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一章_出会い
第五話
しおりを挟む「兄上、私はかっこいい兄上の弟になれるでしょうか。」
そう照れながら言う弟。
思わず口を覆ってしまう衝動をグッと抑える。
本当に可愛くて仕方がない!
潤んだ瞳でそういうのだからこの小説が大好きな俺からすると話せる事だけでも嬉しいのにこうも言われて自分にではないと分かっいるけどとてつもなく嬉しかった。
そして俺は震える口で意を決して話す。
「ヴィンセント。私はお前のようにニコニコと愛想を振る舞うという事が出来ない。そして、出来損ないの兄になるつもりもない。」
「こら、セド!」
途中で母上の止めが入っても気にせず話す。
「だから私の弟になりたければ私に釣り合うような男になってくれ。……お前ならばなれるはずだ。」
「そ、それは……っ」
「あぁ、期待してるぞヴィン。」
「っ!! はい、頑張らせて頂きます!」
万遍の笑みで俺を見つめてくるヴィンセント。
その笑顔が眩しすぎて直視出来なかった。
(ま、眩しすぎる! これが主人公の力かっ!)
思わず目を手で覆ってしまいそうだった。
そして、俺が言ったセリフに関しては少し言い方が上からになってしまったがまだ許容範囲だろう。
自分で言った事に満足した俺はホッと胸を下ろしそれから食事を楽しんだ。
先程よりも食事が美味しく感じた。
(さっきまでは考え事をしすぎてご飯の味が分からなかったからな。)
しかし、これでまた一つ分かった。
多分だがこの世界は小説と全く異なる物語を作る、というのは難しいだろう。
少しだが強制的な力が働いているのが分かった。
けれど改変できない訳では無い。
先程の口調を原作のセドリアに似せて話してみた結果、よろしくと遠回しだが言えた。
小説の中では暴言以外吐くことがなかった俺がだ。
だからこれを考えるに口調や態度を一気に変える事は出来ないものの、原作のセドリアに寄せた口調に沿って少しずつなら変えれることが分かった。
(なら、まだ希望はある筈だ。)
俺は食事を終え、口を拭くと失礼しますとだけ言い、ノートに今日の成果をまとめたいその一心で部屋に戻った。
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