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第一章
ゲームとのズレと、わたしの決意
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ヒロイン視点
王宮へ行く頻度を週二回→週一回に変更しました。
※
わたしことヒロイン・エマは今年の春から週一回、ユリウス様達と勉強することになった。そんな訳で今日、わたしは一人で馬車に乗り(父に何か思うところがあるのか、王宮側からついてこないように言われた)こうして王宮に来ている。
達、と言うのは他の攻略対象であるケイン様・エドガー様・アルス様(アルス様は先生だ)がいるからだ。他に女の子がいないところを見ると、自分は無事に婚約者の最有力候補になったのだと思われる。
(これから一年くらいで、見極められて……問題がなければ来年、八歳になったら婚約ってことかしら)
今のわたしにあるのは、何とかここまで来られたという達成感と――推しキャラであるイザベル様と、立場が入れ替わったのではないかという疑惑だ。
本来ならイザベル様が、今のわたしみたいに攻略対象達と知り合ったんだろう。そしてゲームでは、ここからユリウス様、あるいは他の婚約者となり(アルスだけは聖職者なので違うが、彼と親しい生徒として)ヒロイン、つまりわたしのライバルになる。
(いや、わたしが婚約者を目指したのは父親に見捨てられたくないからで。別に、悪役令嬢になりたい訳じゃ……あ、でもイザベル様は自分で出ていったから、ゲームみたいにわたしのライバルになることは)
ない、と自分に言い聞かせようとしたが――攻略対象達から出た言葉に、わたしは驚くことになる。
※
「あなたが、聖女様の妹君ですが……教師を務める、アルスです。よろしくお願いします」
「何て言うか、普通だな。あ、エドガーだ」
「エドガー、聖女様とは違いますよ……ケインです、よろしくお願いします」
「……エマです。こちらこそ、よろしくお願いします」
口々に言われたのに、わたしはカーテシーをして応えた。
何と、イザベル様はすでにアルス様達と会っていた。
確かにわたしの素晴らしき推しキャラ様なので、その魅力にメロメロになるのは解るが――反動で、わたしへの対応が雑だ。誰も、名前しか名乗らないのが証拠である。
(同等以上なら、家なり身分を名乗るものね)
わたしは半分平民だ。しかも、イザベル様の方が好感度が上がっているのなら仕方がない。
そう思い、ユリウス様を見たわたしだったが――向けられた笑顔に瞬間、全身から血の気か引いた。
「ユリウスだ。よろしく頼む」
ユリウス様はゲーム内で、何かを諦めたり切り捨てる時、今みたいに綺麗な作り笑顔になる。
それは、彼の過去に関係していて――ゲームでヒロインに惹かれるのは、エマの性格だけではなく境遇も影響していたのだ。
だからユリウス様は、ヒロインにだけは本当の笑顔を見せてくれる。
……けれど、今更ながら気づいた。
立場が入れ替わった状況では、わたしはむしろ彼の過去を刺激するだけだ。
(入れ替わったって言うのなら……ユリウス様を癒せるのは、むしろイザベル様)
だとしたら、わたしがすべきことは婚約者の立場をイザベル様に譲ることだ。
蔑ろにしていたイザベル様に譲った場合、父親に幻滅されてそれこそ修道院に追いやられるかもしれないが――それよりも、わたしはユリウス様に幸せになってほしい。ゲームでヒロインにだけ見せたように、嬉しそうに笑ってほしい。
(まだ、ほとんど話したこともないのに……でも、ユリウス様もわたしの推しキャラ! そして、推しキャラの幸せを願うのが、ファンってものよ!)
