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第5章 青年期 小休憩編
41「大人のステップアップ」
しおりを挟む場末の酒場で酒を飲みながら数時間が経った。ロータスさんは飲み慣れているらしく、ビールを何杯飲んでも一向に酔い潰れる気配がない。
僕は何度も席を立ってトイレに行き、体内で分解したアルコールを尿として排出する。彼女が居る席に戻るや否や、ロータスさんは僕と自分の分の酒を新しく注文していた。
「ロータスさん、まだ飲むんですか?」
「何言ってるのよ。こんな量で酔うはずがないでしょ」
「こんな量って。もう何十杯も飲んでますよ」
「貴方こそもっと飲むべきよ。折角のデートだってのに酒が進んでないわよ」
「もう何十杯も飲んでます。そろそろ潰れてくれませんか?」
「バカ言わないでちょうだい」
その後も僕は意地を張って酒を飲み続けた。精神年齢で言えば僕の方が年上だ。それに能力を使って本気になれば、アルコールを分解する事など容易い。
僕が「絶対に負けませんよ」と言うと、彼女は「望むところよ」と言って、酒を飲み続けた。
ロータスさんは面白くて可愛い女性だ。僕が酒で潰れる事がないと知っておきながら、それでも果敢に僕を潰そうとしてくる。
「ねえアクセル」
「どうしたんですか、ロータスさん」
「壱番街で起きた『猟奇的殺人事件』を知ってる?」
「知ってますよ。政府の要人が殺された事件ですよね」
ロータスさんは頬を赤く染めて訊ねてきた。何十杯も酒を飲んでいるというのに、彼女は未だにほろ酔い状態でしかない。
半年前、壱番街で『猟奇的殺人事件』起きた。被害者は独裁者ダスト・アンクルの政党を支持する有権者の一人だ。僕が知らないわけがない。
「事件現場は凄惨だったわ。侵入経路も分かっていないの」
「大変な事件でしたね」
「アクセル。貴方なら何か知ってるんじゃないの?」
「何も知りませんよ。そもそも、僕は壱番街に入る事すら出来ませんから」
そう言って僕はビールを飲み干した。治安維持部隊に属するロータスさんに情報を渡すつもりはない。同業者の情報を渡すという事は、その同業者から報復を受ける可能性があるからだ。
彼女には自分の足で調べてもらうしかない。
等と考えていると、ロータスさんが軍服を脱ぎ始めた。彼女は羽織っていたジャケットを脱いで、赤いネクタイを緩めている。その後、目の前に居た女性兵士はワイシャツのボタンを外して、たわわなデカ乳の谷間を晒してきた。
おーダイナマイツ。相変わらず胸の大きさは頭ひとつ抜けている。
「何してるんですか……」
「体が火照ってきたら脱いだだけよ。別に構わないでしょ」
ここは宿屋を兼ねた場末の酒場だ。近くにある階段からは男女の喘ぎ声が聞こえてくるし、お盛んな男女が裸プロレスに励んでもいる。女性兵士の1人が谷間を晒したところで、誰も気にしないに違いない。
2階から喘ぎ声が聴こえる気不味い雰囲気の中、ロータスさんは「上に居るカップル、随分とお盛んなようね」と言ってきた。
彼女の言う通りだ。場末とはいえど、僕たちが居るのは酔った馬鹿どもで賑わう宿屋を兼ねた酒場だ。エッチな喘ぎ声が聞こえてきても仕方がない。
「本当に童貞なのね。ただの喘ぎ声じゃないの」
「普通は恥ずかしくなりますよ。他人の喘ぎ声なんて滅多に聴かないじゃあないです」
「それもそうね。覚悟は出来た?」
「え、何の覚悟ですか?」
彼女は持っていた酒瓶を卓上に置いて僕を見つめてきた。ほんの少しだけ彼女の頬が赤くなっているのは、もしかしたら『ナニか』を想像しているからなのかもしれない。
彼女の想いを無視して、体内のアルコール毒素の全てを分解して酔いを覚ますのも良かったが、僕はそうしなかった。
僕はロータスさんが好きだ。顔の一部に火傷の痕が残っているけど、そのマイナス要素を含めてもロータスさんは魅力的な女性だと思える。
その後、ロータスさんは席を立ってポーチから酒代を取り出した。その中には何肉か分からない料理の代金や、僕たちが飲んだ分の銀貨が含まれている。
彼女は立ち上がった後、酒場の従業員と思われる女性に、「1泊するわ。大人2人分の宿泊代よ」と言って鍵を受け取り、銀貨数枚を渡して階段を登っていった。
「大人になる覚悟が出来たのなら、私が居る部屋に来なさい」
「え、ちょ……」
ロータスさんはそう言って客室に向かってしまった。それから少しした後、酒場の従業員と思われるケモ耳の女性が、「お連れ様が行かれた部屋の鍵です」と言って、卓上に鍵を置いていった。
酒代と宿泊代は支払われている。あとは僕が覚悟を決めて席を立つだけだ。緊張で手が震えている。喉が渇いてしょうがなかった。
僕はビールをおかわりして喉を潤し、緊張を抑えるためにアルファベットを数えた。
Aから順に数え始めたが、頭に浮かんだのは女性たちの下着姿だった。御令嬢に仕える美人メイドや爆乳ホムンクルスのアラレもない姿、会ったばかりのジャガーノートさんの絶壁や女性だと分かったジャックオー師匠の下着姿が目に浮かぶ。
その後、僕の妄想に半裸姿の修道女たちとスチームボットが現れ、彼女たちは歌に合わせて踊り始めた。彼女たちは、「男になる時よ、アクセル」と声を掛けてくる。
酒や料理が並べられた卓上に目を向けてみると、そこには一匹の機甲手首が居た。
彼に向けて指で作った輪っかを差し出すと、彼は人差しを立てて輪っかに指を出し入れしてくる。下品なボットだ。期待はしていたが、まさかこんな事にも対応する程の知能レベルだとは思わなかった。
僕は席を立ってハンズマンに、「他のハンズマンを店の近くに待機させてくれ。何かが起こったとしても、僕は『ナニ』に集中するから後は任せた」と指示を送り、大人の階段を登るために酒場の階段を駆け上がった。
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