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Capitolo7…Lettera

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「……え、あ、完成したんだ…」

 コロンが香って来そうな電子の文字を食い入るように見つめ何度も読み返して、しかし記憶がおぼろげで脳内再生が上手くいかない。

 なんせ何ヶ月もまともに顔を見てないんだ。

 声が聴こえる距離まで近付くことさえできていない。


 美術館のホームページを確認すると確かに地元出身芸術家の新作展示会のお知らせが載っていて、日時を確認して予定を組んだ。

 会えるんだ、ほぼ1年ぶりの再会に心が躍る。

 別に抱きたいとかそんな気持ちは毛頭なくて、安否不明の知人との面会にわくわくするみたいな気持ちで…単純に連絡が貰えて嬉しかった。

 まぁ向こうの態度いかんではねんごろになったって構わないけどね、もうガキではない僕は相容れない者との邂逅かいこうに根拠無しの自信など持っていない。

 手の届かない相手とそれなりの距離感で、けれど好意を匂わせるくらいの振る舞いはできるかなと入学式に着たスーツをクローゼットから出してウォールハンガーに吊るした。


 お祝いだから花でも贈ろうかな、そこまでする間柄じゃないかな。

 でも僕はモデルだからシラトリさんは言わば『作家先生』みたいなもので…駅前に花屋さんはあったっけと考えつつスーツにブラシを掛ける。

「(温かい気持ち…嬉しいなぁ…)」

恩師に会う懐かしい気持ち、昔の恋人に会う気恥ずかしい気持ち。

 たった2回しか会ってないのに濃密だったシラトリさんとの関係はその後の僕の人生を変えてしまった。

 彼女に会わなければ今でもいかがわしい遊びを続けていただろう。

 配偶者から訴えられたりしても不思議は無いし進学もしてなかったかもしれない。

 裸を見せたのにプラトニックだなんて本当に不思議だよ、あの時突き放して叱ってくれた彼女には心より感謝している。

 吊り橋効果とかショック療法みたいなものが近いと思うんだけど、僕はあんなに揺さぶられた心を都合よく好意に変換して有り難がっている。

 僕はシラトリさんを、まだ慕っている。



つづく
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