高身長くんは抱かれたい!

こまむら

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第8話

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高身長くんは抱かれたい!第8話


煌びやかなステージの上
沢山の俺を応援してくれてる人達からの声援
それに応えながら取り留めもない話をひたすらしていた
だらだらと話をするのは意外と好きで
楽しかったが途中から少し変わった
木元の表情がおかしい事に気づいたから。
度々ウスターを睨みつけてる
チラチラと気にしていた所で関係者席から聞きなれた大声が上がった。
『はぁ?』
それは不満と怒りと本気の疑問の全てが混じった怒号のようなものだった。
「関係者席ー」
これはいけない、と気づくや否やマイクを通してすぐさま木元に語りかける。
あそこから木元を離した方がいい。と咄嗟のお誘いをかける
とりあえず俺の横に置こう。
あのままあそこに置いておくのは些かこの後の予定で気が散るであろう事だった
ウスターは少し変わっている。
他の人の気持ちを汲んで会話をするのが少しだけ苦手なようで共演NGと言う配信者は少なくない。
多分、なんか言ったのだろう。
俺の好きな人が木元と気付いてカマかけたか。
こういう事にはすぐ気付くんだけどなぁ。
2年前、大型の配信サイト主催のイベントでウスターに好きだと言われた。
そもそもがゲイなのかと聞いたがそうでは無いらしく
初めて男の人を好きになったと。
その頃俺は木元が好きだった。
素直にそう断った、好きな奴がいると。
諦めてくれたかのように見せかけてそうでは無かった可能性も無きにしも非ず。
付き合ってくれてるというのに俺の配慮が足りなかった。
そそくさとステージを後にして足早に木元の元へ向かった。
何か思い詰めたような表情の木元へ近付くとすごい勢いで席を立ち上がりそこで俺に気付いた
気づくや否やほっとしたような、聞きたいことがあると言いたそうな
ぐるぐるとした表情に変わった。
やはりウスターがなんか言ったのだなと思ったので、木元の向こうに居るウスターへ視線を投げ声をかけ焦ってる木元を連れて後にした。
途中でなんや色々言われたが宥めてやっとこさトイレまで連れてこれた。
タイミング良く誰も居なかった。
「なぁ、ウスターの事は気にすんちゃうぞ。好きと言われたんは2年前。その時しっかり断った。多分俺の事思って怒ってくれたんやろうけどあいつちょっと変わってんねん。」
「それは…なんとなく分かった。」
便器に向かって用を足してる木元は洗浄ボタンを見つめていた。
暗い顔をしている木元があまりにも小さく縮こまっているのを見ていられず顔を前に向けたがこれまた気まずそうな俺が鏡に映っていたのが嫌で、視線を右に向けトイレを綺麗に使ってくれと書かれたポスターを見た。
「なんや、昨日よっさんと寝たんか?って聞かれた気がして気が動転して…匂ってるのもよっさんが容認してるって言っとったからどういうことや?ってモヤモヤしてな。つい。」
「なんで木元がモヤモヤすんねん。まぁ寝てる云々はバレたら嫌やろうけど…」
「ちゃう、そうやなくて」
声が一段と大きくなったから木元の方を向けば用を足し終わった木元が洗浄ボタンに手をかけている所だった。
何が違うのか。多分俺の顔にははてなが書いてあったと思う
言葉を選んでいるのか言うべきか迷っているのか少し間があってから水が流れる音が響いた。
下を向きながら手洗い場まで歩いて来ると俺の横に立った。
「よっさんが容認してるのが…気に食わんかった。よっさんはウスターの事が好きなんちゃうかなとか。そう思たら僕、最悪のポジションやん。まるで…」
まるで。
木元の顔を見た。
『俺』だった頃の自分に戻ったみたいや、そう言いたげな表情だった。
木元と出会った10年前
まだ彼は自分の事を『俺』と呼んでいた。
何故か息があって助けてもらった後よく遊んだ。
多分その頃の木元がやらかした事は9割知っている。
それを酔った時に酷く嘆いていた事も。
次に会った時にはもう僕の木元が居た
仕事も変えて入れ替わったように誠実になっていた。
それが酷く痛々しくて、どうにかしてあげたくて。
『木元と飯食うん楽しいから週に一回飯食わん?』
そうして始まった。
「あのなぁ…。そんなん木元が気にすることちゃうし、ウスターの事は好きやない。ちゃんと断っとるからな。」
「せやけど」
「やけどもクソもないわ。俺は他に好きな奴おるから」
途端に木元の目が丸くなる。
しまった余計なこと言った。
