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一章_出会い
第四話
しおりを挟む「セドリア様、御夕食のお時間です。」
それから最大六ページにも及ぶノートをひと通り書いていると待ちに待った夕食の時間だと告げられた。
ノックし入ってくるや否やそう言うメイドに、俺はありがとうとだけ伝えるとメイドを下がらせ一人で食事がある部屋に向かう。
(さっきの時間でざっとセリフを30個ぐらい覚えた、これで俺は死なないで済むはずだ!)
そうして、家族皆で食事の時間が始まる。
今日は弟のヴィンセントが初めて家に来た日なので歓迎会のようなものが開かれていた。
けれど内心俺は動揺していた。
ヴィンセントと母と父が仲良く話している姿を見ると胸が痛むのと同時にヴィンセントを見ると苛立ちを覚えた。
このままだとヴィンセントと話すと彼に思ってもない事を言ってしまいそうで怖かった。
父上は此方を見ようともせず、話さずとも優しい目でヴィンセントを見つめる光景や母上がヴィンセントに付きっきりな姿に俺は嫉妬をしていたのだと思う。
前世の俺だとこれくらいどうって事なかった。
だがこの体は9歳。まだまだ子供なのだ。
原作の彼はずっとこんな気持ちだったのかと胸を痛めた。
それから食事を開始してから結構な時間が経ったのだが、どうにも食事に手が進まない。
そして誰も俺を見ようともしない。完全に浮いている。
__ヴィンセントが羨ましい。
__どうして実の子供では無いお前がそこにいるのだ。
そういう言葉が口から出そうになるのをグッとこらえる。俺は無理やり食べ物を口に突っ込みこの感情を落ち着かせようとした。
今の俺では先程考えたセリフが一言も言えないだろうと思ったからだ。
少し経つと俺に向かって気まずそうに母上が話してくる。
「そういえばセド、もう体調は大丈夫なのですか?」
その言葉にドキッしながらも落ち着いて答える、
「……ご心配なさらないでも大丈夫です。御迷惑をお掛けしてすみませんでした。以後体調には気をつけます。」
「そう……良かったわ。」
そう淡々と告げる俺。
でもこの言葉は”俺”の言葉であって俺のものではなかった。俺の発した言葉ではあるのだが俺はこのような言い方をしていない。
俺は
《はい、大丈夫です。迷惑かけちゃってすみませんでした、心配ありがとうございます。今後は気をつけますね。》
くらいのノリで言ったのだ。
こんな突き放したような冷たい言葉では決してない。
俺は嫌な予感がしたので先程考えたセリフをヴィンセントに向けて言おうとした。
「……っ!」
けれど言おうとすると声が出ない。
何度も別の台詞を言おうにも次第には口をも開かなくなる始末。
そこで俺は冷や汗を垂らしながらも気づいてしまった。
俺の言える事は制限されているし原作のセドリアがしないであろう行動も出来なくなっているのだと。
内心焦りながらも冷静を保ちこれからどうするか、考える。
その時、一つの案を思いついた。
__もしかしたらこれならいけるかもしれない。
希望は薄く、無理だと知れば今の俺にはどうする事も出来ない。だからお願いだと、そう思わずには居られなかった。
俺は立ち上がり楽しそうに母上と話しているヴィンセントの前に立つ。
彼は困惑しながらも少し嬉しそうな顔で無表情で立つ私にこう言ったのだ。
「兄上、私は____」
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