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第一章
収納事情と編み物と
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クッキーは、修道院の貴重な財源だが――あまり作りすぎても余ったら悪くしてしまうので、週の後半に作って週末、店に納品している。前世で読んだ小説のように、魔法を使って食べ物を収納し、出来立てほやほやのまま出せるということはない。
(でも修道院にはないけど、貴族とか富裕層の家には冷蔵庫があるのよね)
そのことを知ったのは、修道院に来る前日のことだった。侍女のローラが、食後のデザートにアイスクリームを出してくれたのである。冷たさに驚いて聞くと厨房には、魔法で動く冷蔵庫があるそうだ。魔法は攻防のみに使われると聞いたが、何でも変わり者の魔法使いが趣味で作ったと言う。しかし数に限りがあるので、庶民には広まっていないらしい。
(冷蔵庫があるのなら、アイスも無くはないんだろうけど……どうもちぐはぐと言うか、ちゃんぽんと言うか)
(ちぐはぐ? ちゃんぽん?)
(えっと、ちぐはぐは物事がかみ合わず、違和感があることで……ちゃんぽんは、色んなものを混ぜたものって意味)
(……?)
(難しかったかな?)
(ううん。カナさんに、色んな言葉を聞けるのは楽しい)
そんな現世の私の言葉に癒されつつも、私は思考を再開した。
前世の記憶があるからこそ、それこそネット小説で読むようなご都合主義な文化レベルに引っかかってしまう。何と言うか、アイスクリームを成立させる為に冷蔵庫がある気がしたのだ。
とは言え前世の世界での中世ヨーロッパだと、食事や衛生面が辛いだろう。質素でも三食、ご飯が食べられて、夜は隙間風など入らない部屋のベッドで眠れる。これは私にとっても、現世の私にとっても幸運だ。
そして冷蔵庫は、生活魔法が広まれば初期のもの(魔法を使うのではなく、氷の冷気で食べ物を冷やす)なら、その氷を魔法で作れば製品化出来るだろう。そんな訳で、今後も魔法の多様化に励もうと思う。
話が逸れたが、そんな訳でクッキーばかり作っている訳ではない。
しかし、他にも仕事はあり――そのうちの一つが、編み物だ。マフラーやストールを編んで、生活の糧とすることである。
……とは言え、ここでも幼女の手の小ささというハンデがあるのだが。
「イザベルは器用だな」
「そもそも編み針使わない編み物なんて、よく思いついたわね」
「あ、あの、我が家の侍女が……小さい子供に、編み針は危ないからって考えてくれまして」
アントワーヌ様とビアンカ様が感心するのに、私はそう答えながら指を動かした。とは言え、実際は前世の私の知識である。
編み棒の代わりに、指を使う。太めの毛糸を指に巻きつけて、編んでいくのだ。前世母が教えてくれたやり方で、これなら幼児でも簡単に出来る。
(サイズは、小さくなるけど……逆手にとって、人形用のマフラーにしたら売り物になったのよね。ありがたい)
しみじみと思いつつ手を動かしていると、作業をしている談話室のドアがノックされた。
「誰か」
最年長のアントワーヌが誰何すると、ドアの向こうから声がした。
「失礼します、アルスです……突然、申し訳ございません。聖女様にお願いしたいことがあり、馳せ参じました」
(でも修道院にはないけど、貴族とか富裕層の家には冷蔵庫があるのよね)
そのことを知ったのは、修道院に来る前日のことだった。侍女のローラが、食後のデザートにアイスクリームを出してくれたのである。冷たさに驚いて聞くと厨房には、魔法で動く冷蔵庫があるそうだ。魔法は攻防のみに使われると聞いたが、何でも変わり者の魔法使いが趣味で作ったと言う。しかし数に限りがあるので、庶民には広まっていないらしい。
(冷蔵庫があるのなら、アイスも無くはないんだろうけど……どうもちぐはぐと言うか、ちゃんぽんと言うか)
(ちぐはぐ? ちゃんぽん?)
(えっと、ちぐはぐは物事がかみ合わず、違和感があることで……ちゃんぽんは、色んなものを混ぜたものって意味)
(……?)
(難しかったかな?)
(ううん。カナさんに、色んな言葉を聞けるのは楽しい)
そんな現世の私の言葉に癒されつつも、私は思考を再開した。
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とは言え前世の世界での中世ヨーロッパだと、食事や衛生面が辛いだろう。質素でも三食、ご飯が食べられて、夜は隙間風など入らない部屋のベッドで眠れる。これは私にとっても、現世の私にとっても幸運だ。
そして冷蔵庫は、生活魔法が広まれば初期のもの(魔法を使うのではなく、氷の冷気で食べ物を冷やす)なら、その氷を魔法で作れば製品化出来るだろう。そんな訳で、今後も魔法の多様化に励もうと思う。
話が逸れたが、そんな訳でクッキーばかり作っている訳ではない。
しかし、他にも仕事はあり――そのうちの一つが、編み物だ。マフラーやストールを編んで、生活の糧とすることである。
……とは言え、ここでも幼女の手の小ささというハンデがあるのだが。
「イザベルは器用だな」
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「あ、あの、我が家の侍女が……小さい子供に、編み針は危ないからって考えてくれまして」
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しみじみと思いつつ手を動かしていると、作業をしている談話室のドアがノックされた。
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