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Capitolo5…Miniere
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しおりを挟む暗い廊下の先の908号室、彼女を追って入るとすぐに冷たいお茶が差し出された。
「飲んで、ミイラになっちゃうわよ」
「うん…」
ペットボトルを逆さにして一気…ごぽごぽと加湿器のタンクみたいに水分を吸収して、減って行くお茶を見ればシラトリさんは慌てて冷蔵庫からもう1本取り出して固唾を飲んでいた。
「んぐ…ん…」
「レオくん…暑いの苦手なんでしょう?あんな所で張り込みなんて…馬鹿じゃないの」
「………ぷは……はぁー……会いたかったから」
「浅はかね、私が通り掛からなかったらどうするの」
「会えない時のことは考えてなかったんだ」
「これだからガキは…ふん」
そうだよガキなんだ。
この期に及んでも僕は自分の目的が正当なものだと思っているし幸運を実力だと勘違いして作戦成功した気になっている。
だから悪態をつく彼女の不遜な口ぶりに腹が立ったし、嘘をついた罪をどうにか償わせたいなんて思い上がっていた。
「嘘ついたシラトリさんには言われたくないよ。あんた、本当は何て名前なの」
「言う必要ある?」
「無いけど…shockだったんだ、展示室にもいないし教員でもないって言われるし…夢か幻だったのかって本気で自分を疑ったりした」
「あははっ…それで?なんで会いたかったの?」
何というかやさぐれ感、初対面のあの日と化粧は変わらないのに彼女はえらくつっけんどんで吐き捨てるような物言いで印象が違う。
ストーカー紛いのことをしたのは気持ち悪かっただろうが僕だって裸を担保に入れてるんだから連絡先くらいくれて当然だろう。
むしろ大人のシラトリさんから名刺くらい差し出すべきだったと思うのだ。
「……作品、見てみたかったから…連絡先教えたかったし…聞き込みしてるうちに悔しくなったからってのもあるよ」
「あらそう」
「…ガキ扱いされて悔しかった」
「ガキなのは本当でしょ、見込みも無いのにこんな炎天下で待ち伏せって…馬鹿よ」
「なんで気付いてくれたの?」
「呼ばれた気がしたのよ、そしたら植木からゾンビが這って出てるから見ちゃうじゃない」
ならやはり作戦は成功した訳だ。
僕はニヤと笑って、でも力が出なくてガッツポーズまでは決められなかった。
「良かった…会いたかった…」
「……そのお茶もあげるから、落ち着いたら帰りなさい」
「…せめて本名くらい教えてよ…こっちは裸見せたんだよ」
「強制はしてないわよ、悪用したりしないから安心なさい」
「…なんでそこまで突き放すのさ」
モデルとして僕を描いていたあの時間はシラトリさんは戸惑いつつも好意的だったはずだ。
マイペースに作業を進めつつ僕の誘いをかわして、でも少しばかり隙も見せていた。
こんなに無愛想に対応する人じゃなかったのに…それともあの時間が精一杯猫を被って嫌々対応してくれていたのか。
だとすればまたこの部屋に入れてくれたのは何故なんだ。
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