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プロローグ
弟・セジュールの憂鬱
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疲れ切って自室に戻ったセジュールに、侍従であるフランネルは紅茶の準備をしながら言った。
「…またロンバード様にやられたのですか?」
「うん…」
こういう時には、砂糖を飽和状態まで入れる事。
それを知っているフランネルは、紅茶にドサドサと砂糖を入れながら言った。
「申し訳ありませんセジュール様…。
ロンバード様には私共からも、何度も苦言を呈しているのですが」
「その『苦言』がお兄様を調子づかせているんだ、頼むからもう何も言わないで…うんしょ」
服の下に仕込んだクッションを外して椅子に座り、だだ甘紅茶を一口飲んで、セジュールはまたもため息をついた。
お前のせいもあるんだぞ、と分かりやすくフランネルを責めているのだ。
フランネルは反論した。
「ですがセジュール様!
今はお芝居のつもりでも、時間が経つに連れ本当に虐められていると思い込んでしまったら…!」
フランネルは心配なのだ。
セジュール坊ちゃまはお優しくて大変に賢くて可愛らしい、素晴らしいご主人様だから。
だがその主人は、その心配を一蹴した。
「心の傷なんか負う訳ないでしょ!?
お兄様はあの劇の後にいつもご褒美の飴を出して僕に握らせて、真剣な顔で『作戦は順調だ!』とか言うんだから…
それに、あんな猿(以下)芝居…無意識下ですら『あっ、芝居だな』って思うレベルだよ」
それでもフランネルの口は止まらなかった。
何か言わねば気が済まないのだ。
「ですが、その芝居にいつまでも付き合わされているのだって、ご負担になりますっ!」
「フランネル、言いたい事は分かるけどさ」
そのセジュールの言葉に、フランネルは爆発した。
「大体、第1王子の婚約者という立場を何だと思っているのですかあの方は!!急に『ぱっくぱっかぁ』などと訳の分からない事を言いだして!!
何度も家出はなさるし、探す方の身にも…」
「その身になったから、円満に(?)出て行く作戦をたてられたんでしょ」
「うっ」
そう、セジュールは知っている。
フランネル含め侍従や執事が困り果てる姿を見て、あのお兄様が何も感じなかったわけがない。
だからこんな回りくどい方法を考えたのだ。
突拍子もないこんな作戦を…。
それはこのフランネルも知っている。
知ってはいるが、感情がついてこないのだ。
「ですが…ですがですね…」
デモデモダッテを繰り返す侍従に、セジュールは苦笑いをするしかない。
自分の為に一生懸命な事は分かっているから。
セジュールは少しだけ話を変えた。
「けど、殿下もなぁ…。
お兄様のへ執着が年々濃くなるっていうか?
僕個人としては、今の殿下にお兄様は嫁がせられないと思ってるんだよね。
だからお芝居に付き合ってるわけだけど」
だって、お兄様が結婚した途端に王宮に閉じ込められて会えなくなるのは嫌だもん…とセジュール。
何の事は無い、セジュールはブラコンなのだ。
それも「きっちり・はっきり・くっきり」。
その点もフランネルは心配している。
だから言う。
「ですがセジュール様。
あのロンバード様ですよ?
殿下の妄執からでも、その気になれば簡単に逃げておしまいになるのでは」
「そうなったらそれで、逃げた後誰を頼るのかって問題が出るんだよ。
お兄様の交友の幅はあまりに広い」
フランネルだって知っている。
ロンバードには多くの人間が惹きつけられる魅力がある…
それが性格なのか能力なのか、どこが良いと明確には言えないけれど。
セジュールはヒートアップする。
「学園の中ですら、殿下から逃げるなら手を貸そう、と思っている奴が何人いるか!
その中には留学生だっている…手を貸して恩を売り、そのまま自分の国に連れ帰ってしまおうという魂胆の奴らがね!」
「それは…困りましたね」
見知らぬ遠い土地へ行ってしまうなら、まだしも知っている近場へ嫁いでほしい。
それもまたセジュールの気持ちである。
セジュールは眉を寄せ、極甘茶を一口飲んで、また喋る。
「困ってる、大変に僕は困っているよフランネル。
ダリル殿下と結婚したら兄様は囲われてしまう。
でも外国に連れ出されたら、いよいよ会いに行けなくなる…」
「ですが『ぱっくぱっかぁ』というのも同じようなものなのでは?」
「!!!!」
痛いところを突かれたセジュールはフランネルに言い返す。
「だから諦めさせようとしてるんでしょ!
