29 / 111
第一章
接待の予感と、新たなる展開
しおりを挟む
こうしてエドガーとの会話は終わり、彼は修道院の幸せクッキーを定期的に購入することになった。外の店に卸しているので、特に修道院に来る必要はない。
「また来るぞ、聖女!」
ないのだが、そう言って笑顔を向けてくるエドガーに、私もにっこり笑って言い返した。
「さようでございますか……とは言え、それぞれやるべきことがありますわ。まずはお互い、精進致しましょうね」
「そうか!」
本音としては「一昨日来やがれ」と言いたいが、修道院の収入に結び付く相手に暴言を吐く訳にもいかない。だから、と私がマイルドに伝えると何かツボに入ったのか、元気良く頷いてエドガーは去っていった。どこまで理解したか解らないが、少しでも訪問の間隔が空くと良いと思う。
「……イザベル? ごめんなさいね。もしまた来るようなら、出来るだけお断りするわね」
「院長様……いえ、貴族の若君ですから。むしろ、無理なさらないで下さいね?」
クロエ様の言葉に感激しつつも、私はそう答えた。見た目は幼女だが、中身は現世の年齢も足すとアラサーである。つい口が滑ることはあるが、あまり逆らってもいけないことは流石に解る。
(クッキーを買ってくれるお客様だし……また来たら、接待だと思って観念するしかないわよね)
(せったい?)
(今日みたいに、あの子の話相手をすることよ。イザベル)
(まあ! カナさんと話したい気持ちは解るけど、今日みたいにお仕事の邪魔しちゃ駄目だと思うわっ)
(……もう! イザベル、本当に良い子!)
そしてエドガーの相手をして荒んだ私の心は、現世の私の言葉でほっこり和むのだった。
※
「アルス! お前の言う通り、聖女はすごかったぞ!」
「エドガー様? まさか、彼女に会いに行ったのですか!?」
「ああ! 俺を否定することなく、受け入れてくれたぞっ。まずは剣の練習を頑張って、成果が出たら会いに行くんだ!」
「そんな……」
王宮での家庭教師の日。王宮を訪れたアルスに、エドガーは意気揚々と告げた。
そんなエドガーの言葉に目を見開いた後、アルスがキッと表情を引き締めて言う。
「あの方は、確かに寛大です! ただ一方で、とても謙虚で控えめでもあるのです……今度からは直接ではなく、あの方に会う時は私を通して下さい」
「えー」
「……あの」
本人知らずフィルターのかかったアルスの言葉に、エドガーが不満げに唇を尖らせると――二人の会話に、別の声が割り込んできた。
そしてアルスがその声の主に目をやると、黒髪の少年がアルスを見上げて言葉を続けた。
「僕も、その子と話をしてみたいのですが……お願い、出来ますか?」
「また来るぞ、聖女!」
ないのだが、そう言って笑顔を向けてくるエドガーに、私もにっこり笑って言い返した。
「さようでございますか……とは言え、それぞれやるべきことがありますわ。まずはお互い、精進致しましょうね」
「そうか!」
本音としては「一昨日来やがれ」と言いたいが、修道院の収入に結び付く相手に暴言を吐く訳にもいかない。だから、と私がマイルドに伝えると何かツボに入ったのか、元気良く頷いてエドガーは去っていった。どこまで理解したか解らないが、少しでも訪問の間隔が空くと良いと思う。
「……イザベル? ごめんなさいね。もしまた来るようなら、出来るだけお断りするわね」
「院長様……いえ、貴族の若君ですから。むしろ、無理なさらないで下さいね?」
クロエ様の言葉に感激しつつも、私はそう答えた。見た目は幼女だが、中身は現世の年齢も足すとアラサーである。つい口が滑ることはあるが、あまり逆らってもいけないことは流石に解る。
(クッキーを買ってくれるお客様だし……また来たら、接待だと思って観念するしかないわよね)
(せったい?)
(今日みたいに、あの子の話相手をすることよ。イザベル)
(まあ! カナさんと話したい気持ちは解るけど、今日みたいにお仕事の邪魔しちゃ駄目だと思うわっ)
(……もう! イザベル、本当に良い子!)
そしてエドガーの相手をして荒んだ私の心は、現世の私の言葉でほっこり和むのだった。
※
「アルス! お前の言う通り、聖女はすごかったぞ!」
「エドガー様? まさか、彼女に会いに行ったのですか!?」
「ああ! 俺を否定することなく、受け入れてくれたぞっ。まずは剣の練習を頑張って、成果が出たら会いに行くんだ!」
「そんな……」
王宮での家庭教師の日。王宮を訪れたアルスに、エドガーは意気揚々と告げた。
そんなエドガーの言葉に目を見開いた後、アルスがキッと表情を引き締めて言う。
「あの方は、確かに寛大です! ただ一方で、とても謙虚で控えめでもあるのです……今度からは直接ではなく、あの方に会う時は私を通して下さい」
「えー」
「……あの」
本人知らずフィルターのかかったアルスの言葉に、エドガーが不満げに唇を尖らせると――二人の会話に、別の声が割り込んできた。
そしてアルスがその声の主に目をやると、黒髪の少年がアルスを見上げて言葉を続けた。
「僕も、その子と話をしてみたいのですが……お願い、出来ますか?」
1
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる