僕たちが幸せを知るのに

茜琉ぴーたん

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Capitolo2…Avventura

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「…そうだ、クマネズミ」
 すっかり忘れていたが、僕は門の外で張って姉の彼氏を捕まえねばならないんだった。
 さっきまで裸だったから変な感じ、スッキリはしてないけどガッカリもしてなくてむしろ満たされた感があって妙な気持ちだ。
「(シラトリさん…振り向かせたら達成感パないだろうなぁ)」

 明日もオープンキャンパスだし来てみようかな、そんなことを考えて待機していると後ろの門から来た長く伸びた影が僕の隣で止まった。
 そして再び動き出したので、目視で大きな男を確認してから
「あ、クマネズミさーん、待って!」
と無邪気に声を掛けてやる。
「………あ、礼央れおくん…」
「(あ、僕名乗ってないのに…嘘がつけないのは難儀なんぎだね…悪い人に騙されないと良いけど)…ふもとまで一緒に帰りましょうよ」
「え、あぁ、うん…」
 押しに弱そうな彼を見下ろしつつ強行突破、僕らは仲良く並んで坂を降り始めた。
「ここ、長い坂ですね。毎日大変でしょう?」
「慣れたらなんてことないよ、免許取って許可証を貰えば車通学だって出来るしね」
「へぇ~…クマさんは、歩きですか?」
 どのタイミングで彼は僕の姉の恋人だと明かすつもりなんだろう。渾名あだなまで付けてしまった僕に今さら「今泉いまいずみです」と言えるのだろうか。
「下の駐輪場に自転車を置いてるよ…あの、うちの大学、どうだった?参考になったかな?」
「はい、校舎も設備もきれいだし、学食も美味しかったし」
「あ、あれ食べた?中央食堂の特別メニュー」
「あー、頂きました。美味しかったですよ」
「そうなんだ、いや、出来合いのハンバーグってこう、混ぜ物が多かったりするじゃない、後から牛100パーって聞いてさ、僕も頼めば良かったなって」
 いくつになってもハンバーグは憧れで揺るぎない正義、太い眉を捻り悔しそうに振る舞う彼は素直で純朴で人畜無害そうな人だと感じた。
 ピュアだなぁ、この人がこのまま社会人になって世間の嫌な部分とかに触れた時に打ちのめされたりしないのかな。姉を守れるのかな、その体の大きさとは裏腹に頼りなさもほのかに匂う。
「ふふ、クマさんっていい人そうですね」
「え?そう?」
「はい、クマさんみたいな人だったら、彼女も幸せなんだろうなって」
「唐突に何を…いや…」
「もう一度聞きますけど、カメジョの金髪美人を連れた男、知りません?それ、僕の姉なんですけど」
 優しいだけでは駄目なんだよ、強くなくっちゃ…僕の碧眼へきがんに見下されてオロオロしてるようじゃ力不足だ。美しい姉にそっくりな僕の前で認めてみろ、そして分不相応な己の姿をね。
 マウントなんてみっともないけど僕だって姉を守りたいんだ。
 真意に気付いたのか坂を降りて来る車に気を取られつつも彼は僕の方を向いて、
「……参ったな……あの、たぶん僕、だよ」
と短髪の頭をポリポリ掻いた。

 坂を降りながら僕らは話をして、クマさんの人柄や外見への自信の無さ、そして姉を大切に想っていることはよく分かった。美人な姉をアクセサリーみたいにはべらすような男じゃなくて良かった、そんな気持ちで家路に着く。



「ただいま」
「おかえりー…礼央、休みなのに制服でどこ行ってたの?」
リビングの姉は明るく僕を迎えてくれて、しかし行き先を伝えてなかった僕が「カメサン」と答えるとみるみるその顔色を変える。
「礼央、なに…カメサンって…大輝たいきくんの学校じゃない」
open campusオープンキャンパスが今日だったんだよ」
「知ってるわよ、手伝いに行くからってdateデートしてくれない…まさか会ったの⁉︎」
「うん、お話して来たよ」
「なんで」
 どすどす詰め寄るその澄んだ瞳に僕が映る。
 彼氏に粗相そそうをしてはいまいかと迫るその顔は意外や怒気は含んでいなかった。たぶん危惧しているのは僕のせいで自分がフラれることとか自分の良くないところをクマさんがこぼしてないかとかそんなところだろう。
「姉さんが会わせてくれないからじゃん。変な奴だったら別れさせようと思ったんだぁ」
「…余計なことを……それで?どうだった?」
「んー…handsomeハンサムではなかった」
「なんでよ⁉︎超カッコよかったでしょ⁉︎」
 これは怒りポイントみたいだ。
 姉は背伸びして僕の両耳を摘んでびんびんと外へ引っ張る。
「古臭い顔、僕より背が低いのに顔は大きいし」
「礼央の顔が小さいんでしょ、紳士だったでしょ?」
「親切だったよ、聞き込みした人もそう言ってた。誰にでも優しいみたい」
「そんな八方美人じゃないの、紳士なの!」
「西郷どんみたいだった」
「ならhandsomeでしょ」
「どこがだよ」
 この辺りの美的感覚はどうも合わない。姉は特別不細工が好きという訳ではないみたいだけど流行りの美男子は好みでないらしい。
 特に化粧をする男は嫌いらしく、『素材を生かした最低限の手入れが男らしい』と、割と古風な性への価値観で生きている。
 ちなみに僕も姉が苦手そうな線が細い男子だが、眉も肌の色も生まれ持ったものだから弟という贔屓ひいき目を抜きにしても許されているらしい。何を許しているのか知らないが。

「…見た目はまぁ良いわよ…価値観が違うんだもの…でも、良い人そうだったでしょ?」
「うん。姉さんのこと、大事にしてくれそうだった」
「そう…ふふっ」
kissキスまでしたんだって?」
「…なんでそんなことまで聞いたのよ」
「クマさんが教えてくれたんだよ」
「ウソ、礼央がしつこくしたんでしょ!てか何よ、クマさんって」
「僕だけの渾名あだな♡」

 クマネズミのやり取りを説明するのも面倒だし慌てふためく姉を楽しんだし今日はもう充分だ。
 自室へ入り制服を脱ぎ落とすとどうしてもシラトリさんとのことが思い出された。
 熱い視線は貰ったけどそれは僕に対してではなく、題材から得たインスピレーションを脳内で「どんな作品にしてやろうか」とイメージしてワクワクしている時の興奮によるそれだ。でもその目にドキドキしたし喋らなければあのまま僕も完全に元気になってワンチャン行けてたりして、作家とモデルの疑似恋愛って無い話じゃないだろうし。
 しかし僕を追い払うために局部を見せろなんてたいした女だよ、どちらに転んでも自分に利があるんだから。

 まるで変質者に遭った気分だ、いや脱いだのは自分なんだけど。
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