上 下
48 / 120
第5章 青年期 小休憩編

41「大人のステップアップ」

しおりを挟む

 場末の酒場で酒を飲みながら数時間が経った。ロータスさんは飲み慣れているらしく、ビールを何杯飲んでも一向に酔い潰れる気配がない。


 僕は何度も席を立ってトイレに行き、体内で分解したアルコールを尿として排出する。彼女が居る席に戻るや否や、ロータスさんは僕と自分の分の酒を新しく注文していた。




「ロータスさん、まだ飲むんですか?」
「何言ってるのよ。こんな量で酔うはずがないでしょ」

「こんな量って。もう何十杯も飲んでますよ」
「貴方こそもっと飲むべきよ。折角のデートだってのに酒が進んでないわよ」

「もう何十杯も飲んでます。そろそろ潰れてくれませんか?」
「バカ言わないでちょうだい」



 
 その後も僕は意地を張って酒を飲み続けた。精神年齢で言えば僕の方が年上だ。それに能力を使って本気になれば、アルコールを分解する事など容易い。


 僕が「絶対に負けませんよ」と言うと、彼女は「望むところよ」と言って、酒を飲み続けた。


 ロータスさんは面白くて可愛い女性だ。僕が酒で潰れる事がないと知っておきながら、それでも果敢に僕を潰そうとしてくる。




「ねえアクセル」
「どうしたんですか、ロータスさん」

「壱番街で起きた『猟奇的殺人事件』を知ってる?」
「知ってますよ。政府の要人が殺された事件ですよね」




 ロータスさんは頬を赤く染めて訊ねてきた。何十杯も酒を飲んでいるというのに、彼女は未だにほろ酔い状態でしかない。


 半年前、壱番街で『猟奇的殺人事件』起きた。被害者は独裁者ダスト・アンクルの政党を支持する有権者の一人だ。僕が知らないわけがない。




「事件現場は凄惨だったわ。侵入経路も分かっていないの」
「大変な事件でしたね」

「アクセル。貴方なら何か知ってるんじゃないの?」
「何も知りませんよ。そもそも、僕は壱番街に入る事すら出来ませんから」




 そう言って僕はビールを飲み干した。治安維持部隊に属するロータスさんに情報を渡すつもりはない。同業者の情報を渡すという事は、その同業者から報復を受ける可能性があるからだ。


 彼女には自分の足で調べてもらうしかない。


 等と考えていると、ロータスさんが軍服を脱ぎ始めた。彼女は羽織っていたジャケットを脱いで、赤いネクタイを緩めている。その後、目の前に居た女性兵士はワイシャツのボタンを外して、たわわなデカ乳の谷間を晒してきた。


 おーダイナマイツ。相変わらず胸の大きさは頭ひとつ抜けている。




「何してるんですか……」
「体が火照ってきたら脱いだだけよ。別に構わないでしょ」


 
 
 ここは宿屋を兼ねた場末の酒場だ。近くにある階段からは男女の喘ぎ声が聞こえてくるし、お盛んな男女が裸プロレスに励んでもいる。女性兵士の1人が谷間を晒したところで、誰も気にしないに違いない。


 2階から喘ぎ声が聴こえる気不味い雰囲気の中、ロータスさんは「上に居るカップル、随分とお盛んなようね」と言ってきた。


 彼女の言う通りだ。場末とはいえど、僕たちが居るのは酔った馬鹿どもで賑わう宿屋を兼ねた酒場だ。エッチな喘ぎ声が聞こえてきても仕方がない。




「本当に童貞なのね。ただの喘ぎ声じゃないの」
「普通は恥ずかしくなりますよ。他人の喘ぎ声なんて滅多に聴かないじゃあないです」

「それもそうね。覚悟は出来た?」
「え、何の覚悟ですか?」




 彼女は持っていた酒瓶を卓上に置いて僕を見つめてきた。ほんの少しだけ彼女の頬が赤くなっているのは、もしかしたら『ナニか』を想像しているからなのかもしれない。


 彼女の想いを無視して、体内のアルコール毒素の全てを分解して酔いを覚ますのも良かったが、僕はそうしなかった。


 僕はロータスさんが好きだ。顔の一部に火傷の痕が残っているけど、そのマイナス要素を含めてもロータスさんは魅力的な女性だと思える。


 その後、ロータスさんは席を立ってポーチから酒代を取り出した。その中には何肉か分からない料理の代金や、僕たちが飲んだ分の銀貨が含まれている。


 彼女は立ち上がった後、酒場の従業員と思われる女性に、「1泊するわ。大人2人分の宿泊代よ」と言って鍵を受け取り、銀貨数枚を渡して階段を登っていった。




「大人になる覚悟が出来たのなら、私が居る部屋に来なさい」
「え、ちょ……」




 ロータスさんはそう言って客室に向かってしまった。それから少しした後、酒場の従業員と思われるケモ耳の女性が、「お連れ様が行かれた部屋の鍵です」と言って、卓上に鍵を置いていった。


 酒代と宿泊代は支払われている。あとは僕が覚悟を決めて席を立つだけだ。緊張で手が震えている。喉が渇いてしょうがなかった。


 僕はビールをおかわりして喉を潤し、緊張を抑えるためにアルファベットを数えた。


 Aから順に数え始めたが、頭に浮かんだのは女性たちの下着姿だった。御令嬢に仕える美人メイドや爆乳ホムンクルスのアラレもない姿、会ったばかりのジャガーノートさんの絶壁や女性だと分かったジャックオー師匠の下着姿が目に浮かぶ。


 その後、僕の妄想に半裸姿の修道女たちとスチームボットが現れ、彼女たちは歌に合わせて踊り始めた。彼女たちは、「男になる時よ、アクセル」と声を掛けてくる。


 酒や料理が並べられた卓上に目を向けてみると、そこには一匹の機甲手首ハンズマンが居た。


 彼に向けて指で作った輪っかを差し出すと、彼は人差しを立てて輪っかに指を出し入れしてくる。下品なボットだ。期待はしていたが、まさかこんな事にも対応する程の知能レベルだとは思わなかった。


 僕は席を立ってハンズマンに、「他のハンズマンを店の近くに待機させてくれ。何かが起こったとしても、僕は『ナニ』に集中するから後は任せた」と指示を送り、大人の階段を登るために酒場の階段を駆け上がった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

歌って踊れて可愛くて勝負に強いオタサーの姫(?)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:18

僕の彼女は小学生♡

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:39

婚約破棄?そもそも私は貴方と婚約してません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2,101

大国に売られた聖女

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:4,397

疲れたお姉さんは異世界転生早々に幼女とスローライフする。

fem
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:20

無敵チートな猫の魔法使いとシンデレラになれない私

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:17

処理中です...