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シドハッピーエンド 王の女
9 獣人王の変化(ヴィクトリア視点→ウォグバード視点)
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ヒーローの女性関係の表現あり
***
「リュージュ!」
ヴィクトリアはリュージュを引き留めたくて名前を叫んだが、もうその時には、ヴィクトリアを腕の中に抱え直したシドが猛烈な勢いで走り始めていて、リュージュの姿は見えなくなり、彼の匂いも遠ざかって、わからなくなってしまった。
ヴィクトリアはシドと共にあっという間に里に辿り着いた。シドが無茶苦茶な速さで移動するものだから、里の中いた獣人たちはヴィクトリアたちの姿は視認できなかっただろうが、嗅覚では族長の帰還に気付いたはずだ。
シドは真っ直ぐ族長の館に向かった。中に入ると、シドに気付いた側近やシドの女たちがざわめき何か言っていたが、シドは完全無視して自分の部屋に入った。
ヴィクトリアはシドの部屋の寝台から、シドが部屋に引き込んだ女たちと致している図が嗅覚を通してありありと脳内に描き出されてしまって、急速に吐きそうになった。時には複数を同時に相手にしているようなものまであり、ヴィクトリアはシドの過去の女関係の奔放さを改めて思い知って、その衝撃から気絶したいくらいだった。
「鼻をつまんでいろ」
ヴィクトリアは言われた通りにした。
シドは青白い顔のヴィクトリアを片手に抱いて離さないまま、壁際にある派手で豪奢な作りの置き棚に近付くと、一番上の引き出しを開けて中から長方形の箱を取り出していた。
手の平よりも少し大きくらいのその箱には色の付いた宝石が飾られていたが、その宝石の輝きはくすんでいて、たぶん子供が持つような種類の小物入れだろうと思った。
「シド様!」
部屋のにバタバタと側近や番たちが入ってきた。一応鼻をつまんでいるので、シドの番たちの身体にこびりついているはずの、彼女たちがシドに抱かれた匂いはわからないが、シドが彼女たちとヤってる場面を生で目撃したこともあるヴィクトリアは、彼女たちの顔から過去の場面を思い出してしまって、涙目だった。
「ウォグバードはまだ家にいる。ウォグバードにリュージュに渡せと言ってこれと、それから宝物庫の金塊も一袋渡しておけ」
シドはそう言って、側近の一人に手の中の小物入れを渡していた。
「それはリュージュの母親の形見だ。ピアスと、装身具も少し入っている」
次いでヴィクトリアの方を見て言ったシドの言葉は、『その箱何だろう?』と思っていたヴィクトリアへの説明のようだった。
リュージュの母親が、リュージュが生まれた日に命を落としたことは、ヴィクトリアはリュージュの兄ロータスから聞いていた。
気まぐれで、不要と判断すればすぐ女を捨てるシドが、十六年前に亡くなった女性の遺品をずっと持ち続けていたのは、リュージュの母親への気持ちがまだあるからなのだろう。
「案ずるな。俺の気持ちはもうお前にしかない。あれはリュージュが持っていた方がいいと思ったから渡すまでだ」
それは、シドなりの贖罪とけじめなのかもしれなかった。
シドの獣人の番たちは皆鼻を焼いているので、ヴィクトリアたちが族長の館に現れても、シドとヴィクトリアが番になったことには気付いていない様子だった。
シドが生きて帰ってきたことに大いに喜んで安堵していた彼女たちだったが、しかし、シドの今の発言から、二人が肉体関係を持ったことに気付いた番の何人かは、ギラギラと殺気立った視線をヴィクトリアに送っていた。
「今のリュージュは俺からだと言えば受け取らないだろうからな。ウォグバードが里を出る前に必ず渡せ」
「かしこまりました」
側近は、らしくもなく去る者に情をかけているシドに少しだけ意外そうな表情をしていたが、そのことを口にはせず、恭しく礼をすると部屋から出て行った。
(ウォグバードも里から出て行くのね……)
ウォグバードはリュージュを本当の息子のように大切にしていた。
視覚を失ってもそれを補えるくらいの鋭い嗅覚を持っているウォグバードは、ヴィクトリアたちが里に戻って来た匂いを嗅いで、ヴィクトリアとシドが番になったことや、先ほどのリュージュとのやりとりを知り、迷わずにリュージュと共にこの里を去ることに決めたようだった。
