56 / 107
第一章
アルスとの親密度は?
しおりを挟む
「そんな訳で、ケイン様に認めて貰う為にも勉強や、淑女教育を頑張ってます!」
「そうなの……」
「そのおかげで後日、アルス様にも認めて貰えたので一石二鳥ですっ」
「認めるって……殿下の婚約者として? それとも、光属性の持ち主として?」
猪はともかく、暴風雨の名前が出たのに私は不思議に思って尋ねた。
他の面々とは違って、暴風雨は平民なのでエマの出自に抵抗はない筈だ。そしてイザベルと違い、エマは教会に属している訳ではない。だから反発があるとしたら、二人に共通している光属性くらいしか思いつかなかった。
けれど返されたのは、思いがけない言葉だった。
「いえ! イザベル教の信者としてです!」
「……え、何て?」
「ですから、イザベル教の」
「あの、聞こえなかった訳じゃなくてね?」
「そうですか? あのですね……」
聞こえてはいたのだが、脳が意味を処理するのを拒否してしまった。
そんな私を他所に、エマは暴風雨とのやり取りを話してくれた。
※
それは、週一の勉強会が、何度か行われた後のことだった。
「……君のことを、誤解していたようだ」
「えっ?」
わたしがノートや筆記具を鞄に入れていると、アルス様が声をかけてきた。
他の面々がいるとアルス様は基本、敬語だ。だけど今は二人きりなので、素の話し方をしている。
(誤解だから、悪く思われてたのが違ったってことよね?)
しかし、悪く思われることが――色々あって、どれなのか思いつかない。だから、ここはアルス様の話を聞くことにした。
そんなわたしの前で、アルス様が話の先を続ける。
「聖女様の家に入り込み、追い出したと聞いていた……だから、いくら見た目が愛らしい子供でも、油断ならないと思っていた」
「……申し訳ないです!」
「いや……こちらこそ、申し訳ない。賢しいが、悪意や害意はなさそうだ」
エマが自主的にやった訳ではないが、確かに事実で悪である。だから土下座は何とか堪えたが、わたしは深々と頭を下げた。
そんなわたしに、アルス様が真面目に酷いことを言う。
下心がバレていたのに内心、頭を抱えていると――アルス様が、優しい声で話の先を続けた。
「……無力な子供だからこそ、自分の役割や居場所にしがみつくのは当然だ。それに何より、聖女様を想う気持ちは本物だと感じた」
「はいっ! お姉さまのことは、誰よりもお……尊敬していますっ」
推しと言うのだけはかろうじて堪えたが、イザベルに対しての気持ちが認められたことが嬉しくて、パッと顔を上げて力説した。
そんなわたしに微かな、けれど確かな笑みが向けられる。
ゲームのスチルで見たような、神々しくも麗しい微笑みを見ながら、私はしみじみと思った。
(……良かった。アルス様が、同担拒否じゃなくて)
「そうなの……」
「そのおかげで後日、アルス様にも認めて貰えたので一石二鳥ですっ」
「認めるって……殿下の婚約者として? それとも、光属性の持ち主として?」
猪はともかく、暴風雨の名前が出たのに私は不思議に思って尋ねた。
他の面々とは違って、暴風雨は平民なのでエマの出自に抵抗はない筈だ。そしてイザベルと違い、エマは教会に属している訳ではない。だから反発があるとしたら、二人に共通している光属性くらいしか思いつかなかった。
けれど返されたのは、思いがけない言葉だった。
「いえ! イザベル教の信者としてです!」
「……え、何て?」
「ですから、イザベル教の」
「あの、聞こえなかった訳じゃなくてね?」
「そうですか? あのですね……」
聞こえてはいたのだが、脳が意味を処理するのを拒否してしまった。
そんな私を他所に、エマは暴風雨とのやり取りを話してくれた。
※
それは、週一の勉強会が、何度か行われた後のことだった。
「……君のことを、誤解していたようだ」
「えっ?」
わたしがノートや筆記具を鞄に入れていると、アルス様が声をかけてきた。
他の面々がいるとアルス様は基本、敬語だ。だけど今は二人きりなので、素の話し方をしている。
(誤解だから、悪く思われてたのが違ったってことよね?)
