人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま

文字の大きさ
上 下
57 / 112
第一章

え、エンカウント?

しおりを挟む
 そんな風に、エマは攻略対象達に認められた。そしてその報告をしてから今回まで、およそ一か月ほど経ったが今のところは良好な関係を築いているらしい。

「もっとも、イザベル様みたいにいつ、どこでイレギュラーが……あるいは、ゲームの強制力が発生するか解らないので。これからも、精進します! では、また来月! イザベル様、ごきげんようっ」

 そう高らかに宣言すると、エマは寄り添い部屋を後にした。顔は見えないが、元気そうで何よりである。

(でも、そうか……ネット小説で、あったわね。強制力って)

 たとえば、悪役令嬢が婚約を断ったり悪事を働かずに生き延びようとしても、それを果たせなかったり。あるいはヒロインが、いくら攻略対象を避けようとしても逃げられなかったりという感じだ。

(私の場合だと、攻略対象との婚約? んー、でも脳筋エドガー暴風雨アルスケインは私が修道院にいるのを、認めてくれてるし……王子とは、そもそも会ってないし)

 大丈夫よね、と頷いたところで次の訪問者が来たのかチリン、とベルが鳴った。

「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
「……実は」

 そして、年配の女性が孫息子の話を始めた為、強制力についてはすっかり頭から吹き飛んで――自分がフラグを立ててしまったことに、私はまるで気づいていなかった。



 そこから数日が経ち、そろそろ受付時間が終わる頃――チリン、と呼び鈴の鳴る音がした。

「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
「…………」
「…………」

 私が声をかけると、沈黙が返ってきた。
 受付時間は決めているが、時間内に来た相手は時間を過ぎても最後まで受けることにしている。だから私は急かさず、相手が口を開くのを黙って待った。
 そして、どれくらい経っただろうか――聞こえてきた声に、私は戸惑うことになる。

「……君が聖女・イザベルか?」

 その声は、イザベルと同じくらいの子供のものだった。口調から男の子かと思うが、高くあどけない声なので正直、どちらか判断し難い。
 驚いたが、エドガー達もあの年ながらにコンプレックスを抱えていた。それ故、困惑が声に出ないように気をつけながら私は問いかけに頷いた。

「はい、私がイザベルです」
「そうか、君が……」
「はい」
「話には聞いていたが、こうして話すのは初めてだな」
「はい? ……失礼しました」

 気をつけていたが、駄目だった。思わず声を上げてしまった。何だか相手は勝手に話を進めているが、こちらとしてはツッコミどころ満載である。

(え? 話に聞いてたって……誰に? まあ、寄り添い部屋の噂かもしれないけど)

 動揺しつつも、私は話を聞く側であって質問する側ではない。だからツッコミを堪え、何とかこの場をリカバリしようとした。けれど、そんな私の努力を他所に壁の向こうの相手は言葉を続けた。

「私の婚約者や学友達、あと教師から君の話を聞いている」
「……えっ」
「だが、私だけが君と会っても話してもいないので、こうして話に来た訳だ」
「…………サヨウデゴザイマスカ」

 今の人間関係を聞く限り、思い当たるのは一人しかいない。エマの推しである王子・ユリウスだ。
 思い至ったのと言葉の内容に、我ながら棒読みなあいづちを打ちつつ、私は声に出さずに自分へツッコミを入れた。

(立った立った、フラグが立った……って、違うからっ! てか扱いが、聖女って言うより動物園のパンダみたいになってない!?)  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

妹は私の婚約者と駆け落ちしました

今川幸乃
恋愛
貧乏貴族ブレンダ男爵家の姉妹、カトリナとジェニーにはラインハルトとレオルという婚約者がいた。 姉カトリナの婚約者ラインハルトはイケメンで女性に優しく、レオルは醜く陰気な性格と評判だった。 そんな姉の婚約者をうらやんだジェニーはラインハルトと駆け落ちすることを選んでしまう。 が、レオルは陰気で不器用ではあるが真面目で有能な人物であった。 彼との協力によりブレンダ男爵家は次第に繁栄していく。 一方ラインハルトと結ばれたことを喜ぶジェニーだったが、彼は好みの女性には節操なく手を出す軽薄な男であることが分かっていくのだった。

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

「そうだ、結婚しよう!」悪役令嬢は断罪を回避した。

ミズメ
恋愛
ブラック企業で過労死(?)して目覚めると、そこはかつて熱中した乙女ゲームの世界だった。 しかも、自分は断罪エンドまっしぐらの悪役令嬢ロズニーヌ。そしてゲームもややこしい。 こんな謎運命、回避するしかない! 「そうだ、結婚しよう」 断罪回避のために動き出す悪役令嬢ロズニーヌと兄の友人である幼なじみの筋肉騎士のあれやこれや

処理中です...