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12 母娘喧嘩
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~ 昔から西日が好きなのよね。
窓から外を眺めていると、向こう側の斜面に西日が当たって、家々や山肌がキラキラ輝いて見える。
そうすると胸の奥がじりじりする感覚になって、無性にそこに行ってみたくて「確かこの辺のはず」って歩いて行くんだけど、行ってみると違うんだよね。
ちっとも輝いてない。
絶対にたどり着けないの。
まあ、リバティの優秀な生徒さんは、
「距離と時間にもよるけど歩いている間に太陽高度が変わって日光のあたる位置がズレただけじゃないの?」
なんてきわめて常識的な回答をするんでしょうけど。
きっとこの気持ちは思春期の女の子にしか分からないんだと思うわ~
「今日ね、ランバートさんの奥さんに会ったのよ」
ラナの母親が夕食の準備をしながら言った。
「それでね、あなたが来年カトレア学園を卒業するって言ったら御主人の勤務先の銀行に就職できるように口を利いてくださるっておっしゃるから、宜しくお願いします、って言っておいたわ」
「なんでそんな勝手なことするかなぁ?!!」
ラナは捏ねていたミートパイの生地の塊をモールディングボードに叩きつけた。
「なにを怒ってるのよ?」
「私の将来を勝手に決めないでよ!」
「あら、だってセントラル銀行よ?あそこの行員ならエリートだから職場結婚してもいいし、窓口に座ってれば他にも良い縁談が沢山来るのよ?
お母さんだって証券会社の窓口にいたから
『うちの甥っ子に優秀だが奥手で自分じゃ嫁さんを見つけられないのがいるんだが』って、お客様のご紹介でお父さんと結婚できたのよ?」
ナンシーは自分の言うことに何の疑問も感じていない様子でそう言った。
「カトレアを出ていればそれだけで良い条件の縁談に恵まれるけど、良い所に就職していた方が確実でしょ?
銀行の窓口にいればすぐに売れちゃうんだから」
「・・・・」
ラナの頭にはカボチャやパプリカと一緒に自分が八百屋の店先に並んでいる画が浮かんできた。
「お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?」
「うーん、リバティ出身で西部第一大学も出てるエリートだし、顔だってまあまあ許容範囲だし、性格も、確かに気が利かなくてボーッとしてるところもあるけど研究者なんて大体そんなもんだろうし、まあ、優良物件の方なんじゃないの?」
「条件で結婚したんだ」
「お見合い結婚なんてそんなものでしょ?
なに?もしかしてアンタ愛の無い結婚なんて!とか考えてんの?」
ナタリーの小馬鹿にしたようなニヤニヤ顔がラナの神経を逆なでする。
「生活ってそんなものじゃないでしょう?
愛があったって食べていけなきゃ意味が無いじゃない。
私達みたいな上流階級じゃない人間は学歴にしがみついてちょっとでも条件の良い仕事にありつくくらいしか生き残る道は無いの」
「・・・でも、それってお父さんの努力であってお母さんのじゃないよね?
奥様同士でお茶だランチだってつるんで遊び回って、やれ家の娘はカトレアですのよ、だの、家の主人は研究所の主任研究員ですのよ、だの自慢できてさぞかし幸せなんでしょうね?」
これにはナタリーもカチンと来たようだ。
「じゃあラナはどうすれば満足するの?卒業したらどうするつもりなのよ?」
「・・・・まだこれと言って決めてはいないけど、カレッジに行きたいとは思ってる」
「へ~」
ナタリーは半笑いで言った。
「何のお勉強をなさるんだか知らないけど、これだけは教えといてあげる。
カトレア出の女の子に世間は優秀かどうかとか、そんなこと求めてないから。
カトレアに入れる程度の所謂『良い家庭』に育って、良妻賢母になるべく教育を施されたお嬢さん達。
自分の息子や社員のお嫁さん候補になるような娘を腰掛け程度に雇ってやる。
福利厚生の一環みたいなもんよ」
「女性だって社会で活躍してる人はいるわ」
「そんなのは第一高女とかを出た優秀な女の子達でしょう?」
「お母さんが私をカトレアに入れたんじゃない!」
「だってそれが幸せだから。
第一高女を出た娘達は生意気で嫁のもらい手が無いって」
「もういい!!」
ラナは家を飛び出した。
夕暮れの住宅街を走った。
走って走って息を切らして、気がついたら自然と足が駄菓子屋の方に向いていた。
