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リアルは俺には手強すぎる3
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「で、真白は何で来たんだ? 昨日、親衛隊と話すって言っただろ?」
「……ゴメン」
俺まで生徒会に呼ばれたせいか、ますますピリピリした教室で授業を終え。
寮に戻り、夕飯(今夜は鮭のホイル焼きとモヤシのナムル)を用意したところで、俺は真白に聞いた。
怒ってるって言うんじゃなく、単に不思議(昨日は納得してたからな)だったんだけど、真白は箸を握ったまま謝ってきた。
何か、ペシャンと垂れた猫耳が見えて――うん、これは怒れない(元々、怒ってないけど)
「親衛隊ならね。ただ俺の親衛隊のチワワちゃんから、谷君がFクラスに連れてかれたって聞いたからさ」
「……そっか」
一茶のフォローを聞いて、納得した。成程、不良の王国(実は単純馬鹿の集まり)に呼び出されて心配したって訳か。
「じゃあ、ゴメンじゃないぞ真白」
「ふぇっ?」
「むしろ、俺がお礼を言わなきゃ。ありがとな、真白」
「……谷ぃ」
親しき仲にも礼儀ありだ。そう思ってお礼を言った俺の手を、不意に真白が掴んでくる。
「オレ、生徒会の邪魔してないからな!」
「……うん?」
「新歓はちゃんと出来るし、親衛隊のこともオレ、悪く言うの怒ってやったぞ!」
(あ、そっか。俺の言うこと、ちゃんと聞いてくれたんだ)
「ありがとう、真白」
「……おうっ」
俺がまたお礼を言うと、真白の口角がご機嫌に上がった。うん、鬘と眼鏡のインパクトにすっかり慣れたな、俺。
(ただし、突然のスキンシップはいかがなものか)
少し悩んだけど、真白のこれからの恋愛(男同士って茨道)を考えたら、このままでもいいかと思った。この調子で、ガンガン攻めていって欲しい。
(あれ、真白は受けだから攻めなくてもいいのか?)
いや、でも誘い受とか襲い受って言葉もあるし――しばし悩んだ俺の手を両手で握ったまま、真白はニコニコ笑ってた。
※
「奏水が心配してたよ? 谷君って危なっかしいって言うか、ほっとけないって」
「……えっ?」
「真白と仲良いよねー。俺的には奏水との姫カップルもイイけど、可愛い攻めと平凡受けもアリだから嬉しいけど♪」
真白達が部屋に戻った後、一茶にそんなことを言われて少し驚いた。
えっ、もしかして俺も妄想対象になってるのか?
「一茶。お前、いくら腐ってるからってそれは見境が無さすぎるぞ? 平凡を一括りにするな。確かに平凡受けってジャンルはあるけど、現実は愛されない平凡、つまりはただの平凡が大部分なんだからな」
「そこまで言うの!?」
驚く一茶を余所に、下げた食器を洗っていく。そして最後の茶碗を洗うと、俺はため息と一緒に呟きを落とした。
「……難しいよな」
「えっ?」
「ある程度、王道は把握してるつもりだけど……お前みたいに、楽々こなしてないからさ?」
楽々どころか、巻き込まれる――とは思ってたけど思った以上に目立ったり、振り回されてる気がする。
何だろう。見た目は勿論だけど、人付き合いのスキル的な問題か?
(友達とか、今までロクにいなかったし)
一人だけいたけど、ガキの頃に引っ越しちゃったし。苛められこそしなかったけど母さん仕事してたから、家を空けないように友達と遊ばなくなったんだよな。
「……楽々として見える?」
「うん」
「アハ。じゃあ、成功してるんだね」
そう言って笑う一茶に、少し驚いた。そんな俺に、一茶が笑ったまま話の先を続けた。
「最初は悩んだよ? 男なのに変な趣味だし、かと言って恋愛はノーマルだから……オープンにするまで悩んだし、してからも誤解されてまた悩んだ」
「一茶……」
「確かに、学園の雰囲気とか生徒は王道物そのままだけど……そこはリアルだから、やっぱり違うところもあるよ」
「……悪い」
自分の想像力の貧困さが情けなくて、俺は謝ることしか出来なかった。
そんな俺の頭を、不意に一茶がクシャッと撫でてきた。
「っ!?」
「わぁ、サラサラだね」
驚いて顔を上げると、そんな一茶の声と笑顔が降ってきた。
「楽々とじゃなくて、良いんだよ。谷君が、やりたいようにやれば」
「……一茶」
「そりゃあ勿論、王道展開とか平凡受けは見たいけどさ? 友達でもあるから……愛があるならともかく、嫌々くっつくんなら流石に止めるよ?」
「つくづく残念だな。あと俺については、妄想要員から外せって」
そうツッコミを入れつつも、俺は内心感謝していた。
理解不能なことばっかりだし、前途多難だけど。
一茶や奏水、真白に会えたのは――友達になれたのは、良かったんだろうな。
※
風呂に入り、部屋に戻った俺は新作を書いて桃香さんのPCにメールで送った。ガラケーで、スクロールしないくらいの文字数を一ページにしてるから、書き出したら……一話(四十ページ前後)に、二~三時間ってとこかな?
