ペンフレンズ〜犬猿の二人の往復書簡〜

猫枕

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  待ち合わせの場所は東部総合病院に併設された喫茶店だった。
 
 かなり広い店内では、入院患者らしい病院着を着た人や足に大きなギブスをして松葉杖を脇に置いている人なんかが、お見舞いに来たであろう人達と談笑しながら飲み食いしている。

 ラナはキョロキョロと店内を見回した。

「ラナこっちー」

 と声のする方を見ると、薄茶色の綺麗な髪の女の子が手を振っている。

 「パティー!」

 嬉しさが込み上げる。

「この病院に元主治医だった先生がいらして、先生に診ていただくために東部に来たの」

 そう言ったパティーはすっかり顔が治っていた。

 「そうなのね」

 と言ったラナの視線の先にはパティーの隣に座っている自分達と同じ年頃の少女がいた。


「えっと、この子はメラニー・ペイジ。
 メラニー。私の大切な友達のラナ・ディーンよ」

 互いに挨拶を交わす。

 パティーの友達だけあって、メラニーは好感の持てる優しそうな子だ。

 「麻痺、治ったのね」

 「うん。完全じゃないけど。

 新しい治療法が見つかって、神経節に注射したりするんだけど」

 そう言いながらパティーは首の前あたりを指で押さえた。

 「主治医だった先生がこっちに転勤になって、今回最後の検査を受けに来たの。
 問題が無かったからこの先はずっと西部の病院で治療できるみたい」

「ホント!それは良かったわね!」

 麻痺の消えたパティーはメグなんかよりずっと可愛い顔をしていた。

 「パティー!すっごく可愛いよ!治って良かったね!・・・って、・・・ゴメン・・・」

 ラナは途中で自分の言ってることのおかしさに気づいて俯いてしまった。

「いいのよラナ・・・それが当たり前の反応なんだから」

 ラナの気持ちを察してパティーが慰めるように優しく言った。

「見た目は関係無い。重要なのは中身だ、人間性だって周囲も言ってくれたし自分でもそう信じ込もうとしてきたわ。
 
 でも、やっぱり醜い顔で生きていくのは辛かった。
 
 私の中身さえ理解してもらえればきっと受け入れてもらえる、って子供の頃は信じてた。
 
 でも、そうじゃなかった。

 結局、醜い自分を一番受け入れてやれなかったのは私なのよ。

 引き攣れない顔を鏡で見て、誰よりも喜んだのは私自身。

 だからラナがそんな風に思うことないよ」


「私は・・・私はどんなパティーでもパティーの中身が好き」

 パクった!ユージンをパクった!

 おずおずと顔を上げるとパティーが目に涙を溜めている。

「わかってる。わかってるよラナ。
 ラナはいつだってそのままの私を愛してくれたのに・・・。

 今まで待っててくれてありがとう」
 
 見るとメラニーもハンカチで目を押さえている。

 「あのね、ラナ。私が立ち直れたのはメラニーのお陰なの」

 パティーは優しい微笑みをメラニーに向ける。

「私も同じ症状だったんです」

 メラニーが話し出した。

「私の父が西部の総合病院に勤めていて、父の同僚の先生が治験として私を治療することになったんです。
 
 世界が変わりました。

 堂々と顔を上げて歩けるようになりました。
 実際は今でも下を向いて歩くクセが抜けないんですけどね」

 そこでメラニーとパティーは顔を見合わせて笑った。

 『わかるぅ~ってヤツか』

「そしたら従姉妹から、私と同じ病気の子が学校に来なくなってそのまま卒業もできなかった、って話を聞いていてもたってもいられなくって、ご自宅に押しかけたんです」

 メラニーはいきなりパティーの母親に、私は娘さんと同じ病気だけど治ったんです!娘さんと話をさせてください!

 と言ったそうだ。

 そして毎日通って来て、パティーの部屋の扉越しに説得を続けたそうなのだ。

 パティーの閉ざされた心の扉を開けたのはメラニーだったのだ。

 パティーはメラニーを〈命の恩人〉と言った。
 死んだも同じだった自分を生き返らせてくれた恩人。

 いいじゃないか。

 喜ばしいことじゃないか。

 大好きなパティーが幸せになったんだもの。

 良かったじゃないか。

 そうなることを望んでいただろ?


 なのにどうして私の心は空虚を感じなければいけない?


 「見て」

 パティーはロケットペンダントを首元から引っ張り出してパカッと開いて見せた。

「治療する前に撮った写真なの。
 本当の自分を残しておこうと思って」

 パティーは写真に愛おしむような笑みを向けた。

「私のも見ますか?」

 メラニーが見せてきたのがパティーとお揃いのロケットペンダントであることにラナはそこはかとなく傷ついた。

 そして傷つく自分が嫌だった。

 ペンダントの中のメラニーはパティーよりもっと曲った顔をしていた。

「いつかこの子を愛せる日が来ると思うの」

 写真を見ながら呟くメラニーに優しい微笑みを投げかけながら静かに頷くパティーをラナはテーブルのこっち側から見ていた。

 同じ苦しみを持つ者同士にだけ生まれる連帯。


「あ、そうだパティー、今夜はうちに泊まるよね?メラニーさんもよかったら是非」

「ありがとうラナ。
 でも、今日はメラニーとステーションホテルに泊まることになってるの」

「私にまで気を遣ってくださってありがとう」

 メラニーは良識的で良い人だ。

「あ、ああ・・・そうなんだ。
あそこのモーニングって美味しいって有名だよ。食べたことないけど」

「ご両親にも宜しくお伝えしてね。
 随分可愛がっていただいたのに、心配かけてばかりでご挨拶もしなくて」

「う、うん。大丈夫だよ。パティーが元気になったったって聞いたら喜ぶよ」

「ラナも。ラナにもずっと心配かけてゴメンね。
 私、もう大丈夫だから。
 これからも友達でいてくれる?」


「当たり前じゃない。
 また、手紙書くよ」

「今度はちゃんと返事書くね」

「あ、じゃあ、メラニーさんも気をつけて帰ってね」

 「ありがとうございます」


 
 明日西部に帰るというパティーとはそこで別れた。

 振り返ると喫茶店の看板にアアルと店名が書いてある。

『死んだ人が行く所だよね。
 病院でこの店名って・・』


 ラナは気持ちを切り替えて勉強しようと家路を急いだ。

 




 
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