「大丈夫ですか?」
「おい?」
「……顔色が悪いですよ?」
「少し休むか?」
動揺や決意が顔に出たらしく、アルス様達が――ユリウス様まで、気遣って声をかけてくる。
「失礼致しました……貴き方々にお会いするのに、緊張してしまいました。申し訳ありませんが、本日はお暇させて頂きます」
わたしは何とかそれだけ言って、王宮を後にした。
そして、待たせていた馬車に乗り――自宅ではなく、イザベル様がいる修道院へと向かった。
王宮へ行く頻度を週二回→週一回に変更しました。
※
わたしことヒロイン・エマは今年の春から週一回、ユリウス様達と勉強することになった。そんな訳で今日、わたしは一人で馬車に乗り(父に何か思うところがあるのか、王宮側からついてこないように言われた)こうして王宮に来ている。
達、と言うのは他の攻略対象であるケイン様・エドガー様・アルス様(アルス様は先生だ)がいるからだ。他に女の子がいないところを見ると、自分は無事に婚約者の最有力候補になったのだと思われる。
(これから一年くらいで、見極められて……問題がなければ来年、八歳になったら婚約ってことかしら)
今のわたしにあるのは、何とかここまで来られたという達成感と――推しキャラであるイザベル様と、立場が入れ替わったのではないかという疑惑だ。
本来ならイザベル様が、今のわたしみたいに攻略対象達と知り合ったんだろう。そしてゲームでは、ここからユリウス様、あるいは他の婚約者となり(アルスだけは聖職者なので違うが、彼と親しい生徒として)ヒロイン、つまりわたしのライバルになる。
(いや、わたしが婚約者を目指したのは父親に見捨てられたくないからで。別に、悪役令嬢になりたい訳じゃ……あ、でもイザベル様は自分で出ていったから、ゲームみたいにわたしのライバルになることは)
ない、と自分に言い聞かせようとしたが――攻略対象達から出た言葉に、わたしは驚くことになる。
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「あなたが、聖女様の妹君ですが……教師を務める、アルスです。よろしくお願いします」
「何て言うか、普通だな。あ、エドガーだ」
「エドガー、聖女様とは違いますよ……ケインです、よろしくお願いします」
「……エマです。こちらこそ、よろしくお願いします」
口々に言われたのに、わたしはカーテシーをして応えた。
何と、イザベル様はすでにアルス様達と会っていた。
確かにわたしの素晴らしき推しキャラ様なので、その魅力にメロメロになるのは解るが――反動で、わたしへの対応が雑だ。誰も、名前しか名乗らないのが証拠である。
(同等以上なら、家なり身分を名乗るものね)
わたしは半分平民だ。しかも、イザベル様の方が好感度が上がっているのなら仕方がない。
そう思い、ユリウス様を見たわたしだったが――向けられた笑顔に瞬間、全身から血の気か引いた。
「ユリウスだ。よろしく頼む」
ユリウス様はゲーム内で、何かを諦めたり切り捨てる時、今みたいに綺麗な作り笑顔になる。
それは、彼の過去に関係していて――ゲームでヒロインに惹かれるのは、エマの性格だけではなく境遇も影響していたのだ。
だからユリウス様は、ヒロインにだけは本当の笑顔を見せてくれる。
……けれど、今更ながら気づいた。
立場が入れ替わった状況では、わたしはむしろ彼の過去を刺激するだけだ。
(入れ替わったって言うのなら……ユリウス様を癒せるのは、むしろイザベル様)
だとしたら、わたしがすべきことは婚約者の立場をイザベル様に譲ることだ。
蔑ろにしていたイザベル様に譲った場合、父親に幻滅されてそれこそ修道院に追いやられるかもしれないが――それよりも、わたしはユリウス様に幸せになってほしい。ゲームでヒロインにだけ見せたように、嬉しそうに笑ってほしい。
(まだ、ほとんど話したこともないのに……でも、ユリウス様もわたしの推しキャラ! そして、推しキャラの幸せを願うのが、ファンってものよ!)
「大丈夫ですか?」
「おい?」
「……顔色が悪いですよ?」
「少し休むか?」
動揺や決意が顔に出たらしく、アルス様達が――ユリウス様まで、気遣って声をかけてくる。
「失礼致しました……貴き方々にお会いするのに、緊張してしまいました。申し訳ありませんが、本日はお暇させて頂きます」
わたしは何とかそれだけ言って、王宮を後にした。
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