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第5章 青年期 小休憩編

間話「重要な選択」

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 エイダが右腕の機構銃から放ったエネルギーには、魔族や魔獣の弱点である紫外線が含まれている。彼女の機構銃は、錬成エネルギーを可視化光線として放つ事ができた。アクセルやジャックオー・ハンドマンが携帯する、紫外線照射装置と似た機械だ。

 
 エイダ・バベッジの体内には特殊な機械臓器が埋め込まれている。その臓器は人類が魔術師と戦うために、当時の錬金術師と技術者が再錬成した、『聖赤結晶235』と呼ばれる物質を封じ込めた物だ。聖赤結晶には238と235の二つが存在する。錬金術を発動するには、その内の聖赤結晶238に保存されたエネルギーを消費しなければならない。


 彼女の機械心臓には聖赤結晶235と聖赤結晶238の二つが保存されている。エイダ・バベッジが機構銃から紫外線を照射できたのは、錬金術を発動する過程で心臓に含まれる聖赤結晶238を聖赤結晶235に変化させたからだ。


 通常、聖赤結晶238は結晶内のエネルギーを消費した直後、ただの鉱石に戻ってしまう。廃棄物と化した聖赤結晶には何のエネルギーも残っていない。しかし、エイダはその鉱石を体内の永久機関によって、聖赤結晶238に戻す事ができた。


 エイダ・バベッジが放った可視光線は、災厄の魔術師の左肩を貫いた。彼女は右腕を元の形に戻して、アクセルの元に駆け寄る。

 


「アクセル先輩、お腹から血が――」
「大丈夫だ。これぐらいの怪我ならホルモンを操って止血できる。それより……あの魔術師を……」




 アクセルは彼女に「魔術師を追え」と言ったが、エイダは「無理です。先輩を放って置けません」と言って首を振った。


 彼は視線を魔術師の方に向けたが、そこには魔術師の姿がなかった。災厄の魔術師は左腕をその場に残して消えていた。




「もしかして……逃げられたのか?」
「仕方がありません。相手は災厄の魔術師ですから」

「そうか。じゃあ、僕は生き残ったんだ」
「安心するのはまだ早いです。腹部の傷を治療しないといけませんから」




 アクセルはホッと息をつく。それから少しした後、アクセルの元にジャックオー・ハンドマンと『亜人喫茶・デン』、ロータスとジャガーノートを含めた『アルファ部隊』が合流した。


 彼女達は怪我を負ったアクセルと戦闘の痕跡、破壊されたハンズマンと凄惨な現場を目にして事態を察した。
 

 ジャックオー・ハンドマンとロータス・キャンベルは、壁に寄り掛かるアクセルの元へと駆け寄る。二人は携帯していた鎮痛剤入りの注射器をダンプポーチから取り出し、彼の心臓や腹部周りに突き刺した。




「師匠……勝手に行動してすみません」
「喋るな馬鹿弟子。今打った注射器には出血を抑える液体が含まれている。ロータス、これより『便利屋ハンドマン』は、『亜人喫茶・デン』のメンバー捜索を中止して地上に戻る。それで構わないな?」




 ロータスはジャックオーの問い掛けに頷き、無線機を取り出した。その後、彼女は携帯無線機を通じて電波の中継基地局に連絡を取り、緊急医療班と治安維持部隊に応援要請を送った。


 アクセルはホルモン操作で止血を続けたが、意識が遠のいていくに連れて出血が起こる。彼の黄色いコートに血が滲み出た。




「ロータスさん。地上に戻ったら、おっぱいを揉ませて下さい。それと、もっとエッチがしたいです。たくさんヒールで踏んで欲しいです……」
「こんな時に何言ってんのよ。幾らでも揉みなさい。お尻の穴が二つになるまで踏んであげるから眠っちゃダメよ」




 ロータスはアクセルに声を掛け続けたが、アクセルは刺し傷の痛みに耐えきれずに気を失った。


 それから少し経った後、アクセルを含めたアルファ部隊と便利屋ハンドマン、亜人喫茶・デンのメンバーは、二名の重傷者と三名の死者を出して地上に戻った。


 中継基地局に居た治療班と現場に居た者の適切な応急処置により、アクセルは重傷を負ったが幸いにも無事に病院に搬送される事になった。この時、ジャックオー・ハンドマンとロータス・キャンベルの間で言い争いが起きた。内容は『アクセルを何処の病院に運ぶのか』という物であった。


 ロータスと治安維持部隊の案内により、便利屋ハンドマンとアルファ部隊、亜人喫茶・デンの一同は四番街の地下水道出口にたどり着いた。




「ロータスさん。アクセルは五番街にある『診療所トゥエルブ』に運ばせます」
「ジャックオーさん、それは見過ごせません。彼はダスト軍が管理している医療施設に搬送すべきです」

「ダメだ。それじゃあ彼の体力が持たない。四番街からだとトゥエルブの方が近いんだ!」
「そんな事ぐらい分かってます。ですが、設備が整っていない診療所で手術をするなんて許可できません!」

「私と『便利屋ハンドマン』の名前を信じて欲しい。一刻を争う事態なんだ」
「分かりました。ですが、彼の搬送はダスト軍が行います」




 ジャックオー・ハンドマンはロータスを説き伏せたが、診療所トゥエルブまでの搬送は軍が行う事になった。しかし、ここで更に問題が起きた。四番街は景観を守るために、浮遊型蒸気自動車の侵入を許可していなかった。それにより、アクセルを診療所へ運ぶための緊急車両は、予定より数分遅れて到着した。


 それから数十分後、ロータスは四番街に居る治安維持部隊に「十五歳の少年は腹部に刺し傷があります。刺し傷が内蔵にまで達しているかもしれません。到着次第、緊急手術をお願いします」と言い、到着した緊急車両の内の一台に『亜人喫茶・デン』の少女を乗せる。もう一台には、アクセルと『便利屋ハンドマン』の一行を乗せた。
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