【完結】ざまぁは待ってちゃ始まらない!

紫蘇

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ざまぁなど知らぬ!

【閑話】魔術塔の親子

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ヨーク・ルーシャ軍曹が飛び立って10日が過ぎた。

火山灰対応に飛んだ「シュージンキどろぉん」が多少の効果を見せていると報告があり、魔術塔でも一安心の空気が広がっている。

昼食時の食堂も穏やかな時間が流れていた。

だがそんな中ひとり、開発者のアルバードは改良型の製作で忙しくしており、この場にいない。
研究室に籠って作業に熱中しているのだ。
それはもう珍しい事では無い。
だから、学園の授業はどうなっているんだ…とは、もう誰も聞かない。

父親である局長以外は。

「…こっちも確かに大切な仕事だけど、誰かに任せて授業に出られるようにしてやらないと」
「ですが局長、あの理論を理解できる者がおりません」
「いや、理解できるようにならないと駄目だよ。
 開発って基本はチームでやるものなんだよ?
 あの箒みたいにね」
「はい…」

そうは言われても、局長親子に勝てる気はしない。
特に局長はかつての「魔物の大増殖」の際に最前線で大活躍した魔術師で、火力的にも勝てる気はしない。

「そうは言っても、局長の跡はロンバード殿が継がれるんですよね?」

もうトップ人事が決まっているのなら、それほどガツガツしなくてもいい。
何なら理解するのは次の世代でもいいじゃないか…

だが職員たちのその甘えた考えを、局長は一刀両断した。

「いや?だって王子様の伴侶になるしね、両立は難しいんじゃない」
「えっ」
「僕も継がせる気は無いよ?
 まあ、研究室を一つ開けておくらいなら出来るかもしれないけど」
「えええっ!?」

職員たちに戦慄が走った。
だって全員が「次の局長はロンバード殿だし~」と、のほほんとしていたからだ。
この人の後の局長なんて、周りから叩かれる未来しか見えないのに…!

「で、でも、局長の次に魔法での功績があるのは、」
「何年も魔物と戦って、人々を守ってる魔術師だっているじゃないか」
「ですが、すでに決定事項だと」
「誰が決めたんだいそんな事!
 常に未来は不確定だって言うのに。
 あ、出世したい人は今からでも遅くないよ!」

そう言って局長は颯爽と食堂を出て行く。
食堂を出る時に、厨房から籠いっぱいのサンドイッチを受け取るのも忘れない。
きっとロンバードへの差し入れだろう…

と、全員が虚ろな頭でそう思った。

***

「おーい、ロンバード。飯」
「あ、親父!ありがと」

ギゼルは、研究室…半分作業場…のような部屋で集塵装置をいじっている息子に声を掛けた。

「どう、進捗は」
「うん…やっぱフィルター式の方はすぐ目が詰まっちゃう」
「結局サイクロン式か」
「うん、でもやっぱ重いからね~」

ロンバードは差し出されたサンドイッチを一つ手に取って、齧る。
ギゼルもサンドイッチを一つ手に取って齧る。

「紙パック式のも出したんだろ?」
「うん、でもパックを使い捨てるっていうのにどうも抵抗があるみたいで。
 あと付け方が分からないって、現地の人が」
「そんな複雑にしたのか?」
「うん…そこを改良して、紙パックは「火山灰保管袋」って名前にして、使い捨てじゃなく入れ物なんだって意識にしていこうかな…って」
「ふーん…そうなると、火山灰の利用方法も考える必要があるな」

ギゼルはもう一つサンドイッチを手に取る。
色々あって腹が減るのだ、仕方がない…

「あれ、親父、飯食ったんじゃないの」
「ん、ああ…腹の中にもう一人いるから」
「はぁ!?」
「だって、セジュールがお前の側付きになるんだろ?
 だったら領地を継いでくれる子がもう一人いるから…って、こんな理由で産むのも…何だけど」

ギゼルは苦笑いしつつ自分の腹を撫でる。
今はまだ1ヶ月、目立った変化は無い。
それでもアルバードは父親に言う。

「親父、いますぐ休めよ」
「馬鹿言え、お前を学園へ行かせるのに交代しにきたんだぞ」
「卒業に必要な単位は取り終わってるから!」

ロンバードは語気を強めて、ギゼルに言う。
その言葉に、ギゼルは優しく返す。

「単位を取ってハイ終わり、なんて寂しいだろ。
 せっかく今生じゃ友だちも出来たんだし!」
「それは…まあ、そうだろうけど」

不服そうな息子の頭を撫で、ギゼルは言う。

「人生を謳歌しろ、ロンバード…いや、有翔ゆうと
 父さんは、それを一番望んでる…もちろん、セジュールにも」
「親父…」

ギゼルは笑って、ロンバードに籠を差し出した。

「ほら、今からでも学園、行ってこい。
 人生何が役に立つか分からんだろ、どんな授業でも前向きにな」
「…分かった。残りは親父が食って」

サンドイッチをもう一つ取って、もぐもぐと腹に詰め込んだロンバードは研究室を出て行く。
それを見送る父親の目は優しく…



ただ、それを魔術塔から見送る研究者たちの目は「学園に通う必要、あるか?」と懐疑的であったが。

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