何故だか無性にガブリエラに会いたかった。
喉が痛くなって血の味がした。
あたりは既に薄暗くなっていた。
たどり着いた駄菓子屋の前のベンチには誰もいなかった。
窓から外を眺めていると、向こう側の斜面に西日が当たって、家々や山肌がキラキラ輝いて見える。
そうすると胸の奥がじりじりする感覚になって、無性にそこに行ってみたくて「確かこの辺のはず」って歩いて行くんだけど、行ってみると違うんだよね。
ちっとも輝いてない。
絶対にたどり着けないの。
まあ、リバティの優秀な生徒さんは、
「距離と時間にもよるけど歩いている間に太陽高度が変わって日光のあたる位置がズレただけじゃないの?」
なんてきわめて常識的な回答をするんでしょうけど。
きっとこの気持ちは思春期の女の子にしか分からないんだと思うわ~
「今日ね、ランバートさんの奥さんに会ったのよ」
ラナの母親が夕食の準備をしながら言った。
「それでね、あなたが来年カトレア学園を卒業するって言ったら御主人の勤務先の銀行に就職できるように口を利いてくださるっておっしゃるから、宜しくお願いします、って言っておいたわ」
「なんでそんな勝手なことするかなぁ?!!」
ラナは捏ねていたミートパイの生地の塊をモールディングボードに叩きつけた。
「なにを怒ってるのよ?」
「私の将来を勝手に決めないでよ!」
「あら、だってセントラル銀行よ?あそこの行員ならエリートだから職場結婚してもいいし、窓口に座ってれば他にも良い縁談が沢山来るのよ?
お母さんだって証券会社の窓口にいたから
『うちの甥っ子に優秀だが奥手で自分じゃ嫁さんを見つけられないのがいるんだが』って、お客様のご紹介でお父さんと結婚できたのよ?」
ナンシーは自分の言うことに何の疑問も感じていない様子でそう言った。
「カトレアを出ていればそれだけで良い条件の縁談に恵まれるけど、良い所に就職していた方が確実でしょ?
銀行の窓口にいればすぐに売れちゃうんだから」
「・・・・」
ラナの頭にはカボチャやパプリカと一緒に自分が八百屋の店先に並んでいる画が浮かんできた。
「お母さんはどうしてお父さんと結婚したの?」
「うーん、リバティ出身で西部第一大学も出てるエリートだし、顔だってまあまあ許容範囲だし、性格も、確かに気が利かなくてボーッとしてるところもあるけど研究者なんて大体そんなもんだろうし、まあ、優良物件の方なんじゃないの?」
「条件で結婚したんだ」
「お見合い結婚なんてそんなものでしょ?
なに?もしかしてアンタ愛の無い結婚なんて!とか考えてんの?」
ナタリーの小馬鹿にしたようなニヤニヤ顔がラナの神経を逆なでする。
「生活ってそんなものじゃないでしょう?
愛があったって食べていけなきゃ意味が無いじゃない。
私達みたいな上流階級じゃない人間は学歴にしがみついてちょっとでも条件の良い仕事にありつくくらいしか生き残る道は無いの」
「・・・でも、それってお父さんの努力であってお母さんのじゃないよね?
奥様同士でお茶だランチだってつるんで遊び回って、やれ家の娘はカトレアですのよ、だの、家の主人は研究所の主任研究員ですのよ、だの自慢できてさぞかし幸せなんでしょうね?」
これにはナタリーもカチンと来たようだ。
「じゃあラナはどうすれば満足するの?卒業したらどうするつもりなのよ?」
「・・・・まだこれと言って決めてはいないけど、カレッジに行きたいとは思ってる」
「へ~」
ナタリーは半笑いで言った。
「何のお勉強をなさるんだか知らないけど、これだけは教えといてあげる。
カトレア出の女の子に世間は優秀かどうかとか、そんなこと求めてないから。
カトレアに入れる程度の所謂『良い家庭』に育って、良妻賢母になるべく教育を施されたお嬢さん達。
自分の息子や社員のお嫁さん候補になるような娘を腰掛け程度に雇ってやる。
福利厚生の一環みたいなもんよ」
「女性だって社会で活躍してる人はいるわ」
「そんなのは第一高女とかを出た優秀な女の子達でしょう?」
「お母さんが私をカトレアに入れたんじゃない!」
「だってそれが幸せだから。
第一高女を出た娘達は生意気で嫁のもらい手が無いって」
「もういい!!」
ラナは家を飛び出した。
夕暮れの住宅街を走った。
走って走って息を切らして、気がついたら自然と足が駄菓子屋の方に向いていた。
何故だか無性にガブリエラに会いたかった。
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