先祖返りの君と普通の僕

紫蘇

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先祖返りの君と普通の僕

蛆虫と鬼軍曹

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「…分かってた、んです…。
 どうしても受け入れてもらえない事は」

小田君も矢吹君も、掛ける言葉が見当たらない。
あそこまできて、何で。
お互い特別だと思ってるなら、立場なんてどうでもいいじゃないか…

「教師で、生徒だから、じゃなくて」
「…うん」
「先生の過去が俺の未来を…潰す、だから、駄目だって…」
「過去…?」

あの、男と、何かあったんだろうか。
体の関係を強要されていた…とか?

「言ったんです、気にしない、そんなことは…って、でも」
「…そうか」

無理やりそういうことをさせられてたんなら、そういうことに躊躇するのは分かる、でも…未来を潰すって?

「一生誰ともそういう関係にはならないって決めてるって…だから、いい思い出にしようって…言われて」

涙声の樫原君、何も言えなくなった小田君と矢吹君。

「せんせいのこと、
 こんなに好きなのに、
 なんで」



…すると、そこに何故か一緒にいた横田さんが声を上げた。

「ならば、いい思い出を作り続ければ良い」
「…は?」
「水族館デート、いい思い出になりました。だから今度は映画館でいい思い出を作りましょう。お次はおしゃれな海沿いデートで、次はプラネタリウム、ハイキング、お花見、サッカー観戦、海水浴に花火、クリスマスに初詣…免許取ったら初ドライブ、そこからの温泉旅行、夜景スポット、それから…」
「よ、横田、お前、聞いて無かったのか」
「聞いてるから言ってるんでしょうが!!」

横田さんの言葉は止まらない。

「もっとたくさんいい思い出が欲しいんですと何故言わん!カッコつけてる場合かこのヘタレが!!」
「よ、横田…」
「先生の事情は分からない、だが樫原、あんたには高原先生とハッピーエンドになる義務がある」
「は?」
「お前ら、泥にまみれて転んですりむいて、それでも球ぁ追っかけて走るんだろうが!!
 突っ立って優雅に球蹴ってりゃ勝てんのか!!
 ああ!?」
「は、はい!」
「1つ跳ね返されただけで諦める馬鹿がどこにいる!跳ね返されたら立て、立ってまた前へ進め!
 このまま蛆虫として終わるか、せめて蝿になって飛ぶか、どっちがいいんだ!!言え!!」
「は、蝿です!」
「そうだ、お前は蝿になれ!必死で纏わり付け!追い払われても諦めるな!!」
「はい!」
「分かったのならさっさと帰れ!!
 帰って水族館デートを勝ち取ったことを誇れ!!
 そして次の次まで考えろ!!
 分かったか!!!」
「はい!」
「解散!!」

鬼軍曹・横田の強烈な激励に、背筋の伸びる3人。


そうだ、水族館デートの次、そのまた次。
何度でも、色んな場所へ連れて行こう。
そうして一生…まとわりついていればいい。

「好きだから一緒にいる。
 それさえ変わらなければいいんだ」

樫原君の中で何かが変わった。
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