しかし、悪く思われることが――色々あって、どれなのか思いつかない。だから、ここはアルス様の話を聞くことにした。
そんなわたしの前で、アルス様が話の先を続ける。
「聖女様の家に入り込み、追い出したと聞いていた……だから、いくら見た目が愛らしい子供でも、油断ならないと思っていた」
「……申し訳ないです!」
「いや……こちらこそ、申し訳ない。賢しいが、悪意や害意はなさそうだ」
エマが自主的にやった訳ではないが、確かに事実で悪である。だから土下座は何とか堪えたが、わたしは深々と頭を下げた。
そんなわたしに、アルス様が真面目に酷いことを言う。
下心がバレていたのに内心、頭を抱えていると――アルス様が、優しい声で話の先を続けた。
「……無力な子供だからこそ、自分の役割や居場所にしがみつくのは当然だ。それに何より、聖女様を想う気持ちは本物だと感じた」
「はいっ! お姉さまのことは、誰よりもお……尊敬していますっ」
推しと言うのだけはかろうじて堪えたが、イザベルに対しての気持ちが認められたことが嬉しくて、パッと顔を上げて力説した。
そんなわたしに微かな、けれど確かな笑みが向けられる。
ゲームのスチルで見たような、神々しくも麗しい微笑みを見ながら、私はしみじみと思った。
(……良かった。アルス様が、同担拒否じゃなくて)
10
お気に入りに追加
967
あなたにおすすめの小説
見ず知らずの(たぶん)乙女ゲーに(おそらく)悪役令嬢として転生したので(とりあえず)破滅回避をめざします!
すな子
恋愛
ステラフィッサ王国公爵家令嬢ルクレツィア・ガラッシアが、前世の記憶を思い出したのは5歳のとき。
現代ニホンの枯れ果てたアラサーOLから、異世界の高位貴族の令嬢として天使の容貌を持って生まれ変わった自分は、昨今流行りの(?)「乙女ゲーム」の「悪役令嬢」に「転生」したのだと確信したものの、前世であれほどプレイした乙女ゲームのどんな設定にも、今の自分もその環境も、思い当たるものがなにひとつない!
それでもいつか訪れるはずの「破滅」を「回避」するために、前世の記憶を総動員、乙女ゲームや転生悪役令嬢がざまぁする物語からあらゆる事態を想定し、今世は幸せに生きようと奮闘するお話。
───エンディミオン様、あなたいったい、どこのどなたなんですの?
********
できるだけストレスフリーに読めるようご都合展開を陽気に突き進んでおりますので予めご了承くださいませ。
また、【閑話】には死ネタが含まれますので、苦手な方はご注意ください。
☆「小説家になろう」様にも常羽名義で投稿しております。
偽物令嬢〜前世で大好きな兄に殺されました。そんな悪役令嬢は静かで平和な未来をお望みです〜
浅大藍未
恋愛
国で唯一の公女、シオン・グレンジャーは国で最も有名な悪女。悪の化身とまで呼ばれるシオンは詳細のない闇魔法の使い手。
わかっているのは相手を意のままに操り、心を黒く染めるということだけ。
そんなシオンは家族から疎外され使用人からは陰湿な嫌がらせを受ける。
何を言ったところで「闇魔法で操られた」「公爵様の気を引こうとしている」などと信じてもらえず、それならば誰にも心を開かないと決めた。
誰も信用はしない。自分だけの世界で生きる。
ワガママで自己中。家のお金を使い宝石やドレスを買い漁る。
それがーーーー。
転生して二度目の人生を歩む私の存在。
優秀で自慢の兄に殺された私は乙女ゲーム『公女はあきらめない』の嫌われ者の悪役令嬢、シオン・グレンジャーになっていた。
「え、待って。ここでも死ぬしかないの……?」
攻略対象者はシオンを嫌う兄二人と婚約者。
ほぼ無理ゲーなんですけど。
シオンの断罪は一年後の卒業式。
それまでに生き残る方法を考えなければいけないのに、よりによって関わりを持ちたくない兄と暮らすなんて最悪!!
前世の記憶もあり兄には不快感しかない。
しかもヒロインが長男であるクローラーを攻略したら私は殺される。
次男のラエルなら国外追放。
婚約者のヘリオンなら幽閉。
どれも一巻の終わりじゃん!!
私はヒロインの邪魔はしない。
一年後には自分から出ていくから、それまでは旅立つ準備をさせて。
貴方達の幸せは致しません!!
悪役令嬢に転生した私が目指すのは平凡で静かな人生。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。
その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。
そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。
なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。
私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。
しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。
それなのに、私の扱いだけはまったく違う。
どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。
当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.
福留しゅん
恋愛
ヒロインに婚約者の王太子の心を奪われて嫉妬のあまりにいじめという名の悪意を振り撒きまくった公爵令嬢は突然ここが乙女ゲー『どきエデ』の世界だと思い出す。既にヒロインは全攻略対象者を虜にした逆ハーレムルート突入中で大団円まであと少し。婚約破棄まで残り二十四時間、『どきエデ』だったらとっくに詰みの状態じゃないですかやだも~! だったら残り一日で全部の破滅フラグへし折って逃げ切ってやる! あわよくば脳内ピンク色のヒロインと王太子に最大級のざまぁを……!
※Season 1,2:書籍版のみ公開中、Interlude 1:完結済(Season 1読了が前提)
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる