【完結】ざまぁは待ってちゃ始まらない!

紫蘇

文字の大きさ
上 下
37 / 218
ざまぁなど知らぬ!

国際協力の第一歩

しおりを挟む
明日の早朝、火山灰問題を少しでも解決するための試作機を飛ばすために、俺は夕食後すぐに魔術塔へ向かった。

「来たかロンバード」
「うん、何か久々だね親父」
「転移魔法が大詰めだからな…まずは動物からだ」
「人間はまだ先?」
「ああ、ネズミや鳥が成功したら、少しずつ体の大きさや知能を上げていく…
 最後、人間の実験は、悪いが死刑囚でだ」
「…恐ろしいことになってきたね」

やっぱ転移魔法は怖いな。
成功したらとんでもない成果だけど…

「俺には無理だな…」
「父さんだって人体実験があるようなのを、おまえにはやらせたくないからな…さ、行くか」
「……うん」

親父は俺の頭をナデナデすると、付いて来いと言わんばかりに歩き始めた。

***

魔術塔は広い。
塔というけど、広大な土地があって、でかい倉庫もあって、完全に実験施設なのだ。

前世で例えると自衛隊の駐屯地みたいな?

「一緒に飛んでくれる魔術師を紹介するよ。
 ヨーク・ルーシャ軍曹…って、ロンバードは知ってると思うが」
「宜しくお願いします、ヨークさん」
「こちらこそ!」

ヨークさんは実戦に出る方の魔術師だ。
俺は大体研究所のほうにいるので会うことは少ないけど、魔法以外も何だか強そうな人で、親父の幼馴染というか、弟分的な存在だ。

「…無人飛行集塵機のこと、宜しくお願いします。
 できるだけ早く、解決したいんです。
 飢えに苦しむ人が沢山いるから…」
「おう、任しとけ!
 俺の箒も今回の任務に合わせて特別製にしてもらったし、ぶっ飛ばしてやるぜ!」

見ると、先端に空気抵抗を無くす装置がつき、ハンドルにごつめのシートを備えた…レース用バイクのタイヤ部分が箒、みたいな乗り物がそこにある。

「それ、箒だったんですね…カッコいい!」
「だろ?うちの箒班は腕利きだからな!」

親父曰く、魔術塔には空飛ぶ箒作りに魂を削っている集団があるのだそうで…

転生者かな?

ちょっと会ってみたい気もする。

「じゃあ、俺、集塵機の最終チェック入ります。
 ローター部分に砂が入り込まないように…」

するとヨークさんから質問がある。

「集塵機能はどのように?」
「これは竜巻を作って空気を吸い込んでこの部分へ灰を溜めます。
 これは空気を捉えてフィルターで灰を漉しとります。
 これは空気を吸って紙袋へ集めます。
 使い方はこの取扱説明書に詳しく書いてあります。
 出来たら逐次この通信ブレスレットで、俺に連絡下さい」
「了解!」
「魔力が足りなくなった場合の飴がこちらに入っています。
 これは眠気覚まし用のお菓子…」
「こいつはありがたい」

そうやってヨークさんにあれこれと託し、俺は集塵機ドローンの最終チェックを始めた…

***

そして朝。
火山の噴火で困っている国の留学生とダリル殿下、それからセルナ神聖国を代表してクレア君が出発式にやってきた。

「では、行ってまいります!」
「宜しくお願いします」
「しっかり頼むぞ」
「ヨーク・ルーシャ軍曹に敬礼!」
「敬礼!」

ヨークさんがバイク型箒に乗って飛び立つ。
その後ろを俺の作った集塵機たちが付いていく…無事に飛んだ!

「よし…!無事にそのまま、着いてくれよ…!」

集塵機ドローンたちはすごい速度で飛んで行く…
ヨークさんが魔法で引っ張ってくれているみたいだ。

どうか役に立ちますように…
着く前に壊れませんように。

祈る俺に、クレア君が言った。

「これが上手く行けば、今後の火山噴火に対する対策になるね」
「うん、セルナ神聖国のほうでも、この機械の情報を共有して欲しいんだ。
 まだ完成とは言えないんだけど…きっと完成させて、みんなの助けになるから」
「分かった、セルナを通じてオーセンに発注するよ。
 お金は立て替える事にすればいいしね」
「うん、でも残りのお金は融資してあげてね」
「分かってる、大丈夫だよ」

火山で困ってた国の留学生さんが言った。

「…こんなにも、早く対応して、頂けるとは…」
「いえいえ、まだお役に立てると決まったわけではありません。
 お礼を言って頂くのはまだ気が早いですよ」
「ですが、それでも…!」

留学生さんは頭を深く下げた。

俺が行動する事で、彼の心が少しでも軽くなればいいな…と、思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

処理中です...