだに彼女は腰を振り続けていた。
僕はいまだに彼女の下にいる。
いや、というより……
この人なにしてるの?
僕のズボンに局部を擦り付ける。
ただそれだけの動きを延々と繰り返している。
ズボンは彼女の体液でぬるぬる。最初よりも滑らかに動く彼女の体は、激しいグラインドだというのに満足していないように見えた。
レイプされてる。しかし、彼女は僕の性感帯に触れるでもなく、自分の快楽のみを貪っていた。
ここまでされたら当初の恐怖は薄れる。というか慣れた。
動けないとしても多少の余裕が生まれた僕はもう一度じっくりと自分に跨る女性を確認する。
改めてみるととんでもない美人だ。銀色のセミロングヘアーから覗く端正な顔。豊かな乳房。だというのに垂れることなく重力に逆らった張りのある形。
白く滑らかな肌は染みがなく、感度も悪くないらしい。腰が前後する度にビクンビクンと不規則に背筋を震わせていた。
「あああっ、なんでっ、どうしてえぇ! イ、イキたいぃい!! イキたいのぉお!」
獣のように泣き叫ぶ。
どうして、どうして――と。
玉のような汗を浮かべ、膣からは洪水のように溢れ出てきている。顔も涙やよだれでぐしょぐしょだった。
こっちからの言葉は通じていない。
どうにも理性だけを失っているような?
そういえばここに来た時に『治してください』って言ってたような……
もしも彼女の目的が僕ではなく、治療なのだとしたら。なんて、恐怖で曇った脳が冴えた気がした。
今思えば当たり前の考えが脳裏を過ぎる。
「ちょっと失礼します」
彼女の服をまくり上げる。ぐっしょり濡れたショーツ。その上のヘソの辺りでは黒い痣のようなものが滲むように肌に張り付いていた。
「あー……なんだっけこれ。魅了、じゃなく……呪印? 状態異常だよね?」
この世界に来て半年。付け焼刃の知識をなんとか思い出す。
まあ”僕には”関係ないか。
僕は彼女のお腹に触れる。
ビクン!?
彼女が大きく反応を示した。顎を仰け反らせて全身を震わせる。
とんでもない色気だった。あまりにも快楽に弱い体を見てペニスが反応する。
勃起しっぱなしだった自分の息子を無視して能力を行使した。
「えーと、再生……じゃないな。欠損ってわけでもないし、なんだろうこれ? 下級でいいのかな」
幾何学の光の模様が組み重なる。
絡み合った魔力の暖かい光が慰撫するように患部にゆっくりと浸透していった。
◇
状態異常とは――?
主に迷宮の宝箱の仕掛け等に使用される迷宮外生命体の肉体への呪いの一つ。
筋力や体力の低下、麻痺や睡眠、その他にも様々な効果が確認されている。
更には迷宮の罠に限らず、人為的にその状態を引き起こすこともできる。
呪術師とも呼ばれるその職業は――
「あーはいはい。長い長い」
無駄に分厚い『治療師の治せる症状について』という本をぱたんと閉じた。
偏見を承知で言うけどこういう分厚い本って大抵は辞書か説明が蛇足かのどっちかだよね。
さっさと目次を確認して状態異常の一つである『性欲』の項目を開いた。
ざっくり説明すると状態異常『性欲』の効果は3つに大別される。
発情、絶頂不可、思考力の低下。
ざっくり言えば、猿みたいになるけど満足できない体になるし、次第にそれすら分からなくなる。だ。
どれも治療すれば全快する程度のものらしい。
但し放っておいたらどこまでも効果は強くなりますよという。
これ意外と怖いかもしれない。
この街は迷宮を中心にして発展してきた都市だけど、絶対に迷宮にはいかないぞと心に決めた。
「思考力の低下は怖いな……」
ぽつり、思わず口を出た。
他二つもだけど、理性を失うのは、自我が消えるのは恐ろしい。
そういえば寝かしつけているエルフの彼女は、起きた時このことを覚えているんだろうか?
理性を失うとのことなので、もしかしたら今回の一件を忘れてたりとか。
本に詳細は書かれていないし、この症状は初見だったので、起床した後のことが分からない。
できることなら彼女がこのことを覚えていないといいんだけど……
でもそれだと風邪を引くからと服を脱がした説明が面倒だな。
知らない男のいる場所で裸で寝てるのなんて完全に事後にしか思えないだろう。
「ハァ、あれこれ考えても仕方ないな」
やる事は変わらないからね。
狭い造りの建物だけど、部屋数はいくつか融通が利いている。
診察する部屋だったり、患者を落ち着いて寝かせる部屋だったり。
簡単に治した症状を調べて彼女を蝕んでいた原因を理解した僕は本を戸棚へと戻した。
彼女に用意した部屋へと向かった。と言っても部屋は隣合っているので移動はほとんどない。ノックをして返事を待った。
「…………」
反応がない。
まだ起きていないようだった。
僕は扉を開けた。
「……したら……ど……たら……う……ら……っ」
彼女は起きていた。体を起き上がらせてベッドの上で頭を抱えている。
ノックには気づかれなかったようだ。何かをブツブツ言ってるみたいだけど……
恐る恐る近づいた。
「ど、どうしたらどうしたら……っ、さ、最低です……わ、私はなんてことを……っ!」
子供のように狼狽える女性。
目に涙を浮かべてひどく混乱している様子だった。
なるほど。
これは、あれだ。覚えてたパターンだ。
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