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Past me, present me

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 それから数日経ち、今日も私は本業のパソコン教室にて受講生を待ちつつ、隣の法人事業部の清里きよさと所長と軽作業をこなしていた。

 彼女は年明けに出産して3ヶ月で復帰、器用な旦那さんが主体となり子育てと仕事を両立している。

 お得意様へ配るチラシを三つ折りにして封筒へ入れる、これは本来なら私の仕事ではないのだけれど暇過ぎるので手伝っているのだ。


「ふー…できた…手のあぶらが持って行かれちゃうね」

「ハンドクリーム、塗ります?持ってますよ」

「先生、女子力高ーい」

「これくらいで…」

私は年間通してバッグの底に入れているハンドクリームの蓋を開けてチョロっと所長の手の平へ出してあげる。

 白くて細くて長い指、この人と比べると自分の小さな手がチンケに見えて恥ずかしい。

「ふー…よし…受講者さん来ないかな、搾乳して良い?」

「いいですよ、お茶淹れますね」

「ありがとう」

乳量が豊富らしい所長は時折こうして、教室を締め切って搾乳する。

 背中を向けているので直接見てはないけど、搾らないとお乳が溜まって胸がカチカチになり痛いそうだ。


「先生、最近…なんだか表情が柔らかくなったね」

「そ、うですか?そうかな…」

「うん…服装もなんだか変わった気がするし…全体的に色味が落ち着いたというか…上品になった気がする」

 確かに私は新しい洋服を選ぶ際に茶系統の物を買いがちで、以前の明るいパステルカラーの物はあまり着なくなっていた。

 それはやはり副業が関係していて、古湊さんに似合うと言われた物を身に着けると自信が湧くからで。

 やましいことではないのに色恋に影響される安い女になったようでバツが悪い。


「あの…自分に似合う服を教えてもらったというか…」

「あー、診断みたいな?良かったね、すごく似合ってるよ」

 素直な所長はさらりと私なんかを褒めてくれる。

 圧倒的美人にそんなことを言われるのもむず痒くて敵わない。

「どうも…その…スタイリストというか、服飾関係の…人で…所長は…その…コスプレとかロリータって親しみあります?」

「え、先生するの?自分ではしないけど理解はあるつもり」

「そう…私ね、こういう…モデルしてるんです」

私はSNSにアップされている自分の写真を彼女へ見せてあげた。


「……わぁ……え、これ…先生、プロなの?」

「読者モデルに毛が生えたみたいなやつです、スカウトで…」

「すごい、可愛いね!もっと見せて♡」

「ドウゾ…」

 所長は服を直し手を拭いて、私のスマートフォンを手に取り店の投稿をついついとスクロールしていく。

 可愛いと認めてもらえた、今さらだけど彼女から貰えるその言葉は何より嬉しいものだった。


「可愛い…メイデンか…詳しくないけど、フリフリした服のお店だよね?」

「はい、私はメインのラインは似合わなくて…落ち着いた色味のばっかり着せられてます」

「そう…先生は小柄だけど顔立ちはクールだもんね。モード系って言うのかな、奇抜なメイクとかも似合いそう…可愛い…こっちのモデルさんは背が高いんだねー…へぇ…この人は…この男の人もモデルさん?」

ある程度見て最新投稿まで戻ってきた所長は、古湊さんを指して私に問う。

「このブランドのメインデザイナーさんです。モデルもやってて…キレイな顔してて…33歳くらいらしいんですけど…童顔で…可愛い人です」

「へー…私も女装趣味の男の人知ってるけど、その人は地が男顔だからここまで女性っぽくはならないんだよね…可愛いねぇ…」

「…身長も…155センチで…低くって…けど、けど才能あって稼いでるし色んな服が作れて、その、優しくて、」

「うん、うん、どうしたの、」

突然の売り込みに、当然だが所長は呆気に取られお茶のカップを安全な所へ避難させた。

 古湊さんのことを分かってもらいたい、烏滸おこがましいけれどそんな気持ちで私は知っている彼の良さをひねり出す。

「私、小さいことでマウントばっか取ってたけど、この人はそういうの関係無くって…凄い人なんです、」

「うん、馬鹿になんてしてないよ、落ち着いて…」

「違うんです、この…古湊さん、凄い人で…分かって欲しくて」

「……うん、凄いデザイナーさんなんだ。それで…先生も惹かれてる…のかな?」

「そう…ではないかも」

 あら方向を間違えた、そんな調子で所長は

「うん?」

と眉を上げてカクンと前のめった。
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