王道転校生が、出迎えに来た(テンポを考えて、お約束通り朝にした)副会長にキスをされ。理事長の伯父に抱き着かれ、ホスト担任に気に入られた後、クラスで挨拶するまでを第一話にした。
そんな俺のガラケーに、桃香さんからメールが届く。
『うん、見事に王道ね。転校生君も可愛いし……でも、名前が毬藻君はちょっと』
『ですよね……ただ、真白からどう変えればいいか、浮かばなくて』
『まあ、そこは私も考えるわ。ところで出灰君、一匹狼君は結局いなかったの?』
『一匹狼じゃなく、不良のリーダーならいました。ただ、真白とは何か相性悪くて』
『王道君とはって……出灰君! そこのトコ、kwsk!』
OKが出た後、質問に何気なく答え――失敗した、と思った時にはもう遅かった。
ガッツリ食いついてきた桃香さんに、仕方なく安来さんのことを話す。
『何、その萌え展開……ねぇ、出灰君?』
『真白と絡めるのは、難しいですよ』
『違う違う。いっそ、主人公出灰君にしない?』
『……お疲れみたいですね。寝言は、寝てから言って下さい』
そうメールで返すと、俺は携帯とパソコンの電源を切って布団に潜った。
桃香さんが何か、妙なこと言い出したし――明日、頑張って真白と生徒会を進展させないとな。
「……ゴメン」
俺まで生徒会に呼ばれたせいか、ますますピリピリした教室で授業を終え。
寮に戻り、夕飯(今夜は鮭のホイル焼きとモヤシのナムル)を用意したところで、俺は真白に聞いた。
怒ってるって言うんじゃなく、単に不思議(昨日は納得してたからな)だったんだけど、真白は箸を握ったまま謝ってきた。
何か、ペシャンと垂れた猫耳が見えて――うん、これは怒れない(元々、怒ってないけど)
「親衛隊ならね。ただ俺の親衛隊のチワワちゃんから、谷君がFクラスに連れてかれたって聞いたからさ」
「……そっか」
一茶のフォローを聞いて、納得した。成程、不良の王国(実は単純馬鹿の集まり)に呼び出されて心配したって訳か。
「じゃあ、ゴメンじゃないぞ真白」
「ふぇっ?」
「むしろ、俺がお礼を言わなきゃ。ありがとな、真白」
「……谷ぃ」
親しき仲にも礼儀ありだ。そう思ってお礼を言った俺の手を、不意に真白が掴んでくる。
「オレ、生徒会の邪魔してないからな!」
「……うん?」
「新歓はちゃんと出来るし、親衛隊のこともオレ、悪く言うの怒ってやったぞ!」
(あ、そっか。俺の言うこと、ちゃんと聞いてくれたんだ)
「ありがとう、真白」
「……おうっ」
俺がまたお礼を言うと、真白の口角がご機嫌に上がった。うん、鬘と眼鏡のインパクトにすっかり慣れたな、俺。
(ただし、突然のスキンシップはいかがなものか)
少し悩んだけど、真白のこれからの恋愛(男同士って茨道)を考えたら、このままでもいいかと思った。この調子で、ガンガン攻めていって欲しい。
(あれ、真白は受けだから攻めなくてもいいのか?)