******
嗅覚でシドとヴィクトリアの帰還を知り、その他諸々のことも知ったウォグバードは、秒でシドとの盟約を破って里を出る決意を固め、即行で荷造りを始めた。
シドの嗅覚は神懸かり的なほどに広範囲で、恐ろしすぎるほどの的確さを誇っている。
シドはウォグバードの二度目の裏切りを既に感じ取っているだろうが、まずは族長の館へ向かっていて、その後ヴィクトリアを医療棟へ連れて行くなどしていて、ウォグバードが睨んだ通り、こちらへの対応の優先順位は低いようだった。
ウォグバードはこの隙にと、自分とリュージュの荷物を必要最低限になるように厳選した。
本当はすぐにでもあの男から離れてリュージュのそばに行きたかったが、リュージュは着の身着のままだし、いくら何でも手ぶらで危険の伴う人間の生活圏に行くことは憚られた。
あれもこれも思い出の品も―――― と、荷物の取捨選択に迷いが生まれたせいもあって、急いだつもりだったが、ウォグバードはそれでも家を出る時に、シドが遣わした側近の男と鉢合わせしてしまった。
腰の剣に手をかけて抜刀しかかり殺気立つウォグバードにたじろぎながらも、側近の男は「まあ落ち着け」と制し、「族長から」だと言って、金塊入りの袋を一つ差し出してきた。
ウォグバードはシドの意図を図りかねて最初こそ面食らったが、確かに必要なものだと金塊の袋を受け取った。
そして、リュージュの母親の形見だという品も、「リュージュに渡すように」と託されて――――――
ヴィクトリアと番になったことで『あのお方のお心に大いなる変革が起こった』のだと、ウォグバードは強く感じた。
(たぶん良い方向への)
とはいえ気まぐれな男ではあるので、ウォグバードはシドの気が変わらないうちにと、急いでリュージュがいる魔の森の方角へ向かった。
やがて里と森の境界付近まで来たウォグバードは、立ち止まると、くるりと里の方向を振り返った。
ウォグバードはすぐ取り出せる場所に入れていた、彼の亡くなった番が写る写真立てを取り出すと、写真を里に向けるようにして胸に抱き、写真と共に礼をするつもりで、深く深く頭を下げた。
里を出て森に向かうウォグバードの姿を直接見送る者はなかったが、ウォグバードの最後の礼は、嗅覚を通してシドには届いていた。
ヒーローの女性関係の表現あり
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「リュージュ!」
ヴィクトリアはリュージュを引き留めたくて名前を叫んだが、もうその時には、ヴィクトリアを腕の中に抱え直したシドが猛烈な勢いで走り始めていて、リュージュの姿は見えなくなり、彼の匂いも遠ざかって、わからなくなってしまった。
ヴィクトリアはシドと共にあっという間に里に辿り着いた。シドが無茶苦茶な速さで移動するものだから、里の中いた獣人たちはヴィクトリアたちの姿は視認できなかっただろうが、嗅覚では族長の帰還に気付いたはずだ。
シドは真っ直ぐ族長の館に向かった。中に入ると、シドに気付いた側近やシドの女たちがざわめき何か言っていたが、シドは完全無視して自分の部屋に入った。
ヴィクトリアはシドの部屋の寝台から、シドが部屋に引き込んだ女たちと致している図が嗅覚を通してありありと脳内に描き出されてしまって、急速に吐きそうになった。時には複数を同時に相手にしているようなものまであり、ヴィクトリアはシドの過去の女関係の奔放さを改めて思い知って、その衝撃から気絶したいくらいだった。
「鼻をつまんでいろ」
ヴィクトリアは言われた通りにした。
シドは青白い顔のヴィクトリアを片手に抱いて離さないまま、壁際にある派手で豪奢な作りの置き棚に近付くと、一番上の引き出しを開けて中から長方形の箱を取り出していた。
手の平よりも少し大きくらいのその箱には色の付いた宝石が飾られていたが、その宝石の輝きはくすんでいて、たぶん子供が持つような種類の小物入れだろうと思った。
「シド様!」
部屋のにバタバタと側近や番たちが入ってきた。一応鼻をつまんでいるので、シドの番たちの身体にこびりついているはずの、彼女たちがシドに抱かれた匂いはわからないが、シドが彼女たちとヤってる場面を生で目撃したこともあるヴィクトリアは、彼女たちの顔から過去の場面を思い出してしまって、涙目だった。
「ウォグバードはまだ家にいる。ウォグバードにリュージュに渡せと言ってこれと、それから宝物庫の金塊も一袋渡しておけ」