その為にお兄様とお揃いのナイフをおねだりして、貯金を減らさせようとしてるんだから…」
「その為だけじゃないでしょうに」
「何か言った!?」
「いえ、何でもございません」
フランネルは危惧している。
セジュールは兄離れすべきなのだ。
だってこんなに「お兄様、お兄様」では伴侶の来手が無くなる。
セジュールは次期当主なのだ。
ロンバートに相当の魔力特性があると分かった、12年前…つまり、生まれた時から。
「…またロンバード様にやられたのですか?」
「うん…」
こういう時には、砂糖を飽和状態まで入れる事。
それを知っているフランネルは、紅茶にドサドサと砂糖を入れながら言った。
「申し訳ありませんセジュール様…。
ロンバード様には私共からも、何度も苦言を呈しているのですが」
「その『苦言』がお兄様を調子づかせているんだ、頼むからもう何も言わないで…うんしょ」
服の下に仕込んだクッションを外して椅子に座り、だだ甘紅茶を一口飲んで、セジュールはまたもため息をついた。
お前のせいもあるんだぞ、と分かりやすくフランネルを責めているのだ。
フランネルは反論した。
「ですがセジュール様!
今はお芝居のつもりでも、時間が経つに連れ本当に虐められていると思い込んでしまったら…!」
フランネルは心配なのだ。
セジュール坊ちゃまはお優しくて大変に賢くて可愛らしい、素晴らしいご主人様だから。
だがその主人は、その心配を一蹴した。
「心の傷なんか負う訳ないでしょ!?
お兄様はあの劇の後にいつもご褒美の飴を出して僕に握らせて、真剣な顔で『作戦は順調だ!』とか言うんだから…
それに、あんな猿(以下)芝居…無意識下ですら『あっ、芝居だな』って思うレベルだよ」
それでもフランネルの口は止まらなかった。
何か言わねば気が済まないのだ。
「ですが、その芝居にいつまでも付き合わされているのだって、ご負担になりますっ!」
「フランネル、言いたい事は分かるけどさ」
そのセジュールの言葉に、フランネルは爆発した。
「大体、第1王子の婚約者という立場を何だと思っているのですかあの方は!!急に『ぱっくぱっかぁ』などと訳の分からない事を言いだして!!
何度も家出はなさるし、探す方の身にも…」
「その身になったから、円満に(?)出て行く作戦をたてられたんでしょ」
「うっ」
そう、セジュールは知っている。
フランネル含め侍従や執事が困り果てる姿を見て、あのお兄様が何も感じなかったわけがない。
だからこんな回りくどい方法を考えたのだ。
突拍子もないこんな作戦を…。
それはこのフランネルも知っている。
知ってはいるが、感情がついてこないのだ。
「ですが…ですがですね…」
デモデモダッテを繰り返す侍従に、セジュールは苦笑いをするしかない。
自分の為に一生懸命な事は分かっているから。
セジュールは少しだけ話を変えた。
「けど、殿下もなぁ…。
お兄様のへ執着が年々濃くなるっていうか?
僕個人としては、今の殿下にお兄様は嫁がせられないと思ってるんだよね。
だからお芝居に付き合ってるわけだけど」
だって、お兄様が結婚した途端に王宮に閉じ込められて会えなくなるのは嫌だもん…とセジュール。
何の事は無い、セジュールはブラコンなのだ。
それも「きっちり・はっきり・くっきり」。
その点もフランネルは心配している。
だから言う。
「ですがセジュール様。
あのロンバード様ですよ?
殿下の妄執からでも、その気になれば簡単に逃げておしまいになるのでは」
「そうなったらそれで、逃げた後誰を頼るのかって問題が出るんだよ。
お兄様の交友の幅はあまりに広い」
フランネルだって知っている。
ロンバードには多くの人間が惹きつけられる魅力がある…
それが性格なのか能力なのか、どこが良いと明確には言えないけれど。
セジュールはヒートアップする。
「学園の中ですら、殿下から逃げるなら手を貸そう、と思っている奴が何人いるか!
その中には留学生だっている…手を貸して恩を売り、そのまま自分の国に連れ帰ってしまおうという魂胆の奴らがね!」
「それは…困りましたね」
見知らぬ遠い土地へ行ってしまうなら、まだしも知っている近場へ嫁いでほしい。
それもまたセジュールの気持ちである。
セジュールは眉を寄せ、極甘茶を一口飲んで、また喋る。
「困ってる、大変に僕は困っているよフランネル。
ダリル殿下と結婚したら兄様は囲われてしまう。
でも外国に連れ出されたら、いよいよ会いに行けなくなる…」
「ですが『ぱっくぱっかぁ』というのも同じようなものなのでは?」
「!!!!」
痛いところを突かれたセジュールはフランネルに言い返す。
「だから諦めさせようとしてるんでしょ!
その為にお兄様とお揃いのナイフをおねだりして、貯金を減らさせようとしてるんだから…」
「その為だけじゃないでしょうに」
「何か言った!?」
「いえ、何でもございません」
フランネルは危惧している。
セジュールは兄離れすべきなのだ。
だってこんなに「お兄様、お兄様」では伴侶の来手が無くなる。
セジュールは次期当主なのだ。
ロンバートに相当の魔力特性があると分かった、12年前…つまり、生まれた時から。
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