「あ、ちゃうで?そんな凄い好き…とかやなくて…木元との今の関係は俺も望んでた事やからそんな寝とったとかそういうんやなくて…」
今度は俺がしどろもどろに慌てる番か。
「え…いや…あかんやん。他に好きな子居てるなら他の奴とセフレなっちゃあかんて」
「ちゃう、くはないけどちゃうねん。別にええねん」
そうなるの分かってたのに何故言ってしまったのか
口を継いででたとはまさにこの事。
お前が好きや、とか言えたらこの場は丸く収まるんだろうが言えない。言えるわけが無い。
「絶対叶わないねん。現実的な恋愛やないんよ。分かる?相手は俺の事なんて知りもしないねん。な?やから現実的な相手を好きになるまでやったらええやん?」
口が達者で良かったとこれ程思った事は無いだろう。
焦れば焦るほど嘘がどんどんとつける
そして彼が馬鹿で良かった。
次第に納得したような表情に変わっていく木元を見て安心して来た。
やっと掴んだポジション、そう易易と手放してなるものか
「あっもう休憩終わるで!さぁ木元ゲームしよや!」
「せやなぁ…?」
演技力もこの先身につけようと思う。
顔をパシャパシャと洗う木元を置いて先にトイレから出ると深呼吸を1つ。
木元を連れてそそくさとステージに戻り変わりなくゲームをこなした。
木元も楽しんでくれてさっきまでの暗い表情はどこへやら。
終わる頃にはいつもと何も変わらない木元になっていた。
ここでウスターに合わせるわけには行かないので強めのSTAYを言い渡し、さらにスタッフにもステージから離れないようにして下さいと頼み込みウスターの元へ。
「ウスター」
等身大パネルを眺めていたウスターの後ろから声を掛けるとすぐさまこちらへ向き屈託のない笑顔になる
「みやっちゃん!お疲れ様とても楽しかったです。太郎さんとも会えたし」
「それや、太郎に余計な事言ったやろ」
バレたかぁと頭をかき1歩、距離を詰められる。
「みやっちゃん、太郎さんの事がお好きなんですね。昨晩はお楽しみのようで…お付き合いされてるんですか?」
何故何も言ってないのに全てバレてるのか。
あの調子じゃ木元は一言も言ってないだろうに。
「付き合っとらん。そうやあいつの事が好きなんや、やから変な事言わないでくれ。あいつ悩んでしもうたやないの」
「カマかけてすみませんでした。反応が面白かったのでつい。抱き心地はいかがでした?」
ニコニコしながらえげつない事をサラリと。
最近の若い子は皆こうなのだろうか、俺が疎いだけなのか。
「そういうの言うんやないって事言っとるんや。あいつは面白半分や」
「ええ?いやいやお二人共ウブなんですか?太郎さん、みやっちゃんの事大好きですよね?恋愛的な意味で」
本気で意味がわからず首を傾げるとニコニコ笑顔が消え去り真面目な表情でウスターもまた首を傾げた。
「まじですか?好きじゃないのにみやっちゃんに手出してるならやめてくれって言おうと思ってたのにそうじゃないから俺言わなかったんですよ。」
「よー分からんけどあいつはそういうんとちゃうと思うで。」
「なんか、湿気るなぁ…」
「どういう意味やねん」
その質問に返答は来ず、俺は帰りますねと言い颯爽と出口に向かっていった。
木元が俺を好き?
いやいや。何を言っているのか。
おじさんをバカにしているのか。
そうだったら嬉しいが、現実彼はノンケで試しに男抱いてみたら気持ちよかっただけだ。
こんなでかいおじさんを35のいい歳したおじさんが恋するわけもない
木元は顔も人となりも良い。
真剣に探せばいくらでも女の子がいる、いつか結婚したいとなるだろう。
それを邪魔なんて出来るものか。
でも、そうだったら。と考えてしまうのは仕方がない事だろうか。
なんでこんなモヤモヤした気持ちを置いて帰るのか。
「木元が俺を好きやったら…」
呟いて頭をブンブンと振る。
いかんいかん、そんな事を考えては。
期待をしない、絶対にだ。
この年でこんなに仲のいい友達は木元しか居ない。
ここで友達を失う訳にはいかない。
木元が結婚したくなるその時まで甘い蜜を吸わせてもらいたい。
もし。なんて考えては行けないんだ
ゲイが、ノンケに対して。
ステージを見やれば、スタッフからカフェの袋を受け取り中身を見てぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ木元が居た。
ああいう楽しい木元を見ていたいのだ。
だけどほんとにもしが存在するなら。
ウスターのようなカマのかけ方は知らない。
直接聞く度胸もない。

少しだけ、惚れてもらえるような努力をしてみようか。
そう思った。


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