いや、でも誘い受とか襲い受って言葉もあるし――しばし悩んだ俺の手を両手で握ったまま、真白はニコニコ笑ってた。
※
「奏水が心配してたよ? 谷君って危なっかしいって言うか、ほっとけないって」
「……えっ?」
「真白と仲良いよねー。俺的には奏水との姫カップルもイイけど、可愛い攻めと平凡受けもアリだから嬉しいけど♪」
真白達が部屋に戻った後、一茶にそんなことを言われて少し驚いた。
えっ、もしかして俺も妄想対象になってるのか?
「一茶。お前、いくら腐ってるからってそれは見境が無さすぎるぞ? 平凡を一括りにするな。確かに平凡受けってジャンルはあるけど、現実は愛されない平凡、つまりはただの平凡が大部分なんだからな」
「そこまで言うの!?」
驚く一茶を余所に、下げた食器を洗っていく。そして最後の茶碗を洗うと、俺はため息と一緒に呟きを落とした。
「……難しいよな」
「えっ?」
「ある程度、王道は把握してるつもりだけど……お前みたいに、楽々こなしてないからさ?」
楽々どころか、巻き込まれる――とは思ってたけど思った以上に目立ったり、振り回されてる気がする。
何だろう。見た目は勿論だけど、人付き合いのスキル的な問題か?
(友達とか、今までロクにいなかったし)
一人だけいたけど、ガキの頃に引っ越しちゃったし。苛められこそしなかったけど母さん仕事してたから、家を空けないように友達と遊ばなくなったんだよな。
「……楽々として見える?」
「うん」
「アハ。じゃあ、成功してるんだね」
そう言って笑う一茶に、少し驚いた。そんな俺に、一茶が笑ったまま話の先を続けた。
「最初は悩んだよ? 男なのに変な趣味だし、かと言って恋愛はノーマルだから……オープンにするまで悩んだし、してからも誤解されてまた悩んだ」
「一茶……」
「確かに、学園の雰囲気とか生徒は王道物そのままだけど……そこはリアルだから、やっぱり違うところもあるよ」
「……悪い」
自分の想像力の貧困さが情けなくて、俺は謝ることしか出来なかった。
そんな俺の頭を、不意に一茶がクシャッと撫でてきた。
「っ!?」
「わぁ、サラサラだね」
驚いて顔を上げると、そんな一茶の声と笑顔が降ってきた。
「楽々とじゃなくて、良いんだよ。谷君が、やりたいようにやれば」
「……一茶」
「そりゃあ勿論、王道展開とか平凡受けは見たいけどさ? 友達でもあるから……愛があるならともかく、嫌々くっつくんなら流石に止めるよ?」
「つくづく残念だな。あと俺については、妄想要員から外せって」
そうツッコミを入れつつも、俺は内心感謝していた。
理解不能なことばっかりだし、前途多難だけど。
一茶や奏水、真白に会えたのは――友達になれたのは、良かったんだろうな。
※
風呂に入り、部屋に戻った俺は新作を書いて桃香さんのPCにメールで送った。ガラケーで、スクロールしないくらいの文字数を一ページにしてるから、書き出したら……一話(四十ページ前後)に、二~三時間ってとこかな?
王道転校生が、出迎えに来た(テンポを考えて、お約束通り朝にした)副会長にキスをされ。理事長の伯父に抱き着かれ、ホスト担任に気に入られた後、クラスで挨拶するまでを第一話にした。
そんな俺のガラケーに、桃香さんからメールが届く。
『うん、見事に王道ね。転校生君も可愛いし……でも、名前が毬藻君はちょっと』
『ですよね……ただ、真白からどう変えればいいか、浮かばなくて』
『まあ、そこは私も考えるわ。ところで出灰君、一匹狼君は結局いなかったの?』
『一匹狼じゃなく、不良のリーダーならいました。ただ、真白とは何か相性悪くて』
『王道君とはって……出灰君! そこのトコ、kwsk!』
OKが出た後、質問に何気なく答え――失敗した、と思った時にはもう遅かった。
ガッツリ食いついてきた桃香さんに、仕方なく安来さんのことを話す。
『何、その萌え展開……ねぇ、出灰君?』
『真白と絡めるのは、難しいですよ』
『違う違う。いっそ、主人公出灰君にしない?』
『……お疲れみたいですね。寝言は、寝てから言って下さい』
そうメールで返すと、俺は携帯とパソコンの電源を切って布団に潜った。
桃香さんが何か、妙なこと言い出したし――明日、頑張って真白と生徒会を進展させないとな。
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