シドはそう言って、側近の一人に手の中の小物入れを渡していた。
「それはリュージュの母親の形見だ。ピアスと、装身具も少し入っている」
次いでヴィクトリアの方を見て言ったシドの言葉は、『その箱何だろう?』と思っていたヴィクトリアへの説明のようだった。
リュージュの母親が、リュージュが生まれた日に命を落としたことは、ヴィクトリアはリュージュの兄ロータスから聞いていた。
気まぐれで、不要と判断すればすぐ女を捨てるシドが、十六年前に亡くなった女性の遺品をずっと持ち続けていたのは、リュージュの母親への気持ちがまだあるからなのだろう。
「案ずるな。俺の気持ちはもうお前にしかない。あれはリュージュが持っていた方がいいと思ったから渡すまでだ」
それは、シドなりの贖罪とけじめなのかもしれなかった。
シドの獣人の番たちは皆鼻を焼いているので、ヴィクトリアたちが族長の館に現れても、シドとヴィクトリアが番になったことには気付いていない様子だった。
シドが生きて帰ってきたことに大いに喜んで安堵していた彼女たちだったが、しかし、シドの今の発言から、二人が肉体関係を持ったことに気付いた番の何人かは、ギラギラと殺気立った視線をヴィクトリアに送っていた。
「今のリュージュは俺からだと言えば受け取らないだろうからな。ウォグバードが里を出る前に必ず渡せ」
「かしこまりました」
側近は、らしくもなく去る者に情をかけているシドに少しだけ意外そうな表情をしていたが、そのことを口にはせず、恭しく礼をすると部屋から出て行った。
(ウォグバードも里から出て行くのね……)
ウォグバードはリュージュを本当の息子のように大切にしていた。
視覚を失ってもそれを補えるくらいの鋭い嗅覚を持っているウォグバードは、ヴィクトリアたちが里に戻って来た匂いを嗅いで、ヴィクトリアとシドが番になったことや、先ほどのリュージュとのやりとりを知り、迷わずにリュージュと共にこの里を去ることに決めたようだった。
******
嗅覚でシドとヴィクトリアの帰還を知り、その他諸々のことも知ったウォグバードは、秒でシドとの盟約を破って里を出る決意を固め、即行で荷造りを始めた。
シドの嗅覚は神懸かり的なほどに広範囲で、恐ろしすぎるほどの的確さを誇っている。
シドはウォグバードの二度目の裏切りを既に感じ取っているだろうが、まずは族長の館へ向かっていて、その後ヴィクトリアを医療棟へ連れて行くなどしていて、ウォグバードが睨んだ通り、こちらへの対応の優先順位は低いようだった。
ウォグバードはこの隙にと、自分とリュージュの荷物を必要最低限になるように厳選した。
本当はすぐにでもあの男から離れてリュージュのそばに行きたかったが、リュージュは着の身着のままだし、いくら何でも手ぶらで危険の伴う人間の生活圏に行くことは憚られた。
あれもこれも思い出の品も―――― と、荷物の取捨選択に迷いが生まれたせいもあって、急いだつもりだったが、ウォグバードはそれでも家を出る時に、シドが遣わした側近の男と鉢合わせしてしまった。
腰の剣に手をかけて抜刀しかかり殺気立つウォグバードにたじろぎながらも、側近の男は「まあ落ち着け」と制し、「族長から」だと言って、金塊入りの袋を一つ差し出してきた。
ウォグバードはシドの意図を図りかねて最初こそ面食らったが、確かに必要なものだと金塊の袋を受け取った。
そして、リュージュの母親の形見だという品も、「リュージュに渡すように」と託されて――――――
ヴィクトリアと番になったことで『あのお方のお心に大いなる変革が起こった』のだと、ウォグバードは強く感じた。
(たぶん良い方向への)
とはいえ気まぐれな男ではあるので、ウォグバードはシドの気が変わらないうちにと、急いでリュージュがいる魔の森の方角へ向かった。
やがて里と森の境界付近まで来たウォグバードは、立ち止まると、くるりと里の方向を振り返った。
ウォグバードはすぐ取り出せる場所に入れていた、彼の亡くなった番が写る写真立てを取り出すと、写真を里に向けるようにして胸に抱き、写真と共に礼をするつもりで、深く深く頭を下げた。
里を出て森に向かうウォグバードの姿を直接見送る者はなかったが、ウォグバードの最後の礼は、嗅覚を通してシドには